29話 魔石と兆候
《小鬼迷宮、第2階層の湧き場制圧を確認。》
「……お?」
《特定討伐ボーナス 討伐時に取得したスキル熟練度・経験値の3.0倍が加算されます》
《ワルイガ=ナナシのレベルが21⇒24に上昇しました》
《平面走行LV.5⇒LV.6》
《立体走行LV.5⇒LV.6》
《洞察眼LV.4⇒LV.5》
《読心術LV.2⇒LV.3》
《精神耐性LV.6⇒LV.7》
《目利きLV.3⇒LV.4》
《弱点直勘LV.3⇒LV.5》
《弱点特攻LV.3⇒LV.5》
《ドロップ率上昇LV.2⇒LV.3》
《近距離剣術LV.4⇒LV.5》
《体術LV.4⇒LV.5》
《直感反応LV.4⇒LV.5》
何度か聞いたことのある文言とともにレベルアップを告げる声。
(特定討伐……なんとなくわかっていたけど、今回の湧き場での戦闘みたいな特殊な条件がそろった時のことを指しているんだろうな)
廃工場で魔物使いのはなったゴブリンたちも一つの群れ、と認識されていた。
細かい分類はわからないけど、とにかく特定討伐とやらは達成すれば見返りもでかいようだ。
でも『武具投擲』スキルは上がらなかったか。
戦闘中一度も使用しなかったからかな、乱戦で使いどころがなかったとはいえ少しもったいなかったかもしれない。
……でも命あっての物種。
ゲームと違ってやり直しができるわけじゃないんだ、欲は自制しないとな。
(それにしても……)
俺一人ではこの降って湧いた大乱闘に対応しきれなかったかもしれない。
ダンジョン経験がある唯火も予想外のこの事態。
……少し甘く見ていたかもな、ダンジョン攻略。
「……唯火」
「は、はい……?」
いきなりの大乱戦に少し疲れたのか、どこか覇気のない様子の唯火だが、俺は構わず言い忘れていた言葉を伝える。
「ありがとうな。パーティーを組んでくれて」
「え?」
「俺一人じゃそもそもダンジョンには入れていなかったって言う前提はあるけど、それでも唯火が一緒に戦ってくれて心強い」
ありがとう。
締めくくるようにそういうと、それを受け取った彼女は。
「~~……っ!」
何やら両頬を手挟むように叩き、その後こねるようにグニグニといじくりまわすと。
「お、お礼なんて……これは私の恩返しの一環なんですから!」
「あ、ああ。そうか、わかったよ……制圧とか言ってたから、ここはしばらくモンスターが湧かないんだよな?ここで少し休んでいくか?」
彼女の奇行に若干面喰いつつ、疲れからくるものだろうと判断し休息を提案する。
「……いえ。確かに無理は禁物ですが、ダンジョンに長居すると何が起こるか分かりません。ナナシさんさえよければ先を急ぎましょう」
「そうか。わかった、このまま進もう」
ダンジョンの事は俺より彼女の方が詳しい。
なにより先の戦闘で証明されたようにその実力も俺を数段上回っている。
(俺の体力がほとんど消耗していないんだ、唯火も当然余裕か……なんか元気だし、心配性が過ぎたか?)
「……あれ?ナナシさんの足下に落ちているのって、『魔石』じゃないですか」
「ん?」
言われて足元を見てみると、確かにこのダンジョンの『鍵』となったものと似た雰囲気な、金平糖のように不揃いで小さなの石の粒が5個程転がっている。
妙な存在感があるから小さくても目に付く。
「魔石、か。名持じゃなくても落とすんだな?」
サイズ感はだいぶ違うが。
「はい。特にダンジョン内の個体はどういうわけかその傾向が強いらしいです。けど、種族問わず魔石自体が希少なもので……湧き場での戦闘とはいえ一度に5個も……」
「そんな珍しいものなのか……ん?」
得心のいかない唯火をよそに、俺は一人ピンときていた。
「もしかして、『ドロップ率上昇』のスキルが関係しているのかもしれないな」
ステータス画面を開き。
ほらコレ、と唯火に見せる。
「『ドロップ率上昇』……なるほど、私は聞いたことありませんけど、名称的にそうかもしれませんね」
「な。まぁ、とにかくもらっとくか……じゃあ、唯火」
「え!?」
その利用価値を知らない俺が持っているより、魔石を扱える【宝玉使い】の職業持ちである彼女が持っていた方が良いと判断し、5個とも彼女に渡すと大層驚いた顔になる。
「そそそ、そんな、受け取れませんよ!いいですか?ナナシさんは知らないかもですけど、『魔石』というのは、武具生成や魔導燃料、そして私のような特殊な職業持ちに重宝されるものなんです」
「『魔導燃料』・・・?」
まくしたてるように力説する彼女の口から聞き覚えの無い言葉が発せられる。
「世界が変わり、この半年という短い期間の中でも力を入れて研究が進められているモノの一つなんです」
「はぁ、そうなのか……?」
まるでピンとこない……初めてダイヤモンドの原石を見つけた人間もこんな感じだったのだろうか?
「わかりやすく金額で言ってしまえばその小さな魔石でも50万は下らないですよ」
「まじで……?」
種族で価値はかなり変動しますけど、と付け足す。
この粒みたいなもにそんな高値が付くのは驚きだが、目が覚めてから退院時とその後の一食、そして池さん達への酒以来、貨幣の取引をしていないのもあり、俺の中で金の価値は希薄になりつつある。
(ていうか、唯火の使ってた魔石はピンポン玉くらいあったよな……そんなもの武器に使ってるのか)
壊れたりしないのか心配だ。
「なので、そう簡単には受け取れません。それほど価値があるものなんです」
そう言われてもな。
今のところ、俺自身必要性を感じない。
物を知らないだけだろうが。
「わかった。じゃあ分け前を分配しよう。俺は2個もらう、唯火は3個受け取ってくれ」
彼女に頑固な部分があるのは知っているので間を取った案を提案。
「でも、これはナナシさんのスキルで―――」
「いいから。ダンジョン攻略したあともずっと公園にいるってわけじゃないんだろ?あてがあるのか無いのか分からないが、路銀にでもあてとけ」
渋る唯火を遮って無理やり持たせる。
ダンジョンを攻略していく中でまた魔石が出たら同じく分配する、と強引にまとめると。
「……わかりました。ありがたく頂いておきます」
「そうしてくれ」
なんやかんや魔石について話しているうちに少し休んでしまったな。
「それじゃいくか」
「はい。急ぎましょう」
ダンジョン攻略再開だ。
この時俺は、
魔石の話に気を取られ、唯火に感じた微かな違和感を深堀することはしなかった。




