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221話 敵の影は 

 《熟練度が規定値を超えました》

 《踏破製図LV.3⇒LV.4》


「続々と追撃が来ると思ったが……まるで反応がないな」


 風使いを叩き堕とした場所から、半径500メートル程を駆けまわりながらの索敵。

 だが、敵の姿も気配も一向に捕まらない。

 得られた成果と言えば、スキルのレベルが上がったことくらいだ。


「『踏破製図』、か」


『索敵』のスキルは既に最大のLV.10に達している。

 同じく最大レベルに至っている『五感強化』を併用すれば、その索敵範囲はさらに広がる。

 にも関わらず、影も形もつかめない。


「せめて『踏破製図』がLV.10になっていれば、『索敵』と『五感強化』。この三つで上位のスキルを発動できそうなんだが……」


 探索系の合わせ技は試したことは無いけど、謎の確信がある。

 より広範囲、かつ高精度の索敵が叶う上位のスキル。


「ま、現状無理なものに縋ったところで、仕方がないか」


『踏破製図』の性質上、熟練度を積み上げるには未踏の地を移動し続けなければならない。

 最大レベルにまで上げるにはどれだけの距離を更新し続けなければいけないのか、想像もつかない。

 当然、今はそんな悠長な時間などないわけだ。






「―――敵影、なし」


 無空歩行(エアジャンプ)で上空から森を見下ろす。

 無論、索敵の為だ。


(気配も無い、姿も確認できない……さっきの連中で終いってこともないだろうが)


 存在を感じないからと言って油断などできない。

 先刻、俺自身が戦いに応用した様に、スキルの力をもってすれば人の気配の隠匿など容易い。


(いずれにせよ、里にはまだ手が伸びてない。戦闘があればさすがに気配で分かる)


 後方を振り返り見下ろすと、結界の加護が消え露わになった異種族たちの隠れ里。

 特に異変は無いように見える。


(なら、無策に探し回るよりも、敵の注意を俺に引かせるのが得策か……)


 現状、敵側に気配を消す方法があったとして、気配での索敵が叶わない以上、こちらも同じく隠密行動をとっていては、会敵の機会を失い里の防衛が後手に回ってしまう。


 こちらの目標は場所の特定もできていない不特定多数。

 あちらの目標は場所が特定された多数の異種族。


 どうしたって防衛戦だ。


(それに、さっきの風使いをはじめとした連中。あいつらが先遣隊だとしたら……)




『邪魔な結界がよ、なんだか知らないけど、消えてようやくご入場でよぉ―――』




 奴の口ぶりから、この襲撃は結界が消えたことによる偶発的なものと思われる。

 だが、即座に行動に移れたという事は、既にこの山に目星をつけ監視をしていたという事だ。

 当然、進展があった時、仲間との連絡が取れるような準備もしているだろう。


「増援は必ず来る」


 新たな戦力の投入。

 有象無象の数に頼った戦力投入か。あるいは風使いよりも、格上の……



「―――展開」



 更に空を蹴り高度を上げ、竜鱗の羽衣を操作し変形。

 風を大いに受ける形状、即興のパラグライダー。


「うまく釣ってやるさ」


 どう考えてもこの戦況において、俺自身の存在が敵側に知られていない方が不自然。

 だったらいっそ、派手に目立って最大限に警戒させてやる。絶対的な、任務の障害としての立ち回りで、俺を()りに来るよう仕向ける。


「……そうだ」


 一間の空中浮遊。

 間抜けな絵面だが、これだけ目立てば万一にもこちらの存在を見落とすことなどしないだろう。


「もう一つ、肝心なことがあったな」


 消えた結界の術者。あの爺さんの―――


「……『到達者』の戦闘」


 上空からだとよく見える。

 朱音と共に入り込んだものと同じ、濃霧の結界が立ち込めるエリア。

踏破製図(とうはせいず)』でマッピングされた位置と合致する。

 間違いなく、エミルの爺さんが身を置いているであろう鉄火場は、彼が家を構えていたあの悪趣味な敷地内だ。


 ギネル達の集落と里の結界が消滅し、今も丸裸の状態にもかかわらず、そこに濃霧の結界が施されているのが術者がそこにいる証。



(……爺さんの結界。『到達者』の、結界……)



 術者である爺さんに何かが起きたことは明白。

 けど、それは今回の襲撃に起因するものでは無い。


(爺さんとやり合っているもう一人の化け物は、いったい何者なんだという話だな……)


 この混乱の中、シキミヤみたいなのが居たとしたら、なかなかゾッとしない話だ。


「そいつの目的が、里に向いていないのを祈るしかないな」


 そこはもうあの爺さんに任せるしかない。

 やり合っている相手は恐らく襲撃者たち以上に厄介な存在。加勢に行っても邪魔になりかねない。

 孫のエミルも里に住んでいるんだ。結界の修復に尽力してくれるとは思うが……


「いや、そもそも一度正確な位置を特定された結界が、本来の効力を発揮できるのかどうか」


 確かに俺は一度里に出てからは中に入ることはできなかったが……不安要素は山積みだ。



「考えても仕方がない。とにかく、里を狙う連中は絶対にここで仕留めるんだ」



 その方針だけは―――



「……ん?なんだ?急に気配が―――」


 さっきまでの静けさが嘘のように、気配が露わに、というか騒がしいというか。


「あの辺りか」


 騒ぎの発信源に目星を付けると、風に張った羽衣をかすかに傾け舵を取る。

 パラグライダーと違い、布張り一枚の操作だから中々に―――



「ぅわあああああああ!?」

「―――っと」



 驚いた。

 見下ろしていた森から、この上空まで人間が飛んできた。

 思わず首根っこを掴んでしまったが、片腕でもなんとか羽衣の形態は維持できたようだ。


「ひ!?は?と、飛んでる?」

(こいつの装備……さっきの連中の仲間か)


 狼狽えるあまり状況を飲み込めていない様子。

 まぁ、俺としてもよく分からないが。


「お前、なんでここまで飛んできた?」

「え……だ、誰―――」

「手早く答えろ。落とすぞ」


 あまり顔色の見えない風だったが、目に見えて血の気が引くのが分かった。

 見たところ深手を負っているし、片足も使い物にはならないだろう。

 そんな状態でこの高度から落ちれば、待つのは、死。


「お、鬼。鬼が、暴れて―――」


 鬼。

 飛んできた、敵。

 なるほど。


「そうか。わかるよ、お前の気持ち。俺も同じ目に遭わされたからな」

「へ?」

「安心しろ。お前はまだ運がいい」


 俺の言葉に、こちらを見上げ振り返ろうとする素振り。

 その動作を終える前に。



「下は()()()()()だ。()()よりはマシだろ」

「ああああぁぁぁぁぁぁぁーー―――~~……!?」



 掴んだ首根っこを解放してやった。



「―――さて、ここらで攻勢に出れるかどうか」



 落ちてゆく悲鳴をを聞きながら、羽衣の変形を解く。

 その悲鳴が途切れる前に、空を大きく蹴り、鬼が暴れるというその場へと飛んだ。


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