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23話 世界のルール

 いきなり笑い出した俺は、彼女の目にさぞ奇怪に映ったことだろう。

 いや、誰の目にも情緒不安定な人間に見えるだろうな。



「あぁ……そうか、俺は『生まれた』んだな」

「?」



 エポックメイキングっていうのか?

 唯火(ゆいか)の話を聞いて気付かされた。

 今まで命を懸けてもいい執着先だの、自分が何者かだののたまってきたけど。


(思い返せば結局俺が追っかけていたのは、過去の自分。『()()()()()()()』?)


『器用貧乏』と自分を呪い。

『何者にもなれない』言われた、過去の自分。

 けど、目の前の彼女は今の俺がこの世界に新しく生まれたと言った。

 なら、半年前の俺は、前世の俺。


 今の俺は、今。

 生まれた。




 ワルイガ=ナナシ。




(病院で、目が覚めて、つかんだような気がした光明。こいつだったんだ)


 俺だった俺はもはや俺じゃない、

 月並みにいえば、生まれ変わったんだ。


「……でも、捨てはしない。前世(今まで)の俺も、全部俺なんだ」

「??」


 そして、今の俺は、その先の俺は、これからの俺だけのもの。


「あ、あのー、ナナシさん?」


 見ると、いい加減かなり怪訝な視線を受けていることに気が付く。


(今思い至ったことをこの娘に話しても変人扱いされるだけだよな)

「いや……なんでもないんだ……ありがとう」

「???」


 自分の中に沈み込む思考は中断し、

 きっかけをくれた唯火に感謝を告げた。

 自分の中で会って間もない彼女の存在が俺の中で少し大きくなったのを感じつつ話を再開する。


「とにかく、俺は今後『ワルイガ=ナナシ』って名乗る」

「は、はぁ……」

「もうほかに聞きたいことはないのか?」


 彼女からの質問に答える流れだったのを思い出し催促すると。


「あ、あります!ナナシさんの年齢を知りたいです」

「22だ」

「あ、四つ上……やっぱり年上なんだ」


 そっかそっか。

 と一人頷きながら何やら考えている様子。


(となると、唯火は18か……思った以上に若いな)


 物腰(今は大分崩れているが)の感じから同い年か若干上かとも思っていたが。

 人間の一生から見たら大した年齢差ではないと思うが、この半年の変化で言ったら別だ。


(目が覚めてから俺もそれなりに地獄を見たと思っていたが……この娘のレベルを考えると)


 俺なんかよりももっと修羅場を潜り抜けてきたんだろうな。


(さっきの動きと俺を恐怖させた謎のスキルがそれを物語っている。パラメーターだけじゃなく所有スキルの質も俺を上回っているに違いない……あ、そういえば)


「そうだ、ゴレイドと戦っとき全開でスキル使っちまったんだったな……」


 魔物使いと戦った時よりも練度が増したスキルを使ったんだ、まず間違いなくまたモンスターが湧いてくるに違いない。


「まいったな……」

「どうしたんですか?」


 うなだれる俺に気付き唯火は問いかける。


 ……彼女を助けたことが起因になっているからなんとなく話しづらいが、教えとくか。

 もしかしたら、協力を頼めるかもしれない。


 ていうかさっきもスキル使ってたしな。


「いや、さっき話した通り、魔物使い戦後のモンスター湧きも大分収まってきたところであのゴブリンジェネラルと派手にやりあったからな。また、モンスターが湧いてくるんじゃないかと」

「……あぁ、そうですね。そんなリスクもあったのに、助けてくれたんですね……ほんとになんとお礼を言ったらいいか」


 そ、そう受け止められてしまうと弱い……

 が、次に彼女が言った言葉は驚くべきものだった。


「でも、大丈夫ですよ。多分もう()()()モンスターは湧きません。少なくともこの一帯は」

「……どういうことだ?」

「あのゴブリンジェネラル。人語を操る『名持(ネームド)』。だったんですよね?」

「ああ」


 俺の新しい名前の下りでそのことは話してある。

 名持(ネームド)モンスター、ゴレイド。


名持(ネームド)は、通常のモンスター沸きなどでは出現しないといわれています。各地で目撃される名持(それ)は必ず特殊な条件を満たしたときにのみ現れる・・・そして、名持(ネームド)を討伐した一帯は、スキルを使用しても()()()()()モンスターが出現しなくなります」

「本当か!?」



 その話が本当なら、公園(ここ)のみんなはもうモンスターの影に脅かされないで済む。


「ですが……」


 俺は内心歓喜していたが、彼女は含みのあるように続ける。


「それは、つかの間の安全に過ぎません……」

「……何?」



 その言葉の真意を聞き出そうとした瞬間、地の底から唸り声のような地鳴りを体の芯で感じる。



「これは……」

「な、なんだ?地震?」


「ぉおーーーーい!」



 地鳴りはほんの数秒で収まり、間を空けず今度は山さんのホームレス仲間の一人が騒がしくこちらに駆け寄ってくる。



「はぁっ……兄さん!今すぐ来てくれ、中央の噴水のほうだ!」

「……何かあったのか?」

「いきましょう。ナナシさん」

「え?あ、ああ」



 緊張感漂う唯火の表情に気おされ噴水がある公園広場へと急ぎ。






「なん、だ?これ?」

「やっぱり……」



 ()()()()()()場所で俺が目にしたものは・・・


「門?」

「……」


 唯火は数歩前へ出、



「人類未踏の魔窟にして、モンスターたちの巣窟……」



 そしてこちらを振り向きこう言った。



迷宮(ダンジョン)です」

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― 新着の感想 ―
[一言] 職場に器用貧乏の人間がいたら逆に助かるけどね? 確かに大きく出世するタイプでは無いけど。
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