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230話 合流

 空高く打ち上げられた発光体。


「今の、あれは……」


 その輝きに見覚えと直感を感じ、空を蹴って文字通り一直線に、打ち上げ場所を直下に見る位置まで飛ぶと。


「いた……!」


 木々の切れ間に目立つ金色の髪を見つけ。


「――皆、無事か!?」


 少し開けたその場に急降下。


「わっ! びっくりした!」

「ナナシさん!」

「兄者」


 約一日ぶりに三人と再会することができた。


「――……ピンチ。ってわけでもないみたいか?」


 さっきの派手な信号弾を救援のものを断定してたいたので、剣を柄に手を掛け周囲を警戒。

 索敵範囲内には何も引っかかることは無いようだ。


「ううん。想像通りピンチよ」

「さすが兄者」


 ……いや、そう言うが。さっきの俺の行動は迂闊なものだった。三人が敵に包囲されている窮地だったとして、敵にとっての第三の戦力である俺がわざわざ包囲の真ん中に現れるなんて、間抜けもいいとこだ。


「あんたは……敵を引き連れてきたって感じでもなさそうね」


 とにかく今は切り替えよう。見た感じで焦燥感が伝わってくる。


「朱音は……また服がボロボロだな」

「ま、またとか言うな! 仕方ないでしょ! あんたの方はどうなのよ!?」

「ナナシさん、血だらけじゃないですか!」


 人の事は言えないか。敵の返り血と、肩口の裂傷による出血。

 鏡を見なくても人からどう見えるか想像がつく。


「俺の方はあらかた片付けた。問題ない。傷の止血もした。今は――」


 朱音が『敵』と発言したのなら、里においても結界が消失し『異種狩り』が現れたことは周知の事実。

 その上での、先の信号弾。


「里がヤバいんだろ?」

「……は、はい! キキョウさん達が……っ!」


 キキョウ……確か、里でやり合った鬼人族の女戦士か。

 彼女の戦闘力は俺が倒してきたそこいらの連中よりも数段上な印象。空で戦ったやつ相手ならまだしも、そうそう後れを取ることは無いとおもうが……


「とにかく、里に向かいながら聞くよ」


 リスクを承知での信号弾。

 立ち話している猶予はなさそうだ。


「行こう」






 ::::::::::






「……異種族のみが感知した嫌な感覚。直後に突然攻撃してきた、か」


 救援を求めた経緯が、森を駆けながら唯火の口から語られる。


「はい……サクラさんがその場を押さえてくれて。私たちはその元凶を何とかしてくれと託されました」

「『異種狩り』とかいうやつらの仕業なんでしょうけど、どういうタネなのかも検討も付かないし……五感が人外のあんたに助けを求めたってわけ」


 なるほどな。

 と言っても正直、俺も話を聞いただけじゃ何の判断も付かない。


「大筋は分かった。俺もちょうど里へ様子を見に行こうと思っていたところだ」

「そうだったんですか」

「すまない兄者。かえって足止めしてしまったかも」

「いや――」


 里の異種族の凶暴化。

 聞けば、あのおどおどとした鬼人族の女の子も朱音に爪を向けたという。一時的なものかは分からないが、人間と見れば問答無用で攻撃を仕掛けてくるのが、キキョウ一人とは限らないはずだ。

 そんな状況で人間の俺が何も知らずに里に入っていれば、確実に血は流れていた。


「皆と合流出来て助かった。よく知らせてくれたな、唯火」


 あんなド派手な合図。唯火にしかできないだろう。


「い、いえ……頼ってばかりですみません」

「役割さ。俺も頼りにしてる……三人ともな」

「……?」


 ……らしくなかったか?

 皆それぞれ神妙な顔つきだ。少しエラそうな物言いでもあったか……俺自身、ふと本心が零しちまった感じだ。


(――甘えてるのかもな)


 昨晩襲われた孤独感、今日だけで斬り捨てた数多くの、命の重責。

 見知った彼女たちの顔を見て、正直なところ……すごく安堵した。



「ナナシさん、あの――」



 ――ダメだ。

 今はいらない感情だ。この甘えは枷になる、綻びになる。

 俺は俺の知る通り弱い奴だ。だから何度も小さな決意を繰り返す。忘れないように、零さないように。見失うなわないように、何度も刻む。


 今すベきことは、敵を完全に潰すこと。


「――ほかに情報はないか?」

「ぁ……他には、ですね……」

「そういえば! あんた里の外でエミル見かけなかった?」


 そうだ、今の状況は――


「エミルか……」

「ナナシさん? 何か知ってるんですね? 今朝里の外に出たっきり戻って無くて――」


 まだ何も。


「エミルは、ミヤコに攫われた」

「「「……え?」」」


 好転なんて、しちゃいないんだから。






 ::::::::::






 ~『濃霧の結界内』ミヤコside~





「ふぅ……これでもう、30体目よ?」

「小娘が……」


 流石に少しウンザリしてきて、たった今命を奪った双頭狼の死体に腰かける。

 でも、思った通り座り心地はよくない。


「いい加減、話ぐらい聞いてくれてもいいんじゃない?」


 辺りには巨獣の屍が無数に転がって、正直獣臭くてかなわない。

 倒すのに苦労はしないけど、返り血を全部避けるのに神経を削られる。


「……ワシの孫娘を返せ」

「もう。それしか言わないじゃない」


 こんな堂々巡りの状況も、全部あのバカ白髪のせい。

 仕事が終わったらシャワーの前にあのニヤケ顔に一発いれてやらないと気がすまない。


(――さて、と。いい加減このおじいちゃんに付き合ってるのも嫌になってきたわけだけど)


 どうにも第一印象が悪すぎる。

 まさか、背中ですやすやと眠っているこの子が『超越者(ちょうえつしゃ)』の孫とはね。


(ずいぶんと孫思いだこと)


 元来の頑固さもあってか、まともな対話の余地もありはしない。

 この状況すらも、()()()()の罠かもしれないというのに。この年寄りもそんなことは分かっているのだと思うけど。


(『超越者』のオトコってのは、こんなヤツばっかりなのかしら)


 もう少し冷静で、世間話の一つもできる余裕くらい欲しいものね。


(それでいて芯が通っていて、確かな熱を秘めた、空気の読める男――)



 ――……あ、れ?



「なんであなたが出てくるのよ!?」



 意識の外から迫る圧へ反射的に蹴りを振り上げると、なにか重量のある生体を蹴り砕いたらしい。

 でも、今はそんなことよりも……


「ぁあっ……! もう! ほっんと不躾な男ばっかり!」

「貴様が言うセリフか」


 まったくもってうんざりする。

 ヘラヘラと馴れ馴れしく、無理難題押し付けたりするチャランポランも。

 人の話を聞こうともしない頑固な年寄も。


(人の、頭の中に――)


 心の中に、意識もせずに居座る男も――




「って、これじゃまるで! 私がまるで――ッ!」

「……さっきから何を悶えているのだ、小娘」


 とにかく体外に発散させなければならないモヤモヤを、襲い来る獣にぶつけた。

 途中から姿も見てないけど。




 そんな、意識が散漫な状況。


「ようやく隙を見せ――」

「……!」


 生まれる隙。


(双頭の挟撃、背後の爪……! 避けるのは容易い、けど)

「っ! 止まれ! その軌道は……!」


 一見追い込まれたこの状態でも、回避は易し。でもそれは、刹那の見切りが成す紙一重の躱し。


(このクソジジイ! 避けたら背中のこの子、死ぬじゃない)


 ああ。今まで自分自身すらも騙す催眠で、世界が変わってからの過去を振り返ることなどなかった私が。

 こんなくだらない、一時の追憶でこんな隙を晒すなんて。


(――仕事は失敗ね。孫のこの子が目の前で死ねば、対話の道は完全に絶たれる)


 ほんと、つまらないミス。


「エミール……!」


 それもこれも、あの男のせい。


「――ああ~っ! もぉっ!」


 なにより――


「! なにを――」


 このザマは……この、痛みは。



「……貴様、なぜエミルを庇った?」

「――そん、なの。私に……聞かないで、よ」






 美弥子(わたし)の、せい。

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