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3話 ステータス?

 目の前に現れた半透明な板を、呆けたように凝視する。


「ユニークスキル、《器用貧乏(きようびんぼう)》?」


 なんだこれ。何でいきなりこんな板っぱちに煽られてんの?

 ていうか何とか読めるけど、ところどころ書体がグニャってるし、全体的に砂嵐直前みたいにガザ付いてるんだけど。

 そう言えば、目の前の医者の前にも同じものが出てきたよな?


「……先生。この文章、先生が……?」


 不機嫌さを隠そうともせずに、中川先生をにらみつけると。


「違う違う違う。落ち着きなさい。私からは何が書いてあるかもわからんのだよ」


 じゃあ何だというんだこれは。


「まぁ無理もない。初めてこれを見た人は大体そんな反応になるだろうしね。もう半年ほども前のことだからよく覚えていないが、私もそうだったろう」

「……すみません。話、聞かせてもらってもいいですか?」


 静かにうなずくと、先生はゆっくりと丁寧に語り出してくれた。


 俺が車にはねられたあの日、世界中の人間が頭の中に響く声を聞いたと。

 その直後、全人類に『ステータス』と呼ばれる個人の能力を可視化、数値化したものが出現し、『レベル』という段階の増減でステータス(それ)も増減すること。

 殆どの人間が、以前より身に覚えのある経験などが『職業(ジョブ)』や『スキル』として覚醒したこと。

 異形の生物が世界各地で目撃され始めたこと。その発生源、すみかなどが謎に包まれていること。

 そしてそいつらが人を襲う事例が多発し、また、ステータスを獲得した人間同士でも争いが起きることは珍しくなく、それらを統治するための法整備や対抗するための組織づくりが急ピッチで行われていること。


「―――程度はあるが、皆いきなり超常的な力を手にしてしまったからね。大いに混乱したしよからぬことに力を使う者も少なくない。そんな状況が半年経った今も、続いている」

「……なんとも、信じがたい話、ですね……」


 だってそうだろ?

 いい年した医者のおっさんから真面目な顔で面と向かって、ステータスだのレベル、ジョブ、スキル、果ては異形の生物ときたもんだ。

 あらゆる物事に深く関われない俺でも知っている、まるでゲームやマンガの話だ。


「論より証拠。私の手を見ていてください」


 そう言うと、手の平の上にソフトボール大の火の玉を生み出して見せた。


「……マジ、か」


 あまり室内で使うと火災報知機が鳴ってしまうからね、と言い、火の玉はフッと消えた。


「こんな風にあの日を境に、人類は超常の力を身につけた。ということさ」


 さすがに受け入れるしかないな、この目で見たら。


「でも、病院はちゃんと機能しているみたいだし、世界はそこまでめちゃくちゃにはなってないんですね?」


 いきなりこんな超常の力が降って湧いたら、それを使って悪事に手を染めるものはごまんといるだろう。

 もっとこう……文明が崩壊してもおかしくないんじゃないのか?


「皮肉にもある種の抑止力があってね。さっきも話した異形の生物。なぜか、スキルをはじめとした力を多く使う場所に集まってくるんだよ」

「……じゃあ、さっき先生が火の玉出したのもまずいんじゃ……」

「あの程度なら問題ないんですよ。もっと、それこそ人の命を奪うような脅威に引き寄せられるようで、先ほどの炎程度なら、ステータスに目覚めた人類にとって軽くやけどするくらいです」


 だから迂闊にそういった力を使って大規模な悪さが出来ないってことか、異形の生物とやらが集まってしまうから。


「なるほど、ありがとうございます。確かにこんな訳の分からない世界じゃ、名前が無くなったところで不思議でもないかもしれませんね」

「今話した内容は今の世界の常識です。こんな世界になった今でも、それなりに社会は回っています。あとはご自身の目で確かめてみてください」

「……俺はもう、退院しても大丈夫なんですか?」

「はい。それを伝えにきたというのもあります。ステータスの恩恵がなければ危険なところでしたが、すでに完治しています」


 ステータス。

 死に場所を探していた、事故直前の俺が聞いていたら余計なことを、と思った事だろう。

 けど今なら少し感謝できる、一変したこの世界がどうなっているのか確かめたいという好奇心が湧いてきている。


「もうすこし、振り回されてもいいかもな」


 今はどうして自分の名前が消えてしまったのかなんて原因は置いておく。



『お前は何者にもなれない』



 名を失った俺は、その言葉通り何者でもなくなってしまったのか?


(知りたい……)


 もし何者でもないとしたら、俺はいったいこれから何者かに成り得るのか。


 喪失感よりも、どこか解放された清々しい気持ちと、とめどなく溢れてくる執着と好奇心。物事のたらいまわしにあい、虚無に眼前の義務をこなしてきた以前には抱いたことがない感情だ。


 退室していく先生に目もくれず、目の前のステータス画面を見ながら、久しぶりに目標のようなモノが出来たことに内心歓喜していた。


「さしあたってまずは……」


 画面上に指を滑らす。

 不思議と操作方法が頭の中に流れてくる。


「ステータス。こいつの理解を深めないとな」



 名:----

 レベル:1

 種族:人間

 性別:男

 職業:無職

 攻撃力:10

 防御力:12

 素早さ:8

 知力:8

 精神力:9

 器用:172

 運:5


 状態:運動不足

 称号:無し

 所有スキル:無し

 ユニークスキル:《器用貧乏(きようびんぼう)

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― 新着の感想 ―
世界が一変したことよりも100業種グルなんか?ってレベルで不当解雇してる事の方がホラーなんよ
ダンジョンとか出ました!世界が一変しました!でも普通に世界は回っています! みたいなのはよく見るけど名前すら消え失せるのは初めて見たかもしれん。にしてもスキルが器用貧乏とか切ないなー 水準が高まれば万…
[一言] 半年も寝ていたら、筋肉衰えていて、すぐに歩けないよ。何らかのステータスの力で歩けるようだ、くらいの説明が欲しいね。
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