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137話 VS星竜 無空の一閃

剣を。友が残した(戦友)を抜く。

いつもより、重く、体の一部と感じるほど手に吸い付く普段の握り心地とはどこか異なる。

言うまでもなく蓄積したダメージと疲労が剣を握り込む握力を著しく削いでいるせいだ。



「ふぅーーッ・・・・」



乱れた呼吸を整える。

直前に食らった礫の弾幕、生きた心地がしなかった。

俺が投げた石つぶてをそのまま攻撃に転用したアトラゥスは、表情こそないものの明らかに怒気放たれた怒気。

正直気圧された。



(けどそのおかげで、全弾命中だけは避けられた)



その怒気により礫にはわずかな敵意を感知できた。


とはいっても、かろうじて発動条件を満たしていた『明鏡止水めいきょうしすい』は使用できなかった。

今の肉体であの反動の大きい大技を出せば、深刻なダメージを負うかもしれない。

そのリスクが、『直感反応』と『索敵』それぞれ単体で凌ぐ選択肢を選ばせたのだ。



(その甲斐は、あった)



こうして今、最初で最後の賭けに挑むことができる。



「行くぞ。アトラゥス」


「・・・・」



竜種としての矜持か。

翼による飛翔を停止し、地に降り立つ星竜。


『勝負』と口にしたこちらに対し、何か妙な懐疑を抱くところはあるだろうが、降りてきたところを見るに『真正面から受けてやる』というところだろう。



(そうだ。侮れ)



お前は強い。人間おれたちとは生き物としての格が違う。

まぎれもない事実だ。


最も——————



「何ヲ企ムカハ知ラヌガ、来ルガイイ」



目の前の竜は、どうも少し違うようだ。

だが声色に宿るその色が、時として最も危険なのだということを、この絶対的強種族は知らない。




(——————好奇心は、竜をも殺す)




剣を腰だめに構え、今まで何度となく放ってきた必殺の剣の予備動作を開始。

それとともに脈が速くなる。

『精神耐性』で恐怖心は薄れているというのに、この大一番で心音だけは嘘がつけないようだ。



(鼓動が邪魔だ、耳は寝てろ・・・)



『五感強化』の聴覚を最小に設定、その他の感覚の感度を上げ耳障りな心音を遮断。



(まずは、最初を成立させろ)



これから行うのは、繋げる剣。

一歩目でくじけばそこで終い——————




(だからといって)




のんびりもしていられない。




「『オキ——————』」


「ヌ!?」



技の発動。

その直後、何が起きたかわからなかった。




「——————何ダ?ソノ、速力ハ」



互いに。


いや、少なくとも、俺は分からないだろう事は分かっていた。

遅れて。認識する。




「ぐっ!?ぅ、ぐ・・・」




踏み込みの直後、俺の体は斬るべき竜を通り過ぎ。ただ通り過ぎ、振られた剣閃は対象のはるか後方で空しく空を斬った事実。


そして片足に襲い掛かる強烈な痛み。




「今マデノハ、全速デハナカッタノカ?」


「・・・どう、だろうな」




足に意識を向けると。庇うのを隠せないほどに痛む。


超加速バーニア』の反動を一切顧みない全霊の最高速。

その結果だ。



(それでいい・・・これで、いい)


「—————成程ナ。己自身制御不可ナ足ヲ捨テタ限界超エル速度・・・・フ。確カニ、『勝負』」


「・・・・あと、一撃だ」



事実、人間の脚は二本。

一本は今しがた棒のように自重を支えるだけで、使い物にならなくなった。

残るは、一つ。



「先ノ愚行ニ次イデ、ヤケクソニ見エルガ・・・マァ、悪クナイ。マダ()()ダ」



賭けるがいい、最後の一撃でモノにできるか。


その言葉が切られると——————




「——————行くぞ!!」


「来イ」



先程と同じ、できたばかりのルーティーン。

五感を制御、備え、踏む込み、放つ。


その()()へと——————






「—————確カニ、疾イ」



その声を、『聴覚』を閉じる前に聞いたのか、地面を踏み砕き始めた時に聞いたのか。

わからない。



「疾イ、ガ——————来ルト、分ッテイル」



我ガ眼前ニ(その空間に)



「!」


「ドンナニ疾カロウト」



勝負を決する瞬間の圧縮された体感時間。

耳に届く言葉が、緩慢さを取り戻した世界に追いつく。





無重力空間デハ(ソウナレバ)、駆ケルコトモデキマイ」



足を捨てた捨て身の、渾身の超速は空しくも、あらかじめ『重力操作』された空間に飛び込んだ瞬間。


俺の体は地球の枷から解放され弄ばれるように竜の頭上へとふわりと飛ばされる。


剣の届かない、間合いの外。


剣撃の要、人体の制約、地を失う。

踏み込むも踏ん張りも利かない——————











「必要、ない」




そうくると、こうなると踏んでいた。

片足を囮に、この機を作った。


あんな速度、制動できるわけがない。

そんな不確かな賭けより、この瞬間を作り出す賭けを選んだ。


必殺といえるほどの間合いを、()()()()()()()()()()()()()、俺が欲しかったのは。


この瞬間(シチュエーション)




()()()()

『体術』

『弱点直感』

『弱点特攻』




(——————繋がった)




先の小石の投擲。

竜の逆鱗に触れる愚行、その短時間で数百と繰り返し練り上げた。


『武具投擲LV.9⇒LV.10』へと、


そして体現するスキル(それ)は——————





《【槍仕ランサー】スキル》

《『飛突閃エアスティング』》



間合いの外からの超速投擲。

ただの牽制にもならない手段は、必殺の中長距離攻撃へと昇華する。




(——————更に(プラス)・・・・!)




俺を捕らえるこの無重力。

この無空の領域で推進力を得た物は、その進路を阻まれることはない。

風も空気抵抗も、その摩擦も存在しないのだから。


つまり、先ほどまで奴がそうしていたように、その効果が投擲の威力に乗算される。




(死角。頭上から降らす、超・超速の(つるぎ)の突進!)



ありったけの膂力を右腕に集中、振りかぶり剣の石突を押し出し無空を裂く。





「『飛突閃・箒星(スティング・レイ)』!!!」


「何——————」




放たれた切っ先は。



「ガッ・・・!?」



竜鱗を削ぎ、甲殻を砕き。


対峙して初めて、名持の竜の肉を切り裂いた。


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[気になる点] 無重力でも慣性はあるよ
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