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195話 私闘

ご無沙汰です。

短いです。


あらすじです↓

変なやつに殴り飛ばされた

「ぐ……んの、馬鹿力め」


 頬の触れた土の冷たさを感じつつ気怠く上体を起こす。


「腕、取れたかと思った……」


 地についた両の手が視界に入り心底ほっとする。

 意思通りに動くところを見るに折れてはいないようだ。それでも、肘から先は痺れ浅黒く内出血しひどく痛むが。


「羽衣が間に合わなかったらやばかったな」


 竜鱗の防御は突き破られたにしろ、あの獣の拳の勢いを大きく削いでくれた。

 衝突時、咄嗟に空を蹴った『無空歩行(エアジャンプ)』も効いたのだろう、どれか欠けていればどちらかの腕は使い物にならなくなっていた。


「しかし、あの高さまでくるなんて」


 その跳躍力自体も驚きだが、あの高度で結界の影響がないのにも面食らった。

 ダイギリに案内されあの馬鹿硬い木があるところに着くまでに特に道を阻む結界の類は無かったと思う。恐らくあの獣のみに反応するものなのだろうが。


「仮に遭遇したあの位置が結界の端だったとして……」


 そこから直上へあの高度まで行動可能、となると。


正方形(スクエア状)に張られた結界なのかもな」


 なんとなく半球状を想像していたが、それならば結界の端だったとしてもあの高さまで行動可能なのも説明がつく。


(まぁ、そんな真っ当な形状とも限らないかもしれないし、分かったところでどうだという話だが)


 なんにしてもあいつが動き回れる結界内に侵入して、来た道とは反対側に吹き飛ばされた。

 あの高さまで来れるってことは平面の範囲も相当広い可能性がある。


「……はやいとこ移動だ」


 つまり依然としてここはあの化け物のナワバリかもしれないということだ。

 おちおち考え事もしていられない。


(空は目につく。気配を消しながら樹上を足場に飛ぼう)


 昨晩も取った移動手段だ。

 日中の隠密行動ともなれば、尚の事地面を走るわけにもいかなかった。


(さらに北上か、逸れて遠回りにキャンプに戻るか―――)


 経路を練りながら、樹上へと飛び上がる。

 足元にしなる枝の軋みを感じると、


「―――なんだ?」


 ざわめきのような騒音。何かが森中を騒ぎ立てながら………移動している?


「勘弁してくれよ……」


 そんなものの発生源などこの状況下において一つしかない。

 問題はそれが確実にこちらへと近づいてきていることだ。


「鼻の良いやつだ」


 さして驚きも、困惑もせずに受け入れ口から出る、嗅覚への称賛。

 奴は獣の身でスキルを使い生き延びてきた生存強者。備わっていて当然の索敵能力だ。


「……上等」


 守護する対象もいない、守る外ずらも無い。言ってしまえばこれは不毛な闘争。


「そっちがその気なら、やってやるよ」


 逃げても避けても追ってくるなら戦うしかない、わが身を守るだけの戦い。久しく身を置いていなかったように思える。

 最初の、ゴブリン以来だろうか。なんて気が楽なんだ。


「ほっ、と」


 樹上から降り、逃走の意思を断ち切ると何故か自然と、口角が微かに上がっているのを自覚し始める。


「ホント言うと、唯火達を待っている間退屈するかと思ってたんだ」


 誰ともなしの独り言。


「異種族は襲わないみたいだけど、流石にお前の結界内(ナワバリ)には殆どだれも近づかないだろ」


 否、語り掛ける。


「俺とお前。二人だけ」


 身を投じる。


「付き合ってやる。とことん―――」


 身軽な闘い。自己都合の闘争。

 そこに妙な心地良さを感じつつ、



『アァアアァアアアッ!!』



 肌を打つ咆哮が木霊す深い森の中へと、駆け出した。





 :::::






「………随分と騒がしいこと」


 空に落ちる空砲のような数々の轟音と、木々をざわめかせる雄叫び。

 自然の環境音などではない戦の協奏曲が山中に響き渡っている、そんな中―――


「まさか、この騒ぎの主が対象じゃないでしょうね……?」


 一人、ため息交じりに呟く。


「あのお爺さんならやりかねない、か………道理で私が呼ばれるわけだ」


 次いで、苛立ちを多分に含んだ吐息に変化する。


「全く!人使いの荒い。なんでこんな山奥に来なくちゃ……」


 その言葉は明らかに、ある個人へと矛先が向けられていた。


「あの()()()()()()。いつか土下座させてやるわ」


 獣の気配すらない山道を歩く華奢なシルエット。

 その脅威を感じさせない佇まいの前に、ナナシ一行へ度々接触していたような野生の獣たちが姿を現さないのは、


「きゃっ!?ちょっ、なに?………蜘蛛の、巣」


 その体から香る香水のせいか、


「んもうっ!ホントいや!こんな山奥!」


 それとも、強者としての気配が野生を圧倒している結果か―――

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