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150話 女子会

「お邪魔しまーす」

「どうぞ。狭いですけど」


 勝手知ったるなんとやらというか、実際『探求勢(シーカー)』の施設の一室を間借りしているだけなのだが、一応お決まりのセリフを言っておく。


「ここがナナシさんの部屋なのね・・・・結構キレイにしてるじゃない」

「どうも・・・って、どこも同じ作りですって」


 招き入れた美弥子さんも俺と同じように定番のセリフ。

 キレイなのはあなたが診察中天井裏で時間を過ごしているからですとは言えない。

 ・・・・何かすごく変質者っぽいことを言った気がする。


「ふふっ。それでも少し違って目新しいのよ。こう、ずっと同じ場所の行ったり来たりだとね。匂いとか」

「匂い、ですか・・・・特に臭くはないと思うんですけど、気になったら言ってください」


 消臭のスキルなんて持ち合わせていないから部屋を移動するなり換気するなりしかできないが。


「あっ、違うのよ?嫌な匂いとかじゃなくって、むしろ好きな匂いっていうか・・・・な、何言ってるのかしら私ったら」

「?」


 なにやら普段とは少し雰囲気が違うようだ。

 動作も固いし、限定的なストレス・・・・緊張だろうか?



「あのー。あたしたちもいるんですけどー?」

「こ、こんばんわ。美弥子さん」


 美弥子さんの来訪を察知したのか奥の部屋から顔を覗かせ存在を主張する女子二人。

 他にも誘おうかとも考えたが、部屋も狭いしこの四人で開催することにした。


「・・・・そうだったわね」

「はい。二人とももう来てるんで。上着預かります、どうぞ奥へ」


 身に着けるのが癖になっているのだろう、羽織っているトレードマークの白衣を受け取るとハンガーにかけ奥へと促す。


「あ。ありがとう。なに?なんだかおもてなしされてるみたいね?」

「いやいや、このくらいは」


 どこか嬉しそうにからかうような口調で言う。

 余り過ぎた過ぎた気遣いは変に勘繰られるか?


「まっ。なんか随分と豪華ね」

「でしょ?」

「少し頑張りました」


 お披露目する様に8帖ほどの1Kの部屋へと二人が招き入れると、そう大きくないローテーブルの上には所狭しとつまみになりそうな軽食が並べられている。


「唯火ちゃんが作ったの?すごーい!これは言われた通りご飯少なめにして正解だったわ。でもこんなお料理、どうやって用意したの?」

「えへへ。実は食堂の方の中に前からの知り合いがいまして、お願いして使わせてもらったんです」



 心底感心した様子で俺が勧めたクッションに腰を下ろす美弥子さん。

 他女子二人も同じように座り俺はベッドへと腰掛ける。

 年長者の美弥子さんを上座であるここに案内したいところだが、流石に男の眠るベッドに腰掛けさせるのも微妙だからな。


「ていうか、美弥子さん眼鏡なんですね?」


 扉を開けた時から気になっていたが今日は眼鏡をかけていた。

 スクエア形状で大人な彼女の雰囲気にぴったりなフレームだ。


「ええ。狭い部屋いる時はコンタクトだと少し合わないのよ・・・・あ、ごめんなさい。狭いだなんて」

「気にしないでくださいよ。そもそも本来俺の部屋じゃないですし」


 そうだったわね。とうつむき加減になり耳にかかる髪や、前髪、眼鏡の位置をしきりにいじくりまわすと。


「へ、変じゃないかしら?」

「美弥子さんにとても似合っていると思いますよ」

「そ、そう・・・よかった」


 返答を聞くとせわしない所作は鳴りを潜め落ち着いたようだ。


「なんか今日の美弥子さんあざっといわね。あんなの初めて見た・・・・」

「そ、それになんかすっごく良い匂いします・・・・」


 こそこそ話す女子二人。

 そして来てよかった、とこぼす唯火。同じ女性として美弥子さんの身に着けるものは参考になるんだろうか。



「さて、じゃあそろそろ始めようか。と言ってもそんな改まったもんじゃないけど」



 集まりの目的を果たすべくそう切り出し、各々にグラスを渡していく。


「美弥子さんは『竜殺し』をお注ぎします」


 歓迎会で源蔵さんと清蔵さんに貰った品を注ぐ。

黒粛(ヘカテ)』の残滓によりギルドごと消滅してしまったかと思っていたが、シキミヤの影で避難する直前に食料品なんかも持てるだけ持ち出したらしい。

 この竜殺しも調理場の冷蔵庫を間借りさせてもらっていたからたまたま一緒に避難してもらえたという具合だ。

 確か唯火とも交流があるギルドの水周りを仕切っていた坂井さんだったか。あんな非常事態時によくそんな余裕があったと感心するばかりだ。


「ふふっ。本物の『竜殺し』からこれをお酌してもらえるなんて、贅沢な気分ね」


 中々洒落たことを言う美弥子さん。


「二人はジュースな」

「・・・思ったより疎外感あるわね。これ」

「昔親戚のお家に行った時を思い出します。早く大人になりたいです・・・」


 唯火と朱音にもオレンジジュースを注ぎ終えると。



「「「はい、どうぞ~」」」

「・・・・」


 示し合わせたように3人いっぺんから同じグラスに酌を受ける。

 竜殺し:3 オレンジジュース:7のカクテルが出来上がってしまった。


「まぁ、これはこれで・・・じゃあ」


「「「「かんぱーい」」」」






 ::::::::






「ん・・・このスープ。めちゃくちゃうまいな」


唯火が用意してくれた料理に舌鼓を打ちつつ、俺は一人呟くように感想を漏らす。

たぶん誰にも聞こえていないことだろう。

なにせ――――



「へぇー。ナナシさん、変わった名前だと思ってたけどそんな経緯があったのねぇ」

「名前もおっかしいけど、その経緯もおかしな話よね・・・・ぷっ」

「私も初めて聞いた時実は笑いそうになっちゃったんですよぉ」


「・・・・」



 女3人寄れば『姦しい』。場は完全に温まり今まさにそんな状況だった。

 俺の呟きなど誰の耳にも入りはしない。


「ゴブリンの上位種が名付けの親って・・・・ぷぷっ!ワルイガ、あんた最高ね!」

「でも笑っちゃ失礼だと思って我慢したんですよ。それに、ジェネラルに追われて駆けつけてくれた時・・・・か、か、すごく感謝してたし」

「そうよねぇ、そんな窮地に颯爽と現れられたら・・・そうなっちゃうわよねぇー!」


 何が盛り上がりどころなのか、キャッキャと騒ぎ立てる女性陣。



「そんなことあったの!?この街の『探求勢(シーカー)』連中はそんな過激な話は聞かないけど・・・裏ではやることやってんのね」

「マスターがそんな危ない目にあっていたなんて・・・」

「はい。ですからこの街の『探求勢』の人たちには少し驚いています。」

「それで?『屍人迷宮(グールダンジョン)』に無理やり潜らされてからどうなったの?」



 いや別にいいんだ、互いに親睦を深めるのは。情報交換にもなるし。ゲストの美弥子さんも楽しそうだし。

 だけど、


「――――で、もう私だめだと思ってハルミちゃんを抱きしめて(うずくま)るしかなかったんです」

「「・・・・」」

「ヴェムナスの剣が振り下ろされる音を聞いて、咄嗟に叫びました」

「「・・・ゴクリ」」

「そして、私の耳に届いたのは剣が弾かれる音と・・・」

「「音と・・・?」」

「『もう大丈夫だ』って。初めて会った時(あの時)と同じ、ナナシさんの声だったんです」

「「キャーーー!!」」


 俺の話で盛り上がるのはやめてほしい。本当に。

 何故か『精神耐性・大』を貫通してきているから。


「ちょっとワルイガ!誰よ!唯火の話に出てくるこの勇者みたいなやつ!そういや聖夜も『小鬼迷宮』であんたが駆け付けた時、背中越しにそんなこと言ってたって言ってたわね」

「唯火ちゃんずるい!それはずるいわ!そんなシチュエーションヒロインじゃない!」

「長く居る者の特権ですねぇ」


 余りに居た堪れなさ過ぎて俺はたまに振られても相槌を適当に打つ程度。

 彼女たちのグラスが空けば即座に補充する自動マシーンと化していた。


「あたしの初対面の時なんかこいつもう、容赦なくぶった斬ってきたからね?女相手によ?」

「それはちょっと怖いわねぇ。マスターが居なかったと考えると」

「いや、あの時はお前の方がこっちを挑発してきてたろ。『誤解はあるけど解くのは面白くない』みたいなこと言って」

「う・・・こ、こっちにも色々事情があんのよ」

「でもまぁ、冷静に考えると流石に容赦なさすぎかも?」

「・・・・すまんかった」


 時に説教され。


「はい!あるわよ!私も!」

「はい美弥子さんどうぞ」

「あれはまだ皆ナナシさんを受け入れてなかった時ね。火竜討伐直後の話なんだけどね?」

「あー。あの時ナナシさん見回りって言ってましたけど、多分居心地悪かったんですよね・・・・」

「はいはいはい。パ・・・次席をぶっ飛ばしちゃって皆に警戒されてた時ね!何あんた、結構繊細なの?案外かわいいところあるじゃない」

「・・・・」


 思いもよらないイジリを受け。


「でね?まだ火竜が残した炎が燻ってた現場でね?頑なにナナシさんを受け入れられなかった皆に対して、こう・・・・剣を掲げて―――」

「どこの三国志よそれ!クッサー!」

「ナナシさん結構ロマンチストなところあったりしますよね」

「でも・・・・よかったわ。とても真摯な目で訴えかけてくるのがもう・・・」


 思い出すと恥ずかしい記憶を掘り返され。


「てかあたしに対して当たり強くない?あんた。出会い頭に斬り捨てるわ、飛竜の時は放り投げるわ」

「そういえば池竜の時朱音ちゃんなんであんな血みどろだったの?」

「こいつのせいで人間ミサイルで突っ込まされたの」

「え!?なに?その特殊な感じ・・・?」

「ナ、ナナシさん、一体どんな方法で倒したんですか?」


 思わぬ冤罪を着せられたり。


「果てにはあたしに向かって『邪魔だ!』よ?」

「ナナシさんもそんなに声を荒らげることがあるのね・・・あっでも、言われてみたいかも」

「み、美弥子さん?」


 いまだに根に持っている件を蒸し返したり。

 ・・・というか、朱音。

 なんか・・・すまんな。これからはもう少し気を付けて接するよ。


「でも、なるほどねぇ。確かにこんな戦いに明け暮れる毎日じゃ()()()余裕もないのも頷けるわ・・・」

「美弥子さん。こいつ冷酷なサイコパスの気質あるから、もしかしたらそこらへん捻くれてるのかも」

「あ、朱音ちゃん、それは言い過ぎだってば。それに屋上ではナナシさ―――」

「「屋上で?」」

「・・・・あ。これおいしー」

「「言いなさいよー!」」


 と、こんな感じでキャッキャと姦しいことこの上ない女子会が繰り広げられていた。

 ちょこちょこ朱音が『遮音(ミュート)』を重ね掛けしているから周りを騒がすこともないが流石にはしゃぎすぎだ。

 美弥子さんはいつもの雰囲気に反して、唯火と朱音は酒でも混入しているんじゃないかというはしゃぎよう。


(・・・・まぁいいか)


 俺をイジるのを肴に楽しい時間が過ごせるなら。

 少しくらい我慢しよう。


「えっと・・・・試しにこう、肩にコツン・・・みたいな?」

「「あざとーい!!」」


「・・・・」


 彼女たちの笑顔を見るに、

 この集まりの目的は恐らく果たせたようだった。


 ・・・・同じような機会がある時は響さんや聖夜も巻き込もう。


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