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26話  小鬼退治

 背に重厚な扉が閉まる振動と空気の流れが遮断されたのを感じる。



「……行きましょう、ナナシさん」

「ああ」


 隣を歩く唯火(ゆいか)の表情を窺うと、先ほどまでの茶目っ気ある雰囲気は鳴りを潜め、固く、研ぎ澄まされたものになっていた。


「それにしても、本当に思ったより明るいんだな。言っていた通りだ」

「はい。ですが気を付けてください。ここは既にモンスターの巣窟(ホーム)、いつ明りが消されるかわかりません」


 光源がどこにあるのかはわからないが、どういうわけか彼女の表情がはっきり見えるくらいに明るい通路を進む。

 人工物か自然物かあるいは両方か、そんなもので構成された狭い通路。

 音は思ったより反響することはない。



「……ん?何か音が聞こえるな」

「……」



 そんな中、距離が離れているであろうこちらにも聞こえる程、無警戒で無遠慮な音。


「モンスターの声か」

「そのようですね」


 随分早いお出ましだ。

 ちょうど曲がり角の向こう側から聞こえてくる。


「最初の会敵だ、慎重に行こう……そこの角に身を隠して姿をまずこの目で見る」

「わかりました」


 小声で唯火と一言交わし、俺を先頭に角からモンスターの様子を窺う。

 すると


「ゲギャァ……」

「ゲェ」


 もうかなり聞き馴染みのある声とその姿が露わになる。


「情報通りだ、唯火……ゴブリンだ」

「はい」


 流石に俺も全くの無知、無策でダンジョン攻略に挑んでいるわけじゃない。

 事前にダンジョンに入ったことがあるという唯火から、実体験を交えた有益な情報を得てそれを踏まえたうえで今ここにいる。


 その時はまさか彼女もいっしょについてくる羽目になるとは思ってもいなかったが。

 とにかく、最も俺にとって有益だった情報がこれだ。


『出現したダンジョンに生息するモンスターは、条件を満たした際に倒した名持(ネームド)、または鍵となった魔石の持ち主の種族に限定されます』


 ゴブリンは初めての戦闘から散々戦ってきた相手だ。

 慢心するつもりはないが、勝手の分からないダンジョンを攻略するうえで全く未知のモンスターより格段にやりやすい。

 まぁ、正直見飽きたが。


(さて、ダンジョン内のモンスターがどんなものか確認してみるか)

「『目利き』」




 名:無し

 レベル:8

 種族:ゴブリン

 性別:男

 職業:なし

 武器:粗悪な棍棒

 防具:無し


 攻撃力:24

 防御力:28

 素早さ:19

 知力:9

 精神力:10

 器用:5

 運:2


 状態:ふつう

 称号:無し


 所有スキル:無し



 お?

 全部のステータスが見えるな。

 多分スキルレベルの上昇と、俺とゴブリンとのレベル差だろうか。

 唯火に使った時はほとんど見えなかったからな。


(それにしても、レベルにしてはパラメーターが低いんだな)


 比べるデータは圧倒的に少ないがなんとなくそう感じる。

 やはり種族ごとで上昇値などが変化するんだろう。


 はじめて戦ったゴブリンたちのレベルは今となってはわからないが、恐らくダンジョンにいるこいつらよりは低かったと思う。

 レベル1だった俺でも倒せたのも頷ける。


(レベル8か。魔物使いのことを考えると決して低くはないかもしれないが、奴はモンスターを隷属させる厄介なスキルを持っていた。けどあのゴブリンたちは所有スキルは無し・・・)


 最初の階層だとこんなものか。

 唯火の情報だと下層に行くにつれてモンスターの強さが増していくらしいから油断は禁物だが。


「やるか」


 問題なく倒せる。

 相棒のショートソードに手をかけ。


「俺が片付ける。一応背後の警戒を頼む」

「わかりました」


 剣を抜き、足音を潜め角を曲がると少し開けた空間に5体のゴブリン。



(不意打ちになるが・・・)



 まず背を向けたゴブリンの首を背後から刎ね、手に持つ棍棒を奪う。

 残り4体はこの時点でまだ戦闘体勢にも入れていない。


(体が軽い・・・)


 ゴレイドを倒した時の大幅なレベルアップ以降初めての戦闘。

 強くなったことを実感しつつ。

 身体はゴブリンを倒すための最適解で動き出し。


 一足飛びで2体のゴブリンをすり抜けながら首を落とす。


 着地と跳躍を同時に行い、4体目の側頭を地へ蹴り下ろし、奪った棍棒の投擲による追撃で頭蓋を割る。


 そして今だ困惑する残った5体目の眉間に剣を投擲し壁面に張り付けた。


 結局ゴブリンたちは為すすべもなく俺に蹂躙された。


「・・・悪いな」


 絶命したゴブリンから剣を引き抜くと地に崩れ、ダンジョンに溶け込むように消滅する。


「死体は、消えるのか……?」


 ゴレイドを倒した時と似た感じだった。

 見ると、ほかの4体も同じように消滅していった。


「お見事です。ナナシさん」

「まだ、最初の階層だからな」


 背後からの襲撃の心配も杞憂だったようで、唯火は心底感心したように隣に並ぶ。

 すると一転、怪訝そうな声色で続ける。


「……本当に、複数の職業を使うんですね……」

「ん?」

「いえ、その……すみません。なんでもないんです。今はダンジョン攻略に集中しましょう」

「……ああ」


 何でもないという人間が、本当に何でもないという事も無いだろうけど。

 言う通りダンジョンの攻略が最優先だ。


 俺と唯火は歩みを再開しダンジョン内を進んでいった。

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