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169話 手がかり

「ナナシさん、この人は一体……」


 フユミちゃんを負ぶった唯火と朱音が川を飛び越え駆けつけながら。


「人間……じゃ、ないわよね?」

「自分を『鬼人族(オーガ)』と呼んでたし、『目利き』で見たステータスにもそうあった」


 そして名前の項目にも『ダイギリ』という名が刻まれていた。

 今までの経験から、目利きに掛けた相手の名前が閲覧できるパターンは、閲覧主に直接名乗られた後と『名持(ネームド)』モンスター相手の時だけだ。


(となると今回は後者のパターン)


 それに『職業(ジョブ)』の項目が無いのもモンスターのそれに共通している。

 この『ダイギリ』という男は、『鬼人族(オーガ)』という種の名持(ネームド)モンスター。ということになるのだろうが……


「さっきの、まさに鬼の形相って見た目とは全然違いますね」

「角はあるけど、こうして眠っているとまるで『人間』ね……」


 見た目だけで言うなら二人と同じか少し下という印象だ。


「もしかしたら、こいつは『交錯の里』の関係者かもしれないな」


 今までも屍人(グール)吸血鬼(ヴェムナス)のような人型のモンスターは居た。

 だけどこのダイギリという男はどうにも違う気がする。

 何より彼がもし本当に『交錯の里』の関係者だとしたら、ここで命を奪うのはフユミちゃんを匿ってもらう上で宜しくない。十分マイナス要素になり得る。


「……ぅ、う」

「もう目が覚めるのか」


 砕けた破片に埋もれながら、わずかに身をよじりうめき声を漏らすと。



「「「ダイギリィ~~っ!!」」」



 目の前の縮んだ『鬼人族(オーガ)』の名を呼ぶ複数の声と同時に、強い跳躍の音が耳に届く。

 間延びしたその呼び声は頭上まで移動後――――



「「「無事かぁ!!?」」」



 意識が半覚醒のダイギリの前に立つ俺の背後、反射的に飛び退いた唯火達と入れ替わるように三つの気配が夜空から降って降りる。


「! ナナシさん、角です!」

(後続の仲間か)


 こいつが襲い掛かってくる前に聞いたほかの足音の主だろう。

 声と言い着地と言い、目の前のダイギリ同様随分と騒々しい種族だ。


「ダイギリぃ!生きてんのか!?それ生きてんのか!?」

「おいこのちんちくりん野郎!てめぇがやったのか!?」

(ちんちくりん……俺の事か)


 彼らと比べれば確かに大人と子供のような体格差だ。


「あんたら、全員言葉を話せるのか?」


 なるべく刺激しないように剣を鞘に納めながら振り向くと、そこには三体の巨躯が並ぶ。

 それぞれダイギリほど濃くはないが、肌は赤みがかった色をしていて、唯火の言う通り額には角が生えていた。

 そして同じく人語を操る。


(ダイギリという奴が『名持(ネームド)』という線は薄れてきたな)


『名持』同士が群れを成すというのは今のところ聞いたこともない。


「なんだぁ?背丈もちんちくりんなら面もパッとしねぇじゃねぇか」

「……おい」

「こんな奴がダイギリをやったのか?」

「……おいって!」

「まさか。汚い手を使ったに違いねぇ」

「おい二人とも!」

「「何だ!!?」」


 このシチュエーションに、響さんが決闘を挑んできて返り討ちにした後の事をなんとなく思い出していると。

 一人だけ後方を向きながら仲間を呼びかける『鬼人族(オーガ)』へと二人は振り返り、



「めちゃくちゃ可愛い女の子が二人もいる!!」

「「!!」」



 振り向いた三人の視線は唯火と朱音へと釘付けになった。


「「「…………」」」


「え……ちょ、なに?」

「な、何か、ちょっと……嫌な視線を感じます」

「なんなんだ、おまえら……」



 俺の呆れた声が聞こえたのか、三人同時に我に返り再びこちらを睨む。


「こんな人里離れた場所に女二人連れ込んで何のつもりだ!?」

「よく見りゃ小さい女の子も一緒じゃねぇか……読めたぜ」

「ああ……てめえ『異種狩り(いしゅがり)』だな?同族の『人間』も商品扱いか?」


 なにか、とてつもない誤解が見る見るうちに生まれていっている気がする。


「何を勝手に納得しているか知らないが……そこのダイギリとかいう奴が先にあの子に剣を振りまわしてきたんだろ」


 あの場面ではこちらも相応の対応をしなきゃならない。


「この状況で言い訳とは、クズの癖に太々しくも肝が据わってるじゃねぇの」

「どっちみちてめぇが何だろうと、ダイギリをこんな風にした落とし前はつけてもらうぞ」

「その子たちのためにもなぁ!」

「なんで俺が外道みたいな扱いを……」


 唯火の時も、街で朱音と遭遇した時も、ユニオンと出会った時を思い浮かべると。皆最初はわずかな時間ながらも俺に対し敵意を向けていた時期がある。


「もしかして、俺って第一印象悪い……?」

「ナ、ナナシさん……」

「ちょっと!そんなこと言ってる場合!?」


 思わず三人の『鬼人族(オーガ)』越しに二人へと言葉を投げるも、返答に困っているようだった。


「はぁ……」


『精神耐性・大』も、この手の傷心は防いでくれないようだ。



「呑気にため息なんてついてるんじゃ――――ッ!!」

「……言っとくが。来るなら応戦するぞ」



 向けられた敵意に、『竜王殺し』の効果をもってそれを返すと。三人は同様に攻撃の動作を中断した。

 恐らくそれは自らの意思とは反する本能的な反射が体に現れた結果だろう。


「なん、だ!?おまえ……ッ」

「毒?毒か!?体が!」

「動かない、わけじゃねぇのに、こいつに踏み込めねぇッ!くそが……っ!」

(『威圧』の効果あり、か)


 左からLV.68・76・71。

 決して低くはないと思うが『竜王殺し』は有効なようだ。



「――――やめとけ。勝てやしねぇよ、束になったところで」

「目が覚めたか」



 辺りに充満する『鬼人族(オーガ)』達と俺の闘気が障ったのか、気だるげに声を発する、


「「「ダイギリぃ!!生きてたかぁ!!」」」

「……声がうるせぇ。傷に響く」


 そればっかりは同感だった。


(……今のところ、もう戦う理由もないか)

「「「!? 消え……?」」」

「……」


 とりあえず今のところ敵意がないというのを示すため、負傷した彼から距離を取るように三人をすり抜け唯火たちの元へ。

『高速走法』で移動したのは、さっき少しへこまされた意趣返しだ。


「わかんねぇな。『異種狩り』ならこいつらをこの場で殺すことはしねぇだろうが、今の間に戦闘不能にできただろうが?」

「その気がないんだよ。俺はお前たちの言う『異種狩り』じゃないからな」


 その名称から物騒さは十分伝わってきている。大方、久我達のような奴らだろう。


「それを言うならお前も。最初の……その子を狙った攻撃。寸止めだったろ」


 流石にあの一瞬の間に判断はつかなかったが、刃を合わせ初めてこいつの姿を見た時。

『洞観視』により体全体から発っせられる情報を認識するとその答えはすぐに出た。


「……まずお前らの組み合わせが理解できなかった。俺様は鼻が利くからな。だから、『異種族』のそのお嬢ちゃんで試させてもらった。『人間(お前)』がどう動くか……まさか止められるとは思わなかったけどな」

「鼻が利く?」

「文字通りだ………嗅ぎなれねぇ食い物の匂いでお前たちの存在に気づいた」

(……匂いで『異種族』の見分けがつくものなのか?)


 その上この有様とはな、と続け。


()()()()()()()腕だけ斬ったのも。あのバカげた突きを鎧の方で打たなかったのも。眠りこけてる間に止めを刺さなかったのも……全部手加減、か」


 どうやら、思ったよりも冷静に分析しているらしい。


「腕!?ダイギリお前腕斬られたのか!?」

「ホントかよ!?ひでぇことしやがる!」

「お前ら目ん玉ついてねぇのか?斬られたのは、『肉体操作』で生やした『義腕(ぎわん)』だ。タコ」

「あ。ホントだ。付いてる」


 どうにもこの三人は緊張感に欠けるな。


「それで?何で試すようなことをしたんだ?」

「……別に、クズなら始末しようと思っていた。強いなら腕試しにのしてやろうと思ってた」

「話が進まないな……」


 なら、単刀直入に言おう。


「『交錯の里』を知ってるな?」

「「「!!」」」

「…………」


 明らかに動揺する三人。これだけでも答えは出たようなものだが。


「……知ら、ねぇ」


 ダイギリという男も嘘がつけないタイプらしい。


「俺たちはそこを探している」

「……チッ」

「『ハーフエルフ』のあの子を保護してほしいんだ。身寄りがない。俺たちの旅には危険が付きまとう。だから同行させることも難しい」


 直情的な性格をくすぐるように、真実は伏せたシンプルな理由を並べる。


「あんたは、悪人じゃなさそうだ。あんたから『交錯の里』の人たちに口を利いてくれないか?」

「…………」

「お願いします」

「お願い」

「「「うぅッ!!」」」


 説得の空気を読んだのか、唯火と朱音も懇願すると、仲間の三人へ大いに刺さったようだ。

 だが、


「………知らねぇ、と。言っただろうが」


 膝に手を突き、フラフラとした足取りで立ち上がり。


「見当違いだ。他をあたれ」

「………そうか」

「おいショウ!背中貸せ」

「あ、ああ」


 そう言うとショウと呼ばれた『鬼人族(オーガ)』に負ぶられ。


()()()()()()。俺様たちは()()()()から、てめぇはどこへなりと消えろ」

「はぁ!?あんたワルイガにそんなコテンパンに――――」

「朱音。やめとけ」


 敗者でありながら不遜な捨てセリフに喰いつく朱音を制止すると。


「………次会ったら、負けねぇ」

「次があったらな」


 幼さの残る顔に相応しく、子供っぽい負けん気の強さと悔しさに、僅かに目を潤ませながら言い残すと。


「いくぞお前ら!」

「え?に、逃げるのか!?」

「馬鹿!俺様が見逃してやるんだよ!!ショウてめぇ早く走れ!」

「あだっ!?わかったよ!」


 来た時以上に騒々しく、『鬼人族(オーガ)』達は木々が塞ぐ夜の闇へと消えていった。

 北へと向かって。


「……いいの?いかせて」

「ああ。彼らに地の利がある、それにこう暗いと追うだけ無駄だ」

「でも、『交錯の里(シェルター)』の手掛かりになったんじゃ」

「大丈夫。北だ」

「あ。さっきの遠回しに道を教えてくれてたんですか?」

「多分な」


 建前的なものがあるんだろう。広大な山々の中を迷わせる目論見も否定できないが、もしそうだったら戻ってまた探せばいい。

 俺には足を踏み入れた場所をマッピングできるスキル、『踏破製図(とうはせいず)』がある。あてもなく進むよりはマシだ。


「邪魔が入ったけど、準備の続きをしよう」

「………ご飯は作らない方がいいでしょうか?さっきの人も匂いを嗅ぎ付けたみたいですし」

「そこまで気にすることもないだろ」


 ダイギリは相当自分の腕っぷしに自信があった。そしてそれに伴う責務感も感じられた。

『交錯の里』関係者だとして、その中でも荒事を担うような、きっての強者といったところだろう。彼よりも強い襲撃者は多分早々出てこないはずだ。


「手掛かりは得たけどどれだけ歩くか見当もつかない。食事はきっちりしとかないとへばる。折角フユミちゃんが作りかけのカマドも無事なことだし」

「ん。昔はこうして野で煮炊きするのは当たり前だった。任せてほしい」

「ふふっ、じゃあ私も腕によりを掛けなきゃ」

「じゃあ、ワルイガはテント頼むわよ」


 目的地『交錯の里』の関係者と思しき『鬼人族(オーガ)』の襲撃者、ダイギリ。

 思わぬところで手掛かりを得て、その日は中々幸先の良い初日となった。


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