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139話 VS星竜 決着へ向けて

「ワ、私ノ尾ヲ掴ムナド、気安イゾ!」


「そりゃ失敬・・・っ!」



竜種にとっての尻尾に触る忌避感などは俺にはわからないが、吐きてるように表面上の謝罪をこぼす。

だがどうやらこの行為も気高き竜にとって逆鱗に触れるに等しいらしく。



「痴レ者ガ・・・」


「ぅ、おわ・・・!?」



急降下、急上昇、急旋回のアクロバティックな飛翔を開始する。

雲を下に見るほどの高度ではないから呼吸はできるがなにせ安全帯もなしにジェット機の機外にしがみついているような状況。


繰り返す浮遊感。『重力操作』を受けた時とはまた違う、血流がかき混ぜられるかと思うほどのG。

上下左右目まぐるしく回る視界。



(くそ!しがみつくのが精一杯で、剣も抜けやしない!)



もちろんこの状態での『竜殺し』の属性攻撃を危惧しての暴れようだろうが、是が非にも俺を落としたいらしい。


その時、



「ッ!?」


「人間・・・ッ!」



急停止。

惰性で前方向へと引っ張られ、その衝撃に尻尾を掴む指の掛かりが僅かに滑り、




「しまっ——————」


「墜チロ!!」



瞬間、視界は反転。天地の区別がつかなくなるほど視界がシャッフルされる。

指先からは尾を掴む感触が消えていた。




「ぅ、あぁあああぁあああ!?」




血の気が引く。どれほどの高度かもわからぬまま体勢を整えることもかなわない急速落下。

尻尾を鞭のようにしならせ俺をぶん投げたのだろう。


この速度で、地面に叩き付けられたらステータスの恩恵も意味を成さず砕け散る。


だが、色濃い死の予感が付きまとう落下感は——————




「・・・・ぐっ!!?」




全身を打つ衝撃と骨まで響く崩落音と同時に、思いのほか短く終わった。




「ぐ・・・・い、てぇ」




言いながら、痛い程度で済んでよかったと心底安堵する。



「ここは・・・・建物の中か」




視界は薄暗く閉ざされ、その原因であるのし掛かる瓦礫達が建造物の中であることを教えていた。



「あい、つは!どこだ?」



瓦礫を払いながら状況を確認する。

当たりは土埃でいまだ視界は晴れない、天井を見上げると幾層もの大穴がぶち抜いていた。

そこから空に広がる暗雲がのぞく。




「・・・結構高いビルに落ちたみたいだな」




振り落とされた俺が作り上げたであろう空まで抜ける穴。そこから通る風の音となんとなく空が近く感じるのでそう判断する。



(助かった・・・・ここに落ちてなきゃ死んでたかもしれない)



ほっと一息つくも、依然として時限付きの危機は去っていない。

早く行動しなければ。



「とにかく、ここの屋上に——————」



戦いで折れた足を引きずり上へと行く算段を考えていると、先ほどまで俺を下敷きにしていた瓦礫達が僅かに震えだす。

この感じ、身に覚えがある。



「『重力操作』!」



瓦礫は浮き上がり天に空いた穴に吸い込まれるように浮上していく。

奴がまだ近くにいる証拠、俺にとっては吉報だった。



「ん?あれは・・・」



浮き上がる瓦礫の中に、不自然に輝く物体を視認。

こんな不思議な輝きをもつものは俺は一つしか知らない。



(魔石だ!)



それもここ最近見覚えのある色。

翠の多量の小粒な魔石。そして同じく小粒な紫色の大量の魔石。


リザードランナーの群れと、駅で戦った母竜の眷属がドロップしたものだ。

つまりここは——————



「ユニオンのアジトか!」



俺たちが倒してきた竜種の魔石はアジトに保管していると聞く。

宙を振り回されているうちにアジトのビル付近まで飛んできていたのか。



「いや、それよか。偶然とは思えない」




『ダガ、時間切レダ。私ハ残サレタ目的ヲ果タソウ・・・・同胞ハ返シテモラウ』

『残ルハ・・・・一ツノ場所ニ集結シテイルヨウダナ』




「あいつの目的ってのは、俺たちが倒してきた竜種の魔石を回収すること・・・?」



火竜(サラマンダー)飛竜(ワイバーン)。リザードランナー。地竜(ちりゅう)母竜(ぼりゅう)




(唯火の操る『火竜の魔石』はさっき回収、リザードランナと母竜の眷属の魔石は今)




となると『飛竜の魔石』が見当たらないが、見逃したのか?

けど、奴の口ぶりでは魔石の気配を感知できるようだった。

『地竜の魔石』。いや、魔核に関しては俺の装備と融合してしまったから気づかなかったのだろう



「・・・・考えるのはあとだ」



そう、今重要なのは魔石の行く先。そこに間違いなく名持ちの竜がいるということ。


その確信を得ると床を蹴り無重力に体を委ね魔石を追う。




「ここで。決まる」




最後に空いた穴をくぐると縁に捕まり屋上へと降り立つ。


やや遅れて、追い越した魔石たちが空へと昇っていくのを目で追っていくと。




「——————モウ、終演ニシヨウ」


「そうだな・・・」



薄い太陽の光を背に受け空を舞い、上空から人間(こちら)を見下ろす竜の姿。


逆光の中で視線が交差。


本能的に、これが最後の対峙だと直感した。






::::::::






「はぁ・・・・」



また彼一人で行かせてしまった。

今は竜と彼が飛んで行った方角へと急いで追跡するべきだけど、思わずため息とともに立ち止まってしまう。



「唯火!はっ、あんた、速すぎ・・・!」


「朱音ちゃん」



息せき切って駆け寄ってくる朱音ちゃん、シキミヤの言う重力の結界が唐突に消滅した途端振り返りもせず全開の『魔添』で駆けつけたものだから彼女を置いてけぼりにしてしまった。



「——————で?ワルイガと名持(ネームド)は?」


「それが・・・・」



つい今起きたことを手短に説明すると。



「入れ違いってわけ?どうするの?あいつの言うことが本当なら時間がないんでしょ?」


「・・・・うん」



名持の竜、アトラゥスが構築中の『大魔法』のタイムリミットを指しているんだろう。

シキミヤの情報を信じるなら残された猶予は短いし、聞きそびれたけどナナシさんのあの必死な様子を見るに本当なのだと思う。



「あんなボロボロな体で・・・・」


「唯火?」



置かれた状況もそうだが、未来の被害よりも今の彼への心配が勝り思わず口にしてしまう。



「体中から血が滲んで、足なんか不自然に引きずってた・・・・」



短い付き合いだけど、あそこまで傷を負った彼は初めて見る。


最悪の、



「もし、この戦いでナナシさんが——————」



力尽きてしまったら。

目先の危機より彼がいなくなる未来を想像する。

その時は『大魔法』により自分も消えてしまうというのに、どこまでも非生産的なマイナス思考。


けど、今は何においても行動しなければならないのは頭できちんと理解している。


だから——————




「・・・・っ」


「この一発が欲しかったんでしょ?」




頬を打つ脳を揺らすほどの衝撃と、鼓膜に直接打ち付けるような乾いた音がすごくありがたかった


手短な朱音ちゃんの、友達の問いに薄く唇を開き答え——————






「あれ・・・?修羅場?」


「「!?」」



紡ごうとした言葉を忘れるくらいの衝撃。



「えーっと・・・・気まずっ」



声に声に振り返ると。



「・・・・んまぁいいや。二人とも送ってってあげるよ~」



足元から伸びる私の影から、白髪の・・・・シキミヤがその首だけをのぞかせていた。



「どこに、なんて野暮なこと聞かないでね?気が変わっちゃうかもだよぉ」


「・・・・朱音ちゃん」



面妖なその姿に一言言いたいところだけど、今さっき言いそびれた言葉で答えよう。



戦おう(行こう)


「りょーかい」



応じるとともに、私たちは影に沈んでいった。


VS星竜長いな

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