219話 殲滅
更新と合わせて、あとがきの方にお知らせがございます!
明確に、敵を沈黙させる事に注念するならば、勝負手を限定するのは容易い。
(離れた間合い。剣撃の外から狙う、狙撃)
単純な話。
こっちの間合いまで近づけばいい。
「ふっ……!」
一足で潜む気配との間合いを詰めると、左右に乱立する木々。
(まず―――)
それらを背にし、こちらが一瞬前までいた位置へ視線を向ける、敵。
「―――は?」
「え」
剣の間合いに入った敵が、真横を位置どられたのに気づいたのは。
「二人」
剣閃に喉を裂かれ、鮮血が噴き出す直前。
「なっ―――」
「次」
そこから。
こちらの存在、気配、姿が波及するように発覚。
だが、初動の時点で既に後手。
とはいえ、敵の姿を完全に視認していない状態では、このシチュエーションに最も適した最速の一手。
『瞬動必斬』の発動に必要な『洞観視』と、『弱点直感』の使用条件が満たせない。
ならば―――
(『隠密』に緩急をつけ発動。敵の知覚を煙に巻き)
目前に居ながら、きわめて観測し難い、気配の希釈。
認識の攪乱。
(木々の死角を一足で渡る、足運びで―――)
危機を感知する本能よりも。
対象の警戒が伝番する速度よりも。
速く。
すり抜けるように。
(―――斬り捨てる)
刃についた血のりを払うように最小の一振り。
即座に小さく宙へ放り柄を逆手に持ち替える。
「九……―――」
残る気配は六つ。
今しがた敵を斬り捨てた立ち回りで、流石に事態が動いたことに気が付いたようだ。
後方の木々から明らかな動揺を感じた。
そして、それが緩やかに攻撃信号へと変わるその間に、持ち替えた剣を振りかぶる。
「―――十」
真っ先に敵意が膨らんだ気配から矢が放たれる。
その射角から位置を把握。
そして、敵は射出後すぐさま木を背にし身を隠す。
「ムダだ」
小さく身を逸らして矢を躱しながら。
振りかぶられた剣。
その切っ先は割り出したその位置へ狙いを定め。
「が、は……!?」
「「「!」」」
炸裂音に似た音を響かせた直後、苦悶に呻く声。
遅れて、先ほど躱した矢が後方で、木に突き立つ乾いた音。
それは木の薄皮を削ぐに達する程度。
そして、それを遥かに凌ぐ威を込めた剣の投擲。
その前では―――
「こんな木じゃ、盾にはならない」
『武具投擲・至り』による、高威力な中距離攻撃。
人一人を隠せる樹木を突き抜け、その先の対象すらも貫く今の投擲は、敵の更なる動揺を誘うに十分なインパクトだったようだ。
「―――十二」
先に使用した隠密を併用した高速移動。
ガントレットに収容し直していた短剣で、さらに二人を戦闘不能。
残る三つの気配に目を向けると。
「ひっ……!」
再び、三様に木を背に身を隠す。
ほぼ同時に、一番近い樹木の盾へと短剣を投擲。
だが、
「! おい!」
短剣の質量と刃渡りが不足していたのだろう。
木の胴回りも先程の物より太い。
深々と刀身は突き刺さっているものの、そこに背を預ける敵を貫くことはできてはいない。
「あ、ああ!」
得物を手放した様子を見て好機と取ったのか、他二名は矢を番える。
けど、それには目もくれずに駆け出す。
「「速っ……!?」」
目標は、木に突き刺さった短剣。
その柄の先に―――
「―――ぶ、ぐ」
走力で高めた蹴りを放つと、樹木は裂けるようにへし折れ。
蹴りに突き出された切っ先は敵の鳩尾を貫いた。
「う……」
蹴り跳ぶ肉体が、地に背を着く前に。
「うわぁあああああああ!!」
残った者から発せられる、自棄になったような咆哮。
視ずともわかる、お粗末な攻撃への転換。
番えた矢が放たれるが―――
「は、ぇ?」
悠長な一連の動作の間に『隔絶空間』により回収していた短剣の投擲が、その頭部へ。
間の抜けた断末魔と、膝から崩れ落ちる物音を背後に聞きながら。
「お、お前はいったい―――」
短剣の回収と同時に手中に収めた、『竜殺し』の剣閃。
「―――『瞬動必斬』」
無防備に、茫然と姿を晒し。
そこから次ぐものと思われた、言葉。
おそらく、自分でも答えに詰まるであろう、その問いかけごと。
「……十五」
一刀のもとに斬り捨てた。
ここで、告知と言いますか、ご報告になりますが。
この度、DADAN様×一二三書房様共同開催の『DADAN Web小説コンテスト』におきまして。
本作、
『器用貧乏と呼ばれ何者にもなれないと言われた俺は、経験が職業やスキルとして覚醒するユニークスキルで成り上がる』が大賞というキラッキラな賞をいただきました!
楽しいながらも様々な葛藤の中連載を続ける本作で、果たして選考にあたってくださった編集部様のコメントのような作品を書けているのか……
そんな思いもあったりなかったり。
でも、こうして目に見える形で認めていただけるのは、誇らしくて喜ばしいです!
これも、ナメクジ更新でも日々閲覧いただいている読者の皆々さまのおかげと思います!
今後の展開としてまだ具体的な事は決定しておりませんが、
ナナシや唯火たちが「タテヨミマンガ」という舞台でどう描かれ活躍していくのか。
作者が一番楽しみにしております!
そして、日々ご愛読いただいている読者の皆様もお楽しみください!
まだまだ未熟な作者でありますが、今後も御付き合いください。




