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157話 交錯の始まり

「その話は本当なのかね?」


 響さんにユニオンのマスターであるフユミちゃん達が何者かに狙われているという情報を伝えると、たまらずといった風に眉間を揉む。

 ミヤコの件から立て続けに心労をかけるのは忍びないが、事は一刻を争うかもしれない。


「可能性は高いです。情報源のシキミヤは軽薄で油断ならない男ですが、あれで何か一つの目的を見据えて動いている節があります。そのことに関しての情報で嘘はつかない気がするんです」

「・・・主観的ではあるが、その目的の中にマスターの存在があると?」

「はい。でなければ、わざわざ俺に伝えることもなかったはず」


 言外に、『あの子はお前が守れ』。

 思い通りに動くようでムカつきはするがそういうことなのだろう。


「それに、『ミヤコ』は姿を消しましたが懸念が残っているのも事実です」

「懸念・・・?」

「飛竜討伐直後、俺を狙撃したのは誰だったのか」


 あの狙撃に使われたポイントはユニオンのメンバー達が見張り台として使用していたという。

 以前聖夜に疑惑が向けられていた時朱音がそう言った。


「ダンジョン内で死んだ12名の中にいたのではないか?」

「・・・いえ。確かその日はそこは使われていなかった。そして僕を含むダンジョン攻略班は・・・・『美弥子さん』による診察を受けていた」


 聖夜が補足するように言う。

 そうか。その日見張り台が使われていないのは聞いていたから全員になにかしらのアリバイはあると思っていたが、その日だったのか・・・・


「つまり・・・まだ、ユニオンの内部に彼女の言う『害虫』がいる、と?」

「いや、おそらくそれはないと思います・・・自身に別人に成りすます催眠をかけ、その時点で先を見通し、狙った条件下で催眠が発動する計画。そんな計画を立てる人間がそれを見逃すとも思えない」

「やけに、彼女の力を評価しているのだね?」

「奴は、シキミヤと同格に近い実力を持っていました」

「「!」」


 俺の言葉に目を見開く二人。


「なるほど・・・そんな大物に、今まで気が付かなかったとは・・・」

「噂に聞くあの『最強』と名高い男と肩を並べる、のか・・・有能な【回復術師(ヒーラー)】かと思っていたけど・・・・『催眠』。なんて隠匿性の高い力だ」

「無理もない。ミヤコ自体への認識をぼかす『大規模な催眠』をかけたらしいからな。多分、ユニオンに加入した時期もみんなの記憶よりももっとずっと最近かもしれない」


 俺があの時『目利き』を使わなければ今も変わらず過ごしていたのだろう。


「なる、ほど・・・いや、言われれば彼女に関しての周りとの記憶違いが多いようにも思える」




『まぁね。そこからはあれよあれよと人数が集まったんだよ。美弥子君は、確か・・・・小児科の看護師をしていたから、その経験を役立てたいと』

『回復系魔法の術者は美弥子さんが加入する前からいたけど、やっぱり知識量というか経験というか。そういうのが根っこにあると効力が全然ダンチね。それとちなみに小児科じゃなくて整形外科ね』

『・・・む?そうだったか?』

『そうよ。記憶力衰えてるんじゃない?』




 それが奴の言う『多少の認識のずれ』なのだろう。


「話を戻しましょう。結論として、あの狙撃を行った実行犯は外部にいます。死亡した12名との繋がりはまだ不明ですが、問答無用で撃ってくる敵がそう遠くない場所にいる」

「もしかしたらそいつらがマスターを狙っているかもしれない、ということかい?」

「そう結び付けるには十分な状況だ」

「・・・『探求勢(シーカー)』の人間である可能性は?」


 この施設内の人間の中にいるか、という質問だろう。


「ゼロではない、としか。けど詳細はボカされたがシキミヤの言いぶりだと俺たちが知らない連中の可能性もある」

「どの勢力にも該当しない者たち、ということか?」


 あくまで全部可能性だ。


「いずれにせよ、この場所には長居すべきではないと思います」

「そうだな。もとよりそのつもりではあったが、これは急を要するな」

「どうしましょう。ユニオンにはもう拠点にする場所が無い。どこかに身を隠すにしても・・・」


「ひとつ。提案が」


 もしフユミちゃん達が狙われているのが本当だとして、あの子たちを守るのに有効な手段。これも不確かな情報だがそれに縋ってみるしかない。

 こうやって選択肢を狭めるのもシキミヤの奴の狙いなのだろうが・・・・


「『シェルター』って呼ばれる場所を知っていますか?」


 言って、あの男がその場所がどこにあるのかを口にしていなかったことを思い出す。

 うっかりななのかわざとなのか。場所を問わなかった俺も俺だが今度会ったら恨み言の一つも言ってやろう。


「『シェルター』?地下室とか防爆室みたいなやつかい?」

「いや、そういうんじゃなく・・・・『何とかの里』って書いて通称『シェルター』っていうらしいんだ」


「「『何とかの里』・・・・」」






「――――――恐らく。『交錯(こうさく)の里』。だの」

「「マスター!」」


 声に振り返ると、フユミちゃんが部屋の扉を開けたところだった。


「どうしてここに・・・今の話を聞いていたんですか?」

「こんな時にじっとはしていられない。それに今の話が本当ならフユは皆と一緒にいた方がよいだろう?」


 どうやら全部聞いていたようだ。


「そ、それもそうですね。色々起こりすぎて考えが至りませんでした」

「仕方がないこと。メンバーの・・・・美弥子の離脱。皆辛いだろう」


 あえて『裏切り』と言わない意図をフユミちゃんの言葉から感じた。


「って、フユミちゃん。その、『交錯の里(シェルター)』について知ってるのか?」

「ん。ハルミを攫った者たちも、廃棄区画の近くにいた『探求勢(シーカー)』の者たちも口々に言ってた。そこに入れれば楽に『希少検体が手に入るのに』。と。聞くに、そこは『スキル』の力により外界と完全に遮断されているらしい」


 成程、身を隠すにはもってこいの場所ってわけだ。

 それにしても、廃棄区画の『探求勢』。久我達の事だ。子供相手だと思いその手の情報も軽々しく口にしていたのだろう。

 つくづくこの街の『探求勢』と違ってずさんで粗暴な連中だ。


(そういえば・・・・ハルミちゃんの『母親』はどうしているんだろう)


 唯火によると彼女は母親と出かけた先で何者かに攫われたと。

 それが『探求勢』なのか、間に入った誰かなのか・・・


(いや、この街に入って最初に絡んできたチンピラの目撃情報もある。ハルミちゃんが女性と一緒にいる時にたまたま『ハーフエルフ』という単語を聞き『ある組織』のお抱えの情報屋にハルミちゃんを売ったと言っていた)


『ある組織』というのは、シキミヤの息のかかったこの施設の人たちとは別の、久我達『探求勢』と思っていいだろう。

 いずれにしても、あんな口の軽いチンピラを使い足がつくようではやはりずさんだと言える。


(それに、ギルドにいる間もこの子の『母親』の話は聞かなかったな)


 薄情ながら俺も唯火も日々の竜種討伐に意識を持っていかれていたようだ。


「希少、検体?ですか?」


 一人、深く考え込んでいると聖夜の問いが耳に入り目の前の問題へと向き直る。


「フユミちゃん。それに唯火。ハーフエルフである二人の様な『異種族』の人たちを、廃棄区画の『探求勢』連中はそう呼んでいた」


 その話に響さんと聖夜は嫌悪感と怒りを露わに。


「『人間』を何だと思っているんだ、そいつらは」

「その者たちのような国側の連中が、世界改変初期の暴挙を先導したのだろうな・・・」

「今はそれを憂いても仕方がない・・・つまり『交錯の里』は居場所のない異種族が身を寄せ合う場所。らしい」


 義憤する二人を宥めながらフユミちゃんは続ける。


「兄者。『交錯の里』はこの街より数十キロ北上した山奥にあると聞いた」


 ありがたいことに場所の情報を得る。


「北上。山奥・・・・確かにその方角に連山はあるな。あんな険しいところにあるのか」

「わかるのかい?」

「測量の手伝いしてた時、ここら辺一帯の地図を読まされたんで。確かに山があるな、程度は」

「そうか・・・」


 響さんは目を閉じ思案顔になると。


「・・・・ナナシ君。重ね重ね、君には助けられている。借りの一つも返せていない身で、恥を承知で頼みたい」


 その頼みは分かってはいるし、もとよりそのつもりではあったが。

 この懇願は彼らに必要な儀式にも思えたので、ただ聞く。


「我々には君のような実力者を狙撃し得る者たちからマスターを守る力がない。どうか『交錯の里』へマスターを送り届け保護していただけないだろうか」

「・・・・分かりました。俺が責任もって引き受けます」


 俺とっては既に確定していたことだったから茶番にも思えたが、やはり必要な事だったのだろう。

 頭を深々と下げる響さんと聖夜の姿を見てそんなことを思った。


「すまない・・・ありがとう・・・!」

「・・・フユミちゃんも、それでいいかな?」


 あまりにまっすぐな礼に少し照れくささを感じ当人へと確認の意味で問う。


「ん。兄者にはいつも迷惑をかける・・・・」

「そんなのは構わないさ。でも、不安じゃないか?怖くはないのか?」

「どちらもない。響たちにはすまないが、兄者とともにある以上にフユたちが安全な場所はない。それに・・・いずれこのようなことになるのは予感していた」


 自分が何者かに狙われることを?

 その言葉を引き継ぐように響さんが口を開く。


「それほどマスターの力は規格外なのだ。『死者の蘇生』。あまりに理から離れすぎている」


 成程、ユニオンのメンバーが必要最小限なのも、彼女の力を広く広めないための事だとかつて言っていた。

 強大な力の反面、組織の運営が切迫する。皮肉な話だ。

その力を利用しようとしているのか誰かが疎ましく思っているのか知らないが、狙われるのも頷ける。


(当然、フユミちゃんの力はシキミヤの奴も知っているんだろうな)


 今回の件に限らず訳知りな奴の事だ。アジトでの奴との戦いでハルミちゃんの光に助けられた時も奴は『二人の事』を知っている口ぶりだったからな。


「自らの力が招いた事だとは重々承知している。けど、どうか引き受けてほしい」


 ペコリと。

 真摯さは伝わるものの男二人と比べるとえらく可愛らしく見えるそのお辞儀に戸惑いと微笑ましさを覚え。


「皆、そろそろそれ止めてくれ。シキミヤに『交錯の里』の話を聞いた時からそのつもりだったんだから。もとよりこの街を出ても特にあてがあるわけでもないし」


 まぁ、唯火には勝手に次の行き先を決めたことを謝らなければならないが。

 恐らく彼女も二つ返事で引き受けたことだろう。


「俺が・・・俺と唯火がフユミちゃん達を守ります」


 相棒を思い二人分の決意を、フユミちゃん達の前で表明するのだった。

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