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162話 増殖再生

「斬った個所から二つに分かれて再生・・・不死身なのか?」


 火を吐くだとか、風を操るだとか、重力を操るという類の特殊能力を持たない物理攻撃特化の竜と思って少し楽観していたが・・・・


「―――こいつは厄介だ」


 牙をむき出しに突進する10本の首。

 切断部から枝分かれしたそれらは速力も破壊力も元の首と変わらないらしく、一撃必殺の手数が増えていくという厄介な状況。


(隙!・・・けど斬れない)


 この手数、こちらの動きを予測とまではいかないものの、回避の延長上に後続の首による攻撃を撒いていけば自ずと動きは制限されてしまう。結果。


「ちっ・・・!」


 避ければ避けるほど絡まるように包囲を狭める首を斬らねばならない。

 左右を掠める二つを両断。上から覆いかぶさる首を跳躍しながら一つを両断。次ぐ空中の挟撃を『無空歩行』でクランク状に回避し、飛翔しながら二つを両断。

 再び計五つ。

 なおも続く攻撃を躱しながら。


(『竜殺し』の弱点属性で切っても関係なしに『再生』してくる)


 またもや瞬時に首は生え変わり増殖。

 合計19本。


(首がだめなら、胴は?)


 ・・・・いや。

 もし胴を切りつけそこから『再生』し胴までが増えたらそれこそ手が付けられない。



「ナナシさん!」



 考えながらも、首の両断を余儀なくされ、さらに二つを斬り飛ばしていると。

 背後から声が上がる。


「唯火!危険だ下がってろ!」

「――――女の方ガ旨ソウダ」

「!」


 さらに増えた首の猛攻を捌きながら忠告するが、傍観を決めていた数本の首が唯火へと伸びる。


「『炎葬魔弾(サラマンダーショット)』!!」


 彼女の操る魔石は燃えると、大口を開けた首の口内へ侵入。

 真っ赤な光源が漏れ出すように首の肉は膨張、鱗を破り業火とともに爆散した。


(! そうか、斬ってダメなら・・・)


 ヒュドラのスキルによる再生は唯火も遠目に見ていたのだろう。

 その打開案として今の炎弾を放ち粉々に爆ぜ散らした。

 炎で肉を焼いてしまえばもしかしたら―――



「―――ダメ、ですか」

「・・・みたいだな」



 爆炎の衝撃で体勢を崩し後退はさせたものの、焼けた首の先はやはり二つに生え変わった。

 これで計22本。


「「「忌々シイ猿共ダ・・・!」」」


 猿と揶揄し見下す種族から度重なる首の両断、爆散。

 それに苛立ちを抱き始め、燻る怒りを落ち着かせるように間合いを保つ。


「すみません。お邪魔でしたか?」

「いや。可能性を一つ試せた・・・・避難した皆は?」

「朱音ちゃん達が看ています」


 そして自分は加勢にきました、と。


「・・・・消耗は間違いなくしているはずなんだ」

「MP。ですか?」


 そう。この異常な再生は当然MPを消耗する『瞬間再生』のスキルによるもの。

 目利きで逐一確認し、今現在は、


 MP:9050/11000


 今唯火が潰した首で戦闘開始から13回首の再生を行っている。

 MPの消費具合から一度の再生に使用するMPは150。単純計算で奴はあと60回は再生が可能。

 それ以降はもう再生することはなくなるかもしれないが、その頃には首の数が80にも及ぶ。


「キリがない上にこちらが持ちませんね・・・・」

「ああ」


 唯火も同じ結論に達したのだろう。事態の悪さに気づいている様だ。


「何か、奴の弱点はないか・・・・そこを突いて終わらせなきゃ押し切られるな」

「はい。けど・・・」


 そこからの問題だ。一本一本の首を処理するのはそう苦ではない。池さんの剣もあるしアトラゥスとの戦いを経てさらに竜種との戦闘に特化した称号も得ている。

 けど何分相性が悪い。


「早いとこ決着をつけないと」

「そう、ですね。今の時点でもあの首の数が()()()()()()()()()――――」


 今の唯火の発言に引っ掛かりを憶える。


(一斉に・・・・)


 そうだ。腹を満たしたいなら、肉を喰らいたいなら全霊で終わらせればいい。

 すなわちすべての首、すべての手数を出し切って貪りつくせばいい。


(そうはできない?一度に操れる首の数が決まっているのか?)


 いや。ついさっき奴は10本を同時に攻撃へと繰り出した、戦闘開始直後は9本。その時も4本を残し沈黙を決め込んでいた。



『――――また猿呼ばわりか。首同士で思考が繋がっているのか?』



「・・・・」

「ナナシさん?」

「全部だ」

「え?」



 戦闘開始直後から『弱点直感』で奴の急所は『首』だと分かっていた。

 だが実際は斬っても斬っても再生する、次々と斬っても再生するから命が繋がる。胴に繋がったまま残った頭が思考を練りスキルの発動が可能なまま。

 なら、一度にその急所全てを斬ってしまえば?一太刀で肉体から判断機能を切り離してしまえば?


「もう、再生することはできない」

「それって――――」


 自身でも考えをまとめながら唯火にもこの策を伝えると。


()()()を使うって、ことですよね?」

「それしかない」

「もし、それでも倒しきれなかったら・・・?」

「少しヤバイかもな」


 俺の手の内を事前に明かしてある唯火は察しがついたようで、心配そうな表情を浮かべ。


「少しどころじゃないですよ!」

「それでも、()()()では戦える」

「さっきまでの戦いも見てましたけど、見たことない新しいスキルを駆使して渡り合っていたじゃないですか!最低限じゃ――――」

「――――姉者」


 なおも食い下がろうとする唯火は、呼びかける幼い声に言葉が途切れ。


「フユミちゃん!?何でここに・・・危ないから来ちゃダメって・・・!」

「姉者。兄者は大丈夫・・・・ね?」


 多分俺が何かしらを仕掛けるのを察し、それが危険な賭けで、それを唯火が引き留める。

 そんな様子を察しての登場だろう。この子が今立つのは死と隣合わせの異形との戦場。必然、誰かが、戦えないフユミちゃんを戦線から離れたところまで避難させなくてはならない。


「唯火。フユミちゃんの言う通り心配ない。ただまだ制御が正確じゃない。巻き添えを喰らうかもしれないんだ」

「ナナシさん・・・・」

「大丈夫だ」

「・・・・ずるいです。いつもそれを言う時は『その背中』を見せて言うんですから」

「?」

「わかりました。フユミちゃん、いこう?」


 背後で唯火が言うと、『魔添』の速度でフユミちゃんを連れ戦線を退いた。



「・・・・意外だな。お前みたいなやつが悠長に待ってるなんて」


 依然、間合いを保ちすべての眼球が俺を凝視していた。

 そこには餌に対する関心ではなく憎悪が多分に含まれている。


「貴様ハ嬲ッテ殺サナクテハ気ガ済マナイ・・・・他ノ肉ナドソレカラ喰ラエバイイ」

「・・・・そうか」


 重心を落とし腰溜めの構え。

 かつてミヤコと対峙した時と同じ構え。


「四肢ヲ一ツズツ千切リ、臓物モジワジワト喰ラッテクレル・・・・」


 木々のざわめきが如く戦慄き、クジャクの羽のように、首を広がり立たせどす黒い殺意をむき出しにする。


「悪いが。嬲られる気も、そう長い事付き合う気もない」


 その殺意を全身に感じながら間合いをは計るように、じりじりと踏む込み地に沈む足の位置を微調。

 集中と構えの深度が底に着くようにぴたりとかみ合いつつある一瞬。


 ()()を口にする直前、記憶は遡る――――――






 ::::::::






『す、すごい・・・この力で『黒粛(ヘカテ)』を打ち破って、アトラゥスを倒したんですね』

『ああ。俺も正直驚いてる』

『それはこっちのセリフよ・・・・というか呆れた』

『その分リスクもあるけどな』


 施設に間借りした俺の部屋にて、竜種討伐班の二人に披露する。

『名持』を倒した今、朱音と今後も共闘するかは不明だが、共に背中を預けあった彼女を今更仲間はずれにするのもどうかと思ったからだ。


『これもう、『スキル』っていうか『必殺技』ってかんじよね』

『・・・その二つってなんか認識の違いがあるのか?』

『いや、気分よ気分。あんただってあの消える速度の『剣技』やる時、『必殺技』みたいに名前言うじゃない』


瞬動必斬(オキザリノタチ)』のことか。

 あれも【剣聖】のスキル名称なだけなんだが・・・・でもその過程を俺は『合わせ技』としているから似たようなものか。


『唯火も言ってるわよね。『テンペスト』なんたらって』

『えっ!?わ、私?えっ・・・と・・・・うん』


 突然話を振られどぎまぎした様子の唯火。


『・・・・あれ、自分で考えたのか?』

『ぅ・・・・は、はぃ・・・』

『何をそんなに照れてるのよ。なんかかっこよくていいじゃない』


 明け透けなく言う朱音。

 少なくとも彼女にとっては『自分の必殺技名』を考える事は、羞恥の琴線に触れることではないらしい。


『は、恥ずかしい・・・』

『そんなに顔真っ赤にすること・・・?何かちゃんと意味があってやってるんでしょ?あたしも何か考えようかな?』


 朱音の言葉に羞恥から顔を覆っていた手を広げ中々の勢いで顔を上げると。


『そ、そうです!意味!い、意味があるんです!なんかこう、こ、攻撃が強くなった気がするんです!』

『そ、そうか』

『そ、そうなんです!』


 捲し立てる唯火に気圧され、朱音に視線で救援を求めると。


『あーでもあたし、直接ダメージを与えられるスキルないし――――』


 どうやら本気で『必殺技名』について考え込んでいるようでこちらは眼中にないようだ。


『だからナナシさん!』

『な、なんだ?』

『ナナシさんの()()も、『必殺技名』考えましょう!』


 とんだ巻き添えだった。


『いいじゃないそれ』

『でしょ!?』

『お前聞いてたのか・・・』

『おすすめは、オリジナル四字熟語を作って、そこに和製英語とか造語なり当てる感じです』

『『豪州』を『オーストラリア』っていうのと同じ感じ?』

『ちょっと違う気もするけど、そんな感じ』


 当の俺を置いて話を進める二人。

 別に変な名前を付けられたところで口に出しもしなければいいが・・・・


『昔子供のころ、朝のそういうアニメ見てたっけ。キラキラして女の子が強くて憧れてた記憶があるわ』

『その路線で行きます?ナナシさん』

『・・・・』


 なんだか色々手遅れになりそうな気がするので手早く無難に済ませよう。


『そういうのはシンプルが一番だろ。『名は体を表す』っていうし、連想しやすい馬鹿正直な方が、その・・・・唯火の言う攻撃が強くなる気がするって効果も望めるんじゃないか?』


 知らないが。


『まぁ、それもそうですね』

『ふむ。確かに』

『ナナシさんだったら、なんて名付けるんですか?』


 そうだな。


『・・・・俺なら―――』






 ::::::::






(【次元掌握者(ディメンタラー)】。スキル『現象転移(げんしょうてんい)』)



 間合いも防御も関係ない。視認も反射も一切不可の異能の剣。



「『次元斬(じげんざん)一重(ひとえ)』」


技名を決めるとかそういう限定されたシチュエーションで言うと、


主人公は流れるままに流されるタイプ。

朱音は興味あることは試していくタイプ。

唯火は形から入るタイプ。

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