140話 VS星竜 闇を抜ける剣
(さて、どうする?)
剣に手を掛けながら思案する。
(同じ手はもう使えない・・・)
奴の『重力操作』を逆手に取ったあの策が今の俺にとっての最大火力。
けど、あいつが俺に遠距離攻撃の手段があると知ってしまった今、到底同じ状況に持ち込めるとは思えない。
(一か八か、通常の『飛突閃』で仕掛けるか?)
いや。何百発も撃てば一つくらいは当たるかもしれないが、こっちの得物は一つだけ。
この開けた屋上で宙を縦横無尽に跳び回る的に投げてみろ。
自ら武器を捨てるただの阿呆の出来上がりだ。
(遠距離戦はもう無理・・・・接近戦も望みは薄い)
逆に接近戦でこちらが仕掛ける可能性が高くなる想定もしているだろうから近づくことも困難だろう。
何より、
(もう、『超加速』の効力が切れたか)
元のステータスに戻ったこの状態の片足では、剣の間合いまで飛ぶには無理がある。
「まいったな、おい・・・」
「何ヤラ、長考シテイルヨウダガ」
考えれば考えるほど勝ちへの道が塞がる状況にぼやくと、竜が口を開く。
「考エタトコロデ無意味ダ」
「やってみなきゃわからないだろ?」
ハッタリ。
苦しいが、不敵に強気な態度から何かあると思ってくれればあちらの出方に少し変化があるかもしれない。
「イヤ。モウ何モデキル事ハ無イ。言ッタハズダ。終演ダト」
そして、時間切れ。だとも——————
「ウソ、だろ・・・?」
滞空するアトラゥス。その背後、いや上空。
空一面を覆う暗雲、そこから巨大な黒。
奴が現れた時と同じように雲を散らしながら、黒く巨大な球が出現する。
「先程、飛ビ立ツ前ニ、『大魔法』ノ構築ハ終ワッテイタ。マァ、依然トシテ私ト繋ガッテイル故ニ片角ヲ失ッタ今、多少威力ガ落チルガ」
元よりこの都など消滅させるには過ぎた威を含んでいるから、消滅は免れない。と言う。
「同胞ノ『魂』モ取リ戻シタ、モウココニ用ハナイ——————」
「これは、本気でヤバイな・・・!」
まるで惑星でも落ちてくるんじゃないかという危機感。
俺に魔法的な力があれば少しは対抗する目もあったかもしれないが、目の前に現れた超魔法的存在を前にして剣を振るだ投げるだの手段がいかに無力か。
気休めに剣を抜くも、こいつが役に立つ場面が一切イメージできない。
「コノ黒球ガ地ニ触レレバ、完全ニ発動スル。名ハ『黒粛』。神ノ名ヲ冠スル大魔法ダ」
「それは、随分と高尚なもんで・・・」
「都モオ前モ、直消エル——————ダガ」
黒球に吸い込まれるように更に高度を上げ離れ行く竜。
そして『重力操作』により魔石とともに浮遊していた大小さまざまな瓦礫。
追従するように徐々に高度を増し同じ高さへ至ると。
「私ノ角ヲ砕キシ人間、ワルイガ=ナナシ。オ前ハ敬意ヲモッテ私ガ葬ロウ」
「くっ・・・!」
翼をひと薙ぎすると無数の弾丸が降り注ぐ。
何度か見舞った瓦礫の弾幕。
そう広くない屋上、『超加速』の恩恵を失った今、回避する手立てはない。
「くっ、そ・・・ぉお、おぉぉぁあああ!!」
辺りを、全身を打つ着弾の破壊音と痛み、そして迫る『黒粛』の圧迫感に吠えながら耐えるしかなかった。
ふと、ひと際大きい弾丸が足元に着弾。
「!?」
その余波で体はふわりと弾かれ宙を舞う、何度も経験した感覚、圧縮される時間が訪れる。
眼球だけはその時間の中で素早く動き、置かれた状況を視認。
こちらを見下ろすアトラゥス。
そのすぐ傍まで迫る黒球。
そして眼下には、足を着ける地が存在しない。
(落ち——————)
片足は使い物にならない満身創痍の状態、そしてこの高所からの落下。
待つのは確実なる『死』。
訪れる落下感とその先にある結末を予感するも、
叫び声も何も、出なかった。
「朱音ちゃん!!」
「『超剛力』!!」
落下感に胸を締め付けられるような感覚を体感した瞬間、耳に届くのは二つの声。
そして目に映るのは——————
「唯火!!?」
手すりから身を乗り出しこちらに手を差し伸ばす彼女の姿。
その手は、俺自身が無意識に生への執着から既に突き出していた手と絡まり。
赤銅の瞳と視線が交差すると、思考を加速させる。
二人が何故ここにいるかの思案は完全に除去し。
前後の状況を掌握すると——————
「行きます!」
「ああ!」
急速に引っ張られる左腕。
その進行の先は上。天に向かって体が引き上げられる。
『超剛力』を付与した唯火の膂力で引き上げられる腕が軋むような悲鳴を上げた。
だがこんなものは、彼女に直後に訪れる痛みを思えば何のことはない。
「——————ッ!!」
痛みに耐えながら、苦痛の吐息をかすかに漏らしながら唯火は腕を振り切る。
手が離れぬくもりが消えると、俺の体は重力に逆らい弾丸のように上昇。
「アトラゥス!!」
その行く先、切るべき敵へと吠える。
「マダ足掻クカ!!」
こちらに向かって両腕を突き出す所作。
すると眼前には黒球の姿をした大魔法『黒粛』が、圧倒的な存在感が割り込み立ちはだかる。
(落下の速度を操った・・・!)
目の前を埋め尽くす、迫る黒。
この空を裂く速度は、もう止まることはない、止まるつもりもない。
唯火が、朱音が、二人はつないだこの局面を振り返らずに駆け抜けるだけだ。
「ぅぉおぉおおおおあああ!!」
街を飲み込むという、黒の塊の中へ沈み込む。
まるですべての星が死滅したような、宇宙のような闇がそこにはあった。
すべての色が消えた世界。
そして三度、訪れる緩慢なる時間の流れ。
その中で。この魔法の中の、この空間。
ここはさっきまでとは別の、隔絶された別の世界なのだと唐突に理解する。
体が伸びているような気もするし、捻じれてているような気もする。
自身が個でなく複数とも認識できる。
全てが不確かな、何一つ思考が完結されない瞬間。
「——————斬る」
その狂ってしまいそうな空間で。
「斬る」
断りから外れた重力の嵐の中で。
「お前を、斬る」
剣を握っているという事象だけが確立された事実となる。
そしてその果ての望みをつかみ取るべく、その手段たる記憶を手繰る。
走馬灯と言い換えてもいいかもしれない。
『—————いい?■■■■。次は量子力学よ。・・・・え?ブラックホール?ああ、子供向けの図鑑を見たのね。私も子供の時分にどんなもんかとみてみたけど、まさに子供だましだったわ・・・・まだ子供だろ、ですって?そんな一般的な尺度、聞きたくない』
記憶。
『怖い夢を見た?ブラックホールの?はぁ・・・・■■■■。天文学なんて正直薦める気がしないわ。現実に実現不可な理論をはじき出して、そんなの立証とは言わないと思うの・・・怖いものは怖いからブラックホールから脱出する方法を教えろ?うわ出たわねー、不毛なSFテーマ・・・・ち、ちょっと。な、泣かないでよ!あーもう、分かったわよ』
俺の記憶。
『—————とまぁ、こんな感じの学説が・・・・そんなできないこと言われても困る?だから言ってるじゃない!無意味なの!人間は光より早く動けないのなんて当然なんだから・・・まだ、知りたいの?』
ここでも名は呼ばれない、聞こえない。
『はぁ。こういう話は嫌いなんだけど・・・いい?■■■■。物事、事象を前にする時はまず『アクセス』することから始まるの。同じ次元に立つことが一番の近道。目に映る情報、記号と言い換えてもいいわね。これは全部『そこ』にあるの。結果が成り立つ前に結果として完結しているの。・・・哲学じゃないわよ』
けど、欲しい答えは。
『要するに、まず『アクセス』すること。し得る自分であること。結局、世界の事象なんてものは全部つながってるんだから極論できないことなんてないのよ・・・・言ってる事が違う?結局どうすればって・・・・頭が固いわね。あなたが好きな漫画とかでやってる現象。それに紐づけて『アクセス』すればブラックホールの重力から抜けるのだって簡単でしょ?だって——————』
空想なんだもの。
《熟練度が一定に達しました》
《魔力の発現を確認。条件を満たしました》
《職業:【次元掌握者】 獲得》
《『現象転移LV.1』 獲得》
《『隔絶空間LV.1』 獲得》
届く。
最初に感じたのはそのイメージ。
魔力とやらを、自分の中に増えたもう一つの器のようなものに感じると。
届く、のではなく——————
「——————そこに、成る」
虚空に、黒の闇に剣閃を走らせると。
《——————》
今までなかった感覚が、外の認識を阻害するこの空間の中で、奴の咆哮を知覚。
「—————ナナシさん!!」
闇が、引き波の様に縮小していき、
世界に色が戻る。
「終わりだ!アトラゥス!」
色付いた視界で。
「何ヲ、シタァ!?オ前ハ———」
両角を失い叫びを上げる竜。
その袈裟を、空に突き抜ける様な斬撃をもって、
斬り裂いた。
なんかポエミーですね。
そして急にチートっぽいやつ。
あと、職業名また納得いってないです。
だってなんかハ〇ーポッ〇ーなんだもん。
暇なセンスの猛者はセンス分けてくださってもよろしいのですよ?
スキル名もルビ有無未定。




