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226話 違和感

「……一通り片付いたか」


 頬についた血を拭い、手の甲についたそれに視線を落とす。


「少し――」


 今拭ったのは自分のものでは無く、敵の返り血。

 隠密に長けた相手に対し、五感の大部分を索敵に削いでいたから、倒した数は覚えていない。

 覚えていないが――


「ハイになってるな……」


 体中に浴びた夥しい量の鮮血が、周囲の枝葉に滴るそれらが、地に横たわるいくつもの肉塊が、絶命した命の多さを物語っている。

 そんな中でも、池さんの剣だけは血糊が浄化され美しい刀身を保っていた。


「血を、見過ぎた」


 こうして立ち止まって周囲を観察できる程度に、敵の襲撃は落ち着きを見せている。

 静寂を取り戻した森の中、今もっとも騒々しいのは体の中の脈動。

 疲労からくるものではなく、戦闘時の興奮状態によるもの。


(冷やせ……今は)


 この高揚は戦闘において、決してマイナスの面だけではないが。

 戦況が不安定なこの状況では、判断を誤らせる原因になりかねない。



 《熟練度が規定値を超えました》

 《精神耐性・大LV.8⇒LV.9》



 ……このスキルは本当にありがたい。

 これまでの戦い全てを支える影の功労者と言っていいだろう。

 取るに足らない些細な精神の乱れも、状況によっては致命打になりかねない。


(対人戦時に、よく上がる)


 つまり、程度は知れないが、人を斬るたびに俺の精神に負荷が掛かっているという証拠。

 スキル自体も変異し、レベルもかなり上がってきたが、そういったストレスを完全に無効にするわけでは無い。

 過信は禁物、というとこか。


「……それにしても、妙だ」


 殺気が静まり、精神がクリアになると頭も冴える。


「こいつら……()()()()()()()


 戦闘中、連中は終始風下を取っていた。

 いくら隠密に長けた、そういう訓練を受けた、もしくはスキルによる恩恵だとしても……何か違和感を覚える。


「この山々の地形、樹木の群生密度はかなり特殊だ」


 俺の知る従来の植物の他に、見たこともない未知の植物たちも、唐突にそこに現れたかのように入り乱れて群生しているからだ。

 竜人族(ドラゴニュート)たちが居た最奥の森へ北上すると、未知の植物の方が多いくらいだ。

 かなり南下したこの周辺では、既知と未知が混在した大小長短さまざまな木々が、所狭しと乱立している。


(それらが成す、複雑な地形。樹木の迷路のような場所で。常に自分に有利な陣形を崩さずに……?)


 敵が事前に山の周辺に居たのは、この増援の速さから推察できる。

 だけど、連中が待機していたとしてもせいぜい山の麓が良いところのはずだ。


(おそらく俺たちがこの山に入った山道側とは、別の場所)


 緑がより濃く交錯の里に近いこの一帯に、こんな大所帯が潜めるわけがない。

 つまり、この環境は相手にとっても未知なはずなんだ。


 思えば――


「あの風使いは、どうやって里の結界が消えたのを知った?」


 あんな奴が常に上空を飛び回っていたとしたら、誰も気づかないわけがない。


「……山の複雑な環境。結界の消失」


 知り得ない情報を、知り得るには?


「知ったヤツに、聞く」


 それは誰だ? 


(ミヤコ……)


 確かに、今尚エミルの爺さんと戦っている彼女は、結界消失の原因ともいえる。

 事前に襲撃時刻を伝えておけば、連中とタイミングを合わせることは可能だ。

 が、シキミヤと繋がる彼女が、いたずらにフユミちゃんへ危険が迫るようなことはしないはず。

 山については知る術もないが……やはり、先刻判断した様に敵とは繋がっていないだろう。


(……最奥の森)


 そこに異種族なら、住まう山について詳しいだろうが……彼らとは一切の交流を持っていない。

 判断材料が皆無の状態で思考を裂くのは無駄、か。


(結界の消失が発覚したあの瞬間。ギネルと、姉。そしてアティはそんな隙も無かった)


 そもそも、異種族の人たちが自らを脅かすリークを行うこと自体考えにくい。

 過去に生じた種族間の軋轢、その隔てる溝の深さは、散々実感した。


「その線は、考えにくい……」


 けど。


「あり得ない。そう楽観視するには、嫌な胸騒ぎだ……」


 これだけの数を倒したんだ。敵も体勢を立て直すのに時間を要する。

 もしくはこの敵陣営への被害で、リソースとリターンが釣り合わないと判断し引き上げてくれるのが一番。


「いずれにしても――」


 一度、様子を見に行くべきだな。


「交錯の里へ」

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