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143話 裏の裏切り

《あーあーあー!》


《・・・うるさいのだけれど》


《あーそうかい!誰のせいだろうなぁ!?》


《鏡を見なさい》


《てめぇ・・・!》


《だから、ここで、ケンカしない。毎回止めるこっちの身にもなってほしい》


《そうねぇ、ケンカするほどっていうけど。あなた達はちょっとシャレにならなくなっちゃうから。めっ。よ?》


《私は対話を望んでるのだけどね》


《かまととぶってんじゃねぇぞ?お?『超越者』にあのガキが踏み込んだのがそんなに嬉しいか?ゴキゲンなのか!?》


《加えて、無粋な横槍が読み通り潰えたのを見て気分がいいの》


《あ?》


《もういい。今回もこれで終わりにする。時間の無駄。いいでしょ?》


《そうねぇ。新たな『超越者』ちゃんが現れたこととか、それがイレギュラーちゃんなこととか、色々お話ししたかったんだけど・・・・頭を冷やしてまた今度、ってことにしましょう》


《おい!まだ話は————》


《そう。じゃあ、失礼するわ》


《そういうこと。次までに頭冷やして》


《それじゃあねぇ~》


《てめぇらおい!》


《・・・・》


《行ったか。それでいい、あの様子じゃまだ誰も気づいてやしねぇ。当然だ、こうも立て続けに例外が出てくるとは思わねぇもんな?・・・さて、どう転ぶか。面白くなってきやがった》






::::::::






「はぁっ!はぁっ!・・・くそっ!」



岩肌がむき出しの曲がりくねる薄暗い洞窟を、自然にたまった水たまりを弾きながら、転がる小石を蹴飛ばしながら全力で走り抜ける。


二の腕に刺さった矢が、折れた右腕が、全身をかすめる裂傷が。

地を蹴るたびに痛みを発し気力を削いでいく。


そのたびに、ここ数日の出来事が脳裏によぎる。



「なんでっ、こんなことに・・・!」



迂闊だった。


ダンジョン突入最大人数13名。

内7名はギルド結成時からの仲間。次席からの信頼も厚い、信の置ける仲間。

だと・・・・・思っていたのに。



「ちくしょう・・・・」



全員が全員、()()だった。

こちらの狙いが完全に裏をかかれた、炙り出されたのは僕だった!



「ちくしょう、ちくしょう!」



この状況まで織り込み済みだったのか、今では知る由もない。

裏切りの刃を僕の背に向けた他の12名は、



「馬鹿・・・・野郎・・・!」



全員、狡猾な小鬼(ゴブリン)たちの餌食となった。

奇しくも、その襲撃のおかげで今自分は生きながらえている。


凶刃を向けた旧知の死に際に、一瞬交差した視線に、かつてを追憶し涙した。



「くそ!くそ、くそ、くそぉ!!」



だが今は、目元に溜まるその雫は視界を遮り逃亡を阻害する枷となる。



「「「「ゲギャァァアアァア!!!」」」」



数多の、無数の、数え切ることのできないゴブリン達の鳴き声が後方から耳へ届く。

仲間に、友に、裏切ら切られて尚。

何を原動力として生にしがみつくのか自分でもわからない。


手元の腕時計が狂っていなければ、ダンジョン攻略開始から4日目だ。

ダンジョン内には陽光など刺さないが今頃地上は日の照る明朝だ。



「もう・・・体力も、直尽きる」



仲間だった者たちがその本性を現したのが2日に最下層に到達した時。

そして死にゆく彼らに背を向け寝ずの逃亡、道中隠れてやり過ごしてきた。

地上へ逃れる扉を求めて階層を逆走してきた。


だがそれももう——————



「はーーっ・・・はーーっ・・・」



終わりだと。

岩肌に膝をつく痛みがそう告げているような気がした。



「地上は・・・どうなっているだろうな・・・」



天を仰ぐ。

そこに果てしなく抜ける空はなく、体を照らす光もなく、影とただの岩。

絶望、とはこういうことを言うのだと、理解した。



「「「「ゲゲゲゲゲゲ!!」」」」



いつの間にか随分と広い広場に来ていたようだ。

ゴブリン達の声が360度全方位から聞こえる。


記憶を辿ると、ここはダンジョンに入り口から程近い場所だ。

攻略開始まもなくこんな広間に出た。


だがもう、心は折れている。



「好きに、しろ、よ」



膝をついたまま項垂れると、包囲の先頭から弓を番える気配。

的にして嬲ろうという魂胆なのだろう。

こういう風に殺しを楽しむ趣向があるのは、死んでいったメンバー達を見て知っている。



「君のアドバイス、活かせなかったな。ナナシ」



唐突に、数日前突然姿を現した青年を思い出す。

あの男ならば今の自分のような失態は犯さなかっただろうか。

そう思える強さが、底知れなさが彼にはあった。



「「「ゲギャ!」」」



その一鳴きを合図に弓弦が弾かれる乾いた音とともに一斉に放たれる矢。



(ああ・・・思ったより、楽に死ねそうだ)



そんなことを思い、視界は暗転。


瞼を閉じてない状態で訪れる漆黒の世界。



「これが、死か・・・」



さぁ、瞼を閉じ——————



「——————え?」



閉じかけた視界が色を取り戻す。

覆っていたヴェールが剝ぎ取られるように闇が、影が一つの地点へと収束してゆく。

それを束ねる先のシルエットは人の形を成していた。



カラカラと岩肌を打つ乾いた音が周囲から響く。

遅れて、何かに弾かれ堕とされた矢が奏でたものだと理解する。




「—————なんだか、懐かしいな。こんな場面」




完全に収束し人影の首元になびくのは影などではなく、薄暗い洞窟で尚艶やかな光沢を放つ羽衣。

黒鉄の鎧を左腕に纏い、帯剣したそれに手を掛け鈍い輝きを秘めた刀身を解放する。



「「「「ゲ・・・ゲギャ・・・」」」」




戦いへと向けた闘気が充満していく中、包囲する陣形が一斉に後ずさるように後退。

そのわずかな時間でこちらを振り向くのは、




「・・・・僕は、夢でも見ているのかい?()()()



異形の群れに囲まれた悪夢に突如として現れた光に、そう問わずにはいられなかった。



「悪夢を見てるなら、すぐ醒める」



こちらに向けられる双眸は、見知ったもので、また別人でもあった。

瞳に宿る不思議な光を従えるように淡い軌跡を残しながら振り向くと。


剣の切っ先を包囲の一角へと突きつけ、




「もう大丈夫だ。聖夜」




魔窟にひしめき蠢く異形を、漂う闇を。


閃く一筋の剣閃が浄化する様に薙ぎ払った。


「誰やっけこいつ?」

ってなった、

作者もなった。


ちなみに、

4話で主人公がゴブリンに追いかけられる場面と被らせてます。

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