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33話 罠と備え

 転移陣のまばゆい光に包まれた白い視界が開けていく。



「……ここが、ダンジョンの最下層、か」

「気を付けてください……やっぱりここは普通じゃない」


 警戒を怠らず周囲を見回すと、どうにも想像していたモノとは違った。


 一言でいえば宮殿。

 そう言ったところに足を踏み入れたことはないが、そうとしか言いようがない人工的な内装のだだっ広い空間だった。



「もっとおどろおどろしい場所を予想していたんだがな」

「……」



 俺もかなり消耗しているから『索敵』スキルの範囲は狭まっているが、半径20メートル内にモンスターはいないようだ。


「何の気配もないぞ……もしかして地上に転移した、とか?」

「どうでしょう……こうも静かだと不気味ですね」


 薄暗い明りはあるにはあるが、あまりに広すぎて部屋の端が闇に包まれている。



「……ん?」

「どうしました?」



 部屋の奥の方から微かな物音が聞こえた。

『五感強化』を聴覚に集中し耳を澄ます。



「……何か来る」



 多くの足音。

 それも今までの湧き場(スポット)で湧いてきた数の比じゃない。



唯火(ゆいか)、気を付けろ!とんでもない()()だ!」

「……っ!」



 軍隊の行進のような統率の取れた地を踏む足音、とても普通の建物の中に収容しきれるとは思えないほどの数。

 気づけばその音は二手に分かれ、俺たち二人を包囲する形となっていた。



「……完全に囲まれたな」

「はい、私にも聞こえます」



 お互いの死角を守るように、自然と背中と背中を合わせどの方位からの襲撃にも反応できるように備える。


「この感じ、数百か千か……」


 経験したことのない圧倒的な数の圧力。

 絶対的不利という思考が頭の中を埋め尽くしていく。

 だがそんな中。


「これだけ集まってくれれば、むしろ好都合です」

「……唯火?」


 この圧倒的不利な場面が好都合?

 それとほぼ同時に部屋全体を揺らす行進は索敵の範囲外で鳴り止み、唯火の言葉の真意を聞くことはかなわずそちらに意識を向ける。


(部屋の暗がりで群れの先頭が見えない……まるでこっちの『索敵』の範囲を知っているかのような……)


 嫌な汗が額からあごを伝う。

 対峙したことのない大群がすぐ近くにいるのに見えないという現実に押しつぶされそうになる。


「……」


 動くこともできずに気を張り続けていると。



「ヨク来タナ……人間」



 唸るような低い声があたりに響く。


 俺でも、もちろん唯火でもない。

 この状況で俺たち以外に人語を操り、『ニンゲン』と語り掛けてくる存在は一つしかない。


「……唯火」

「はい。『王』に近い個体。ダンジョンの主です」


 居る。

 間違いなくこの包囲網のどこかに。


「ズット、視テイタ。我ラノ迷宮ニ侵入シテキタ貴様タチヲ」


 ……見ていた?


「貴様ヲ排除スベク、多クノ同胞ヲハナッタ」


 同胞を放った……

 その言葉から行き着く答えは一つしかない。



(意図的なものは感じていたが、本当にけしかけていたのか)



 つまり今の俺たちの消耗からなにまでこの状況全て、モンスターの思惑通りという事か?



「人間ノ、()()。貴様ハ()()()デアリ、危険ダ」



 周囲の大群から金属音が奏でられる。

 戦闘体勢に入ったという事だろう。


「なるほど。唯火の戦力を削ぐために湧き場(スポット)をぶつけ続けてきたという事か」

「……そのようですね」


 これは本格的にヤバイな。



「数コソガ、我ラノ()()ノ強ミ。嬲ラレルマモナク、死ヌガイイ」



 その言葉を皮切りにモンスター達は一斉に雄たけびを上げる。



「来るぞ!」

「ナナシさん!『索敵』でも目視でもどっちでもいいので、確認出来たら合図をください!」

「合図!?どういうことだ!?」

「いいからお願いします!それと私から離れないでください!」

「……わかった」


 唯火が何を狙っているかは分からないが、そんな説明している猶予も無いだろう。

 彼女を信じて意識を張り巡らせるしかない。



「ふーー……」



 見ると、目を閉じかなり深い集中状態に入っている。

 人外の声がひしめく空間でそこだけ時間が止まっているようだ。


 それと―――



(……魔石?)



 いつの間にか足元には大量の、形の不揃いな小さな魔石が散らばっていた。


(これは……ここまで道中、湧き場(スポット)で手に入れてきた魔石か?)


 次第にそれぞれが淡く光を放ち始める。

 揺蕩うように、それらは浮遊し夜闇を照らす蛍火のように、俺たちの周りを照らしていた。



「罠にはめたつもりだろうけど……」



 今だ姿が見えない敵に宣言するように凛とした声を響かせ。



「こっちだって備えてたの……!」


「来たぞ!」



 刹那。

 蛍火はおびただしい光の軌跡を残し、全方位に散り散りに散開する。


 その指揮者たる彼女は、重さを支えるように片腕を天に突き出し吠えた。




「《暴風乱射(テンペスト・ショット)》!!」

本作は、主人公が空気と化したり、突然『必殺技』を叫んだりする、作品です。

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