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24話 脈動

「ダン、ジョン・・・」



 あれ、だよな。

 モンスターとか罠とか宝箱とかある、建物というか地下というか……

 あれだよな?


「この半年間、世界中で出現が確認されているようですが、その数は決して多くはないらしいです。私も実際に見るのはこれで二つ目です」

「そうなのか?」

「……はい」


 なんというか、こう、実感するな。

 今まで見慣れた文明の景色の中にモンスターが出てきていたから、まだなんとなく人間(こちら)側のホーム感があったが。

 目の前の建造物は明らかに異様。


「本当にこんなものが、現実にある世界になったんだな……」

「……」


 そして唯火(ゆいか)はこう言っていた。


『モンスターの巣窟』


(もしその言葉通りの意味なら……)

「でも、安心してください」


 心でも読んだのか、俺の中に生じた焦燥に答えるように彼女は言う。


「この迷宮(ダンジョン)は、まだ活動していないようです。入ることも、中から出ることもできないと思います」

「活動、していない?」

「はい。まぁ、その状態になったとしても中からモンスターが出てくることも、周辺の地上一帯にモンスターが湧いて出ることもしばらくは基本的にないんですが」


 私の知る限りでは、と付け足す。


「要するにダンジョンが活動をしていないなら、干渉もできないし危険もない、ということか」

「はい。今のところは」

「しかしなんだって急にダンジョン(こいつ)は現れたんだ?それに、その口ぶりじゃ活動しているダンジョンがあるってことだろ?ここだっていつそうなるか……」


 現状安全だとわかった目の前の門を観察しようと近づきながら疑問をこぼす。

 すると唯火はその答えも持っているようで。


「ダンジョンが出現した理由はわかっています。それと、活動を開始する明確なきっかけ……『鍵』とでもいうんでしょうか」

「きっかけ……『鍵』……?」


 俺の横に並び続ける。


「一つに、このダンジョンが現れた理由。いくつか条件のようなものがあるらしいんですが、すでにこの一帯でその中の一つに該当する現象が起きました……ナナシさん。いえ、私の引き起こしたことかも知れないですね」

「?」

「……名持(ネームド)モンスターの討伐」


 ゴブリンジェネラル、ゴレイドの事か。


「私が以前に入ったダンジョンも、同じ理由で出現したと聞いています……その時名持(ネームド)討伐には関与していなかったので聞いた話になってしまうんですけど」

「……」


 彼女が持っている情報をあてにはしていたが、思った以上にこの世界の事情に明るいみたいだ。


(……()()()()()()()?)


 ダンジョンに入ったこともあるって言うし、そんな時間で普通ここまで情報を絞れるんだろうか?


(病院の話では公じゃ、スキルやステータスの情報を取り扱うだけでデリケートに扱われるらしいのに)


 それに眠っていた俺にとって半年というのは取り残されるには十分な時間だったが、あの手段を選ばない魔物使いでさえレベルは5だった。


(俺自身のレベルの上昇率から、半年という時間で唯火ぐらいのレベルへ到達するのはそう珍しいものではないかと勝手に思い込んでいたが……)


 彼女の強さ、情報量。

 今まで聞いた話しぶりから、今まで単独で行動していたわけではないだろう。


 そしてそれが、この情報源の出どころだろう。


(俺が聞いていないだけだが、唯火の素性には秘密があるのは間違いない、か)


 ゴレイドを倒し助けたのに何の悔いもない。

 彼女の人柄に悪い印象は抱いていない。

 嘘をつかれている様子も無い。

 本当に短い付き合いだが、最低限の信頼を得ていると思う。



(だったら、いいよな?唯火(この子)は手放しに信じちまっても……)



 唯火を思い、つまらない自問自答をしているとふとあることを思い出す



「あ、名持(ネームド)と言えば……」

「どうしたんですか?」



 ポケットに入れっぱなしにしていたあるものが関係しているかもと思い話を切り出す。


「いや、実はこれなんだが……」

「キレイ……これは、宝石……じゃなくて、『魔石(ませき)』?」


 緑色の卵大の石を彼女に手渡すと興味深そうにそれを眺め、これまた聞き覚えのない単語をこぼす。


「なんだかわからないんだが、あのゴブリンジェネラルを倒した後落ちていたんだ」

「え……!?」


 唯火が驚きの表情を見せた瞬間、彼女の手のひらに乗った石は、あふれるような光を放ち始める。



「な、なんだ!?」

「うそ・・・」



 光る石は手を離れ浮遊し、ダンジョンの入口へと吸い込まれる。

 門にぶつからず溶け込むようにすり抜け。



「門が、脈打ってる……?」

「……ダンジョンが、活動を始めました」

「何……!?」



 数回だけダンジョンから発せられる鼓動を耳に聞きながら、唯火はとんでもないことを言い出す。



「今のが……今の『魔石(ませき)』が、ダンジョンが活動を開始するための、『鍵』だったんです。ごめんなさい……私が不用意に受け取ったばかりに」

「今のが鍵?どういうことだ?」

「……今の魔石は、名持(ネームド)だけがドロップする魔石……『魔力』を持つ者が触れると、鍵としての役割を発揮するんです……ごめんなさい」



 つまり魔力が発現していない俺が持っていても何ともなかったけど、魔力を持つ唯火に俺が渡したから反応したってことか。


「……いや。俺の不注意だ。得体のしれないものならまず確認するべきだった、すまない」


 あの魔石が魔力を持つ者に害をなすものだったら、取り返しのつかないことになっていた。

 唯火に落ち度はない。


「ナナシさん……」

「気にするな。それに、こちらから入れるようになっただけで中からモンスターが出てくることもないんだろう?」


 さっきの話だとそうだったはずだ。


「……その話には続きがあるんです……私が知るのは、3週間」

「何の話だ?」


 緊張感を増していく彼女の表情が不吉さを加速させる。



「ダンジョンが活動を開始してしばらくすると、そのダンジョンに生息するモンスター……それらを()()()存在が現れるんです」

「統べる……ゴブリンジェネラルみたいなやつか?」

「いいえ、もっと別次元の……その種の『王』というか……そんな恐ろしい存在です」

「……おいおい。まさかそんな化け物が……」



 嫌な予感ほどよく当たるもんだ。

 次の彼女の言葉にそう思わざるを得なかった。



「はい。配下のモンスターを引き連れて地上へ進出し、その一帯を支配下に置く習性があるようです」

「まじかよ……」



 魔物使いを退けて、モンスターの湧きも収まってきたっていうのに。

 みんなここ以外に身寄りがない、こんな世界になって他に安全に住める保証もない。


 そんな化け物が出てきたら、この公園にいるみんなは間違いなく……



「どうにもならないのか……」


「……一つ。方法はあるにはあります、世界でも数件しか成しえた前例無いらしいですが」

「……聞かせてくれ」



 今は唯火の情報に頼るしかない。



「モンスターが地上へ侵攻するまで時間があるのは、それまでにそれを統べるモンスターが出現していない、もしくはそれになり得るモンスターが成長段階だからという仮説があります」

「なるほど、そいつがいるならハナから外に出てきているはずだもんな」


 だったらダンジョンの入口なんか作らず機を窺っていればいいのに……

 いや、順番が逆か。

 ダンジョンが先に出現するんだから。


「はい。そして、それがいる場所はダンジョン内の最下層。そこへ行き条件を満たすと、ダンジョン内のモンスターは消滅し、そのダンジョンをこちらの支配下に置けます」


 そういうことか。



「つまり、その『王』が出てきて手が付けられなくなる前に、ダンジョンを制圧する……ってことか」

「はい。その猶予が数日か数か月か、あるいは数年なのかはわかりませんが」


(それでも、やるしかない)



 噴水を破壊し、地から生え出た入り口を見上げる。



「中がモンスターの巣窟だろうが、罠が待っていようがやるしかない」


「……あなたなら、そういいますよね」



 唯火が何かをつぶやいた気がして振り向くと、彼女はどこか物憂げな表情で頷いた。

 その儚い肯定に背中を押され俺は決意を言葉にする。




「ダンジョン攻略だ」

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