200話 種の気配
「大量大量っと」
怪力を操る名も知らぬ怪物を退け、未知の素材を求めながら森深くへと足を進めると。
期待通り、『解毒薬』や『回復薬』。【薬剤師】のスキルによって便利アイテムへと変貌する素材を大量に発見することができた。
「ここら辺は群生地っぽいな」
あまりに大量に生えているものだから、これまた見たことのないヤシの葉のような葉っぱをむしり、それを編み込んで小脇に抱える程度の篭にした。
『隔絶空間』を使えばたくさん収納はできるが、また先の怪物のようなやつと会敵するかもしれない。MPの消費を控えるに越したことはないだろう。
フラワーアレンジメントの研修がこんなところで役に立つんだから、何でも身に着けておくものだ。
(途中まであまり見かけなかったから、アテが外れたかとも思ったが)
数キロは歩いている。めげずに奥へと来てよかった。
「ん?これは……」
満足のいく収穫に、足元の薬草を摘みそろそろ引き返そうかと考えていると、木の幹の傍に木製の矢が刺さっているのを発見する。
赤黒い塗装を施され、中程で折れた矢だ。
「そういえばさっきも同じやつを見かけたな」
ちょうど目当ての薬草たちを見かけるようになった辺りだ。
その時も同じく、赤黒い矢が木に突き刺さっていた。
見た目は血塗られたような不気味な色をしているが、既に強化した嗅覚で血のりでないことは確認済み。
(この山には『異種族』の人たちが暮らしている)
彼らも山で弓矢による狩猟をすることで生計を立てているのだろう。
これはその痕跡。
と、思っていたが―――
「……また、木に矢か」
今度は目線ほどの高さ。
そんな木が等間隔に何本も。
「妙だな」
ここに来て違和感に気づく。これだけ前後左右に広がる木々に突き刺さった矢。
仮にここが狩り場だったとして、標的は重心の低い獣。こうも弓矢が使用された痕跡があるのに、一本たりとも地面に矢が刺さってない。
(木に刺さって抜けなくなっただけか?)
いや。
山の中、少しでも狩猟を齧っているものなら匂いの染みついた得物をその場に放置するなんてありえない。
もしこれが意図的なものだとしたら……
「……縄張り」
つい今俺が考えていた得物の回収による臭い消し、痕跡の隠蔽。
その、逆。
存在の誇示。
「―――迂闊だったな」
『異種族』たちの生活の痕跡だろうと思ってはいたが、この深い森の異界めいた雰囲気に吞まれて、『今は手つかずの場所』。みたいな先入観があったのかもしれない。
『……あの里以外にも、異種族が暮らす場所があるのか?』
『無い、と言った覚えはないぜ?』
怪物と遭遇する前にダイギリと交わした会話を思い出す。
(深まる森、現れた怪物、異界に迷い込んだようなこの雰囲気)
そこに息づく者が居たとしたらそれは間違いなく『並』ではない。
「……今から戻しても、遅い、よな?」
その予感はすぐさま現実のものとなる。
「「「……」」」
(いつの間にか囲まれている)
周囲の気配には常に気を配っていた。
足音、呼吸音。『索敵』のレーダーを搔い潜られた、ここまで接近を許した。
十中八九そういうスキルの持ち主たちだ。初めての状況じゃない、驚くほどの事でもない。
問題なのは……
(まいったな。『異種族』の人たちなら話がこじれるぞ)
縄張りを主張する様に、マーキング代わりにと木に刺さった矢。
今しがた俺がゆっくりと地面に置いた薬草たちは、彼らの管理下にあるモノなのだろう。
それが自生しているものなのか、栽培されたものなのかは知らないが、なんにせよこちらの立場は薬草泥棒。
彼らとの争いの種、確執を生みかねないこの状況が問題だった。
(……気配を殺しながら、後ろから撃たれなかった分、まだヘイトは最悪まで振り切ってはいないんだろうけど)
撃たれたところで、『瞬動反射』のスキルで無傷に終わっただろうが、それはそれで更なる警戒心を生んでしまう。
気休めにと、害意がないことを示すために両手を上げ掌を晒す。
(こんなことならケチらず『隔絶空間』にしまっておけばよかった)
『薬草泥棒』という事実に気まずさはあるが、証拠がなければその場は咎められることも確執を生むこともない。
後でこっそり返しておけば済んでいた。
(……にしても動きがないな)
置かれた状況をゆっくり分析、ifの話を思い浮かべていられるくらいにこちらを包囲する気配達は動きがない。
そもそも、わざわざ気配を晒したのも不可解だ。
と、
(誰か、近づいてくる)
ようやく気配に動きあり。
一つの足音がゆっくりと正面から。
だが、草木を踏み鳴らす足音の距離的に既にその姿を目視できるはずなのに、そこにいる誰かが見えない。
「―――あなたは、何ですか?」
「!」
ふと、声が発せられる。
それとともに視覚の認識が思い出したかのように働き、声の主の姿をさらした。
(―――『竜』、か?)
現したシルエットは、数日前街で毎日目にした異形の特徴。
頭蓋から突き出る角。身を守る鱗、肉厚の尾。
それらの特徴を人の身に宿し、人としての頭髪、柔肌を多分に残した、一目で女性と判別できる人物だった。
「っ!?」
「……収めなさい」
突如現れた『異種族』の姿に呆けていると、死角から乾いた音と共に放たれた矢が頬を掠める。
ここ数日、妙な因縁がある『竜』に近しいような見た目に、思わずこちらの警戒が膨れ上がったのを察知したのだろうか。
(……この女には、それほど敵意は感じられない)
『収めなさい』と言った彼女の言葉は、こちらへ対するものではなく包囲し矢を番えている者たちにだろう。
この場の指揮権は彼女にあるらしい。
「失礼。話の続きをしましょう」
先の問いに答えろ、ということか。竜と似通う細められた瞳孔、瞳がこちらを向く。
対話を望むなら願ったりだ。
「俺は、『人間』だ」
「人間……」
目元付近を鱗がまばらに覆う端正な顔立ちが、どこか訝しげに変化する。
細められた目に何か嫌な予感を感じつつ、こちらが持つ真実を矢継ぎ早に続けるために口をひらいた。
「『交錯の里』。シェルターと呼ばれるそこに、異種族の仲間たちと―――」
「虚偽は、受け入れられません」
だが、続けた言葉は彼女の冷たい声にさえぎられた。
「虚偽、だと……?」
「駆け引きは無用。あなたが人ならざる者、というのは我々には感じ取ることができます」
「……」
どういうことだ?感じ取る?言葉の真偽を計るスキル、とかか?
だとしても俺は本当のことを言っているんだが……
「あなたの持つその気配。『人間』でないことは明白。そう、それこそ我々と似た……」
(―――もしかして、こいつの事か?)
相手を刺激しなようにゆっくりとした動きで首元の羽衣へと手を伸ばす。
「……何をするつもりです?」
こちらの所作に包囲する気配の敵意が膨むと、それを片手で制止し問う。
「気配。って言ったな?それはこいつの事じゃないか?」
「……?」
羽衣の装備形態を解き、折りたたまれた反物のように彼女の足元へと垂れる。
台座にはめられた美しい宝玉を見えるように露出させて。
「それは『地竜の魔核』だ」
「! 地竜の、魔核……!?」
驚きに目を見開き、周囲からもどよめきが上がる。
希少なものとは聞いているが、そこまで動揺するほどのものなのだろうか。
「こいつの気配だか魔力だかを、感じ取っているだけなんじゃないか?」
そう、肝心なのはそこ。この魔核の存在が俺の存在、気配を彼らに同種に近しいと誤認させていると踏んだ。
名持の竜、アトラゥスも同胞である竜達の魔石の気配を感じ取ることができていた。
竜に似通った外見をしている彼らも同じことができるのかもしれない。
「たし、かに……この魔核からは力強い、気配を感じます」
(ほっ……どうやら、当たりみたいだな)
口元に手を当ていまだ動揺を隠せない様子。
少し、オーバーな気もするが。
「これで俺の話を聞いてくれるな?」
「……」
羽衣を操作し、元の装備形態へと戻す。
が、思案顔だった女の背後から尾が飛び出したかと思うと、魔核と俺を遮るように鞭のようにしならせ地を抉った。
「何を……」
「―――確かに魔核の気配は感じます。けど、」
一つ区切り、鋭い爪の先をこちらに突きつけ。
「やはり、あなた自身にも同種の気配を感じます」
竜の女はそう言った。
遅筆な上に新キャラ多い。
まとめ一気読みしないと流れが分からないし、
読んでもよく分からない。
その点、
ハ〇ター×ハ〇ターってやっぱすげぇな。
って




