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138話 VS星竜 切っ先の行方

「グォォアアァアォアォオオオオアアアア!!」



人語を捨て、本来あるべき音域で発せられる咆哮、叫び。

その音圧だけで鼓膜を破壊寸前まで揺らし、大気を震わせる。


それは聞くものあらゆる生物を震え上がらせ本能的な恐怖を抱かせるだろう。


だが、この場においては、




(―――!無重力(スキル)が、解けた!?)




竜の咆哮(それ)は、吉兆。

放たれたつるぎの手応え、その行く先を示唆する苦悶の叫び。



(やった、のか・・・?)



全身を包む無空から解放され数秒ぶりの重力と引力。

そして落下。



(見届け、なければ・・・!)



そんな自身に訪れている現状を意にも介さず、剣の行く先、アトラゥスへと視線を注ぐ。


そんな状態で受け身など取れるはずもなく。



「―――かはッ!」



不格好に背中から着地してしまう。


肺から押し出される酸素を感じながら、尚も竜へと視線を向ける。

賭けを乗り切った、瞬間的な安堵とともに堰を切ったように血流が流れ始め忘れかけていた心臓の鼓動が激しく脈打つ。




「どうなった・・・・?」




脈動が、鼓膜を直接震わす鼓動が、確認しろと急かす。

己の全霊の策がどのように終着したか―――


途端、振り返るように思考が反芻される。




(一か八だったが『武具投擲』を合わせ技の条件であるLV.10へと消化できた、その過程で奴の中に『怒り』を生み、俺の唐突な行動への猜疑心を中和。一発目に放った全開の『瞬動必斬(オキザリノタチ)』もハッタリとして成立させる程度には制御できた)




自身の中で、言い聞かせるような答え合わせ。




(その先は、あの速度を捕らえる、無力化するに最も適した最適解を奴がはじき出してくれるかが問題だったが・・・それも杞憂に終わった。睨んだとおりのやり手だったんだ)




その自問自答は―――



(奴の重力操作の異能とそこから発生する遠距離に翻弄されているときから、それに対する抵抗手段、俺自身が有効打になる遠距離攻撃を持っていないと奴が認識した時からこの策は始まっていた・・・・反面それは、捨て身。片足を捨てる、ヤツと唯一肩を並べる機動力を犠牲にする―――)




俺にはもう、後がないことを暗示していた。






「・・・・それだっていうのに、よ」




片足はつぶれ、技の反動で脱臼寸前。

剣は手元を離れた無防備な状態。

体中決して浅くない傷が多数。




「マ、サカ・・・ナ・・・」


「・・・・こっちの、セリフだ」




渾身、自分なりに練り上げ完全に虚を突いた一撃。


飛突閃エアスティング』は、ただ得物を超速で投げ放つスキルではない。

追加効果で対象の弱点を看破したうえでそこを狙い撃ちにし射貫く必殺の投擲スキル。


竜の体の一部を『竜殺し』で貫いたのは間違いない、だが



()ヲ・・・・失ウ事ニナロウトハ」



視認できる奴の損傷は、二対ある片方の角の折損。

そして肩口の鱗と甲殻を抉られ露わになった血肉から多量の出血。



(致命傷、には・・・・)



到底及ばない状態だった。



「くそ・・・ッ!」



しくじったのか?『弱点』系統のスキルは確かに発動していた。

無重力の不安定な体勢からの一瞬の投擲、狙いがずれたのか?

余りに一瞬だったから『特攻』部位が認識できなかったせいか?

それでも感じた手応えは幻想だったのか?

まさか、上乗せされたあの速度でも辛うじて躱されたのか?



(剣を・・・!とにかく、早く剣を取れ!)



繰り返す自問。

唯一やつと並ぶ機動力を捨ててまで放った一撃でも倒しきれない現実。

次なる策など想定していないこの状況で、俺にできることは地に刺さる剣の元へと這いずるように向かうことだけだった。



(剣を握って、立ち上がれ・・・片足でも)



何とか剣の元へとたどり着き、それを杖代わりに何とか立ち上がる。

そこで、頭上から影が落ちる。


見上げなくても影の正体は分かった。




「はっ・・・はっ・・・」


「・・・・」



肩で息する俺の吐息と、かすかだが乱れた息を吐く竜。

双方の呼吸音だけが俺たちの間にあった。


すると——————




「・・・・大シタモノ、ダ」


「くっ・・・」



先の一撃への称賛だろうか。

その発言に奴が健在であることを示しているように感じた。


降ってくる言葉に、諦めの兆しが首をもたげかかった。

その時、



「——————なんだ?」



途端、身を包む違和感。

空気中の何かが変化したような・・・・



「いや、これは・・・」



戻ったんだ。

体にのしかかるような感覚、自重が増えたような拘束感、それが消え失せた。



「・・・・()()()()()()『領域』ヲ、維持デキナイカ」


(どういう、ことだ?それほどの深手には見えないが・・・・)



俺に賞賛を送る眼前の竜は明らかに疲弊した様子だった。

だがどうにもその身に負った傷と、『領域』とやらを維持できないほどの消耗とはつながらないように思える。





「ナナシさん!!」


「—————ヌ、ゥ?」





得心のいかないまま竜を観察しようと視線を上げると、視界の端から真っ赤な光源。

そして聞きなじんだ声が飛び込む。




「唯、火?」




アトラゥスの言う『領域』が消えたことでここら一帯への侵入を阻んでいた障壁も消滅したのだろうと、遅れて理解する。




「・・・ホゥ。ソノ火球、我ガ同胞ノモノカ」



駆けつけた唯火の放つ燃える魔石。

横合いから打ち込まれた燃え盛る弾丸を、腕をかざし肉体の強度のみで受ける。



「くっ!なんて硬さ・・・!」



援軍。

本来なら喜ぶべきところだが、彼女でも歯が立たないことはさっきまで戦っていた俺自身がよくわかる。



「唯火!動きを止めるな!『重力操作』に捕まるぞ!」


「!?」



だが警告もむなしく見えない何かに押さえつけられたように膝を折りそうになる唯火。

だが、



「『()(てん)』・・・!」


「・・・ヤハリ、コノ程度ノ出力カ」


「『重力操作』から、抜けた?」



驚いたことに、唯火は加重の拘束から脱したのだ。



(どういうことだ?確かに今の奴は『大魔法』の構築に力を裂いているから弱体化している。けど、それでもピンポイントで狙う『重力操作』の威力は、最初に唯火を膝つかせた相当の威力はあるはずだ)



さっきまでの『領域』内での戦闘で何度か食らった体感だから間違いない。

『魔添』で肉体を強化しても抜け切れるとは思えないし、初見時にもすでに発動していたはず。



(何が違う?)



メンバー達を連れて離脱してからの数分で唯火が急激に成長した?

それとも俺との戦闘でそこまで疲弊しているのか?

もしくは『大魔法』の構築は時間経過で力を消耗していく仕様なのか?


どれもピンとこない。




「・・・・マァ、ヨイ。手間ガ省ケタ」


「「!?」」




剣がつけた傷口から血が噴き出るのも構わず翼を広げる。

その動作で生まれた風圧に俺たちの動きは止まった。



「人間ノ・・・ワルイガ=ナナシ。オ前ノちから、見セテモラッタ。私ノ『角』ヲ砕イタ策略、一撃、見事ダッタ」


(・・・・角?まさか)



先程までとは異なる条件、奴にとっての変化、角。

『竜殺し』によって砕かれた角。



「ダガ、時間切レダ。私ハ残サレタ目的ヲ果タソウ・・・・同胞ハ返シテモラウ」



言うと、唯火の『躁玉』を受けた掌を握り込み『火竜の魔石』を包み込む。

続けて、



「残ルハ・・・・一ツノ場所ニ集結シテイルヨウダナ」



何度か見てきた翼の羽ばたきだが、今日見たどれよりも気怠く愚鈍さを感じる動きで翼が風を起こす。



「——————待て!どこに行くつもりだ!?」


「聞イタトコロデ、ソノ体デハ何モデキマイ」



地から足は離れどこかへと飛び去ろうとするアトラゥス。



(まずい、このまま距離を空けられたら・・・!)



手の届かないところへ逃げられその目的とやらを果たしたらもうこの地に用はないだろう。

ブラックホールと同じ現象を引き起こすという『大魔法』が発動しすべてが終わる。



「唯火!」


「! はい!」



剣を鞘に納め彼女に呼びかけると。



「上だ!俺をあいつのところまで!」



返事を聞く前に、使い物にならない足を引きずりながら駆け寄り。




「~~~~っ!も、もうっ!わかりました!」


「頼む!」



残った足で唯火にむかって浅く跳躍すると。



「気を付けてください・・・!」


「ああ!」



組んだ両の掌に宙高く押し上げられ。




「——————よしっ!」


「・・・呆レルホドノ、諦メノ悪サダナ」



うねりながら高度を上げる長い尻尾に取りつくことに成功した。


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