17話 VSゴブリンジェネラル 互いの名
響き渡るゴブリンジェネラルの咆哮。
『奴を殺せ』
言葉は通じないがそう叫んでいることだろう。
「「「ゲキャァーーー!!」」」
どこから湧いてでたのか、俺を包囲するようにゴブリンたちは突進してくる。
全部で5体。
策を捨てた数での圧殺。
「ならこっちも先手必勝だ」
1体に向かって走行スキルで勢いを付け跳躍し両足を肩にかける。
「グゲ!?」
跳躍の勢いのままゴブリンの頭部に剣を突き立てる。
絶命し足から崩れ落ちる前に迫りくる2体目へ蹴り飛ばし。
「ギャ!」
同胞の死体で一瞬視界を遮られたゴブリンを死体ごと剣で貫き。
横薙ぎに切り裂きながら振り抜く。
この一瞬を隙と見たのか、いつの間にかゴブリンジェネラルは背後に接近し鉈を振り下ろしていた。
「わかってたよ」
直感的に反応していたからな。
反転し振り向きながら先ほどしたようにその太刀を受け流す。
しかし受け流されることが分かっていたのか、今度は即座に鋭い牙でかみつき攻撃に転じていた。
けど。
「それも、直感していた」
前傾に踏み込みそれも躱す。巨体の真下に潜り込み、屈んだバネを利用し剣先を突き上げ。
「ギャォォア……アガ!」
腹部を深く貫く。
が、ゴブリンジェネラルはひるむことなく鉈を捨てた手で俺の体を捕らえようとし。
「すごい闘争心だ……!」
剣を引き抜きつつ、すり抜けるように足を運びながら振るった俺の斬撃にやつは手首を切り落とされる。
その一瞬、間合いが開いた瞬間またしてもゴブリンジェネラルの背後から2体のゴブリンが飛び出し奇襲を仕掛けてくる。
その左右同時の攻撃を反撃の隙も与えず、片方は軽く一閃で胴を両断し、片方は頭部を掴み地面へ叩きつけた後、とどめの剣を突き立てる。
(……残りの1体はどこだ?)
この局面でゴブリンを1体残しておいても意味がないことぐらいゴブリンジェネラルも分かっているだろう。
今の奇襲で3体けしかけた方がまだ勝算はあった。
つまりそれ以上の、役割を……
「!」
後方で待機しているであろう女性の方を振り返ると、その残り1体のゴブリンが女性の近くまで接近していた。
(人質!?おとり!?こいつら、そんな知恵まであるのか!)
疲弊しきったあの様子では何の抵抗もできないだろう。
駆け出しても間に合わないと判断した俺は。
剣を振りかぶり
「シッ!」
「グギャァッ!?」
その剣の投擲はゴブリンの心臓を貫き、その場に崩れ落ちた。
「間に合った……」
安堵したのもつかの間。
背後からは絶え絶えの息が聞こえてくる。
無論その息の主はゴブリンジェネラル。
片腕を失い、もう片方は手首より先を切り落とされ、腹を貫かれている。
そこまでの手負いで、まだ。
武器を手放した俺を見て勝機を見出しているんだ。
(こいつらモンスターの、この異常なまでの闘争心の原動力は何なんだ……?)
俺は目の前のゴブリンジェネラルを見て、初めてモンスターという生物の存在に漠然とした疑問を持ち始めた。
僅かな戸惑いを孕んだ思考を練っていると。
次の瞬間、俺は驚愕する。
「ワ…ナ……イド」
「……え?」
これは、声?
「ワ、ガ……ナハ……『ゴレイド』」
「!?」
ナ?名!?ゴブリンジェネラルの、こいつの!?
いやそれより、モンスターが、しゃべっている!?
「キサ…マ、ノ……ナ」
「……!」
訳が分からない。
知性があるのは感じていた。
けど、人語を操って言葉を交わす?
「ナ……ヲ」
「……」
どうやら、俺の自己紹介を求めているらしい。
だがあいにく俺には名乗れる名前がない。
「……悪いが、名無し、でね」
「……ワルイ、ガ・ナナ、シ」
ん?
「いやまて、イントネーション違うから。ナ↑ナ↑シじゃない。タワシと同じだから」
「ナ……ナシ……」
「……」
まぁ、こいつが俺の名をどう解釈しようが構わないか。
「剣を!受け取ってください!」
一時、緊迫した命のやり取りの空気が弛緩した気がしたが。
地を打つ金属音で我に返る。
(池さんの剣。あの女性が投げてくれたのか……)
ゴブリンを倒すのに投げてしまったから今の俺は丸腰。
いくら体術を心得たといっても、格上のゴブリンジェネラル……ゴレイドに素手で勝てるとは思えない。
(ここまで追い詰められても、だ)
名を持ち、言葉を話す。
あまりに未知数な存在。
戦って勝つには、池さんの剣が絶対必要だ。
けど
(少し距離があるな……)
剣を取るには背中を見せないといけない。
名乗り言葉を一つ交わしただけで、もうさっきまでのやつとは思えない。
危険すぎる……
すると、俺の逡巡に気が付いたのかゴブリンジェネラル、ゴレイドは驚くべきことを口走る。
「……トレ」
「!」
取れ。
俺に剣を取れと?
さっきまで女を人質に取ろうとしていたのに、なぜそんな騎士道めいたことを……
「「……」」
(ダメだ、『読心術』スキルでもなにを考えているのか全く分からない)
わからないなら、いっそ飛び込め。
覚悟はさっき済ませたろ?
この力は何のために手に入れた。
日和るな、行け!
「……っ!」
滑り込むように剣を拾うと即座に戦闘体勢に入る。
「……」
ゴレイドはそれを見届けると、足元に落ちた鉈を口でくわえて拾い上げ凶暴な牙をむき出しにする。
特にきっかけがあったわけでもない。
だが両者は同時に動き出し、最後の一振りを繰り出す。
奴の己の体を弾丸にしたような攻撃は今までで一番速く、真っ直ぐで凶暴な一撃。
俺は、その一撃を正面から
「ゴレイド。強かったよ……!」
奴の鉈と俺の剣。
一瞬の拮抗の後、鉈の刃は折れ、そのまま肩口から駆け抜けるように切り捨てた。