229話 昇陽
(今のところ、敵の気配は無いな)
なるべく樹上を移動し『隠密』を駆使して里へと向かう。
地形はスキルで把握済みだから迷うことは無い。
(道中に、誰かが争った痕跡も無かった)
争いの痕跡。
足跡、血痕、枝木の乱れ。いくらでも情報はある。
それらすべてに、道中不自然な点は見られない。
(里の異種族たちは、皆留まってるのか?)
もう里まではそう遠くない。
この位置で一人の気配も痕跡も無いとなると、里に籠城しているのだろうか。
(なんにしても、結界が消えてパニックの末、散り散りに逃げ惑う。なんて厄介な事態にはっていなさそうだな)
逃げるにしても、きっと統率の元動けているはず。
でなければ今頃、何人かの異種族の遺体を発見してるところだ。
「――ん? なんだ、あれは……?」
進行方向。里がある方角から、緑深いこの山々において不自然な発色を放つ、異様な――
「青い、煙? 狼煙か?」
奇妙なその現象の発生源を探るべく、しなる枝木のバネと『無空歩行』を利用し、見晴らしの良い位置まで飛ぶと。
「交錯の里から、あがってるな」
『異種狩り』から身を隠す、あるいは防衛しなければならないこの状況で、自らの存在をこんなに派手にひけらかす……?
「まさか、結界が消えたことに気が付いていないのか?」
『最奥の森』で、竜人族の姉弟は結界の消失を感知できていたようだが……
「――行けば分かるか」
俺の知らない、異種族間での特殊な合図と言う可能性もある。
「……それにしても、嫌な感じの煙だな」
道行く先の、暗雲。にしちゃカラフルだが、どうにも不吉な予感がしてならない。
なんにせよ、足を速めた方が――
「!」
自由落下に身を任せる中。
「今度は何だ?」
里とこちらの中ほどに位置する辺りから、枝木を飛び出し上昇する。
眩く、輝いた――
「あの、光は――」
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~唯火side~
「てゆうか、ワルイガ呼ぶのはいいけど、あいつどこに居るのよ!?」
サクラさん達に背を向け駆け出したものの。
「えっと……! て、敵! 敵がいるところです!」
「それが分からないんでしょうが!」
スマホも使えないこの世界では、姿の見えない特定の人物と連絡を取る事などできる筈も無く。
漠然と森を進むだけだった。
「ぁあー、もうっ! ホンットこの世界不便なんだから! 聖夜から魔導通信機ぶんどってくればよかった!」
不便という点では全く同意で、手元に視線を落とす。
(これが使えれば……)
指に通したのがだいぶ昔に感じる。
本来の機能を発揮できていない要因は、今や私にある。
(もう……っ! なんでこんな時に役に立てないの!)
ナナシさんが交錯の里から一人、追い出される形になったあの時。
渋る私にそれを突き出すように見せ、何か見えない絆を感じた様な気でいたあの時の、だらしない顔をしていた自分を思い出して腹が立つ。
「二人とも落ち着いて」
背に負ぶったフユミちゃんが言う。
「なんとか兄者を見つけないといけない。でも、闇雲に戦いに割り込んでも結局足を引っ張るだけ」
「そ、そう、ですね……あっちの状況も分からないし」
「……なら、こっちの居場所を知らせればいいんだ」
フユミちゃんに諭されて、少し冷静になれた。
足を止めて、続ける。
「ナナシさんに私たちの位置を知らせて、合流してもらう。あの人が苦戦してるなら、きっと頼ってきてくれるはずだし。混戦状態にもつれ込んでも協力すればきっとなんとかできる筈」
「……まぁ、あいつなら冷静に状況を判断して、いい感じの流れになるかもしれないわね」
「でも、姉者。どうやって? どうやってフユたちの居場所を知らせる?」
それは――
「ナナシさんは、スキルで空を跳べます。戦法にせよ、移動にせよ。木々に遮られない、最高に見晴らしのいい視点で、戦況を見極められる手段を持ってる」
結局のところ、運任せになる。
「だから――」
魔石の属性を解放。
魔力の出力を高め、炎の輝きを強める。
「そっか! それを信号弾代わりに……!」
『躁玉』の有効範囲は限られてる。
でも、指向性を与えた後の勢いが、コントロール外の領域へと昇らせる。
魔石の炎が燃え続けるかは――
「一か八か……!」
出来るだけ大きく、熱く、眩しく、高く。
「――『昇陽魔弾』!」
誰も気にもしていないだろうけど、
40話 戦いの報酬 で手に入れたアイテムの設定を変更します。




