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134話 絶対不可侵

「朱音ちゃん!急いで!!」


「ええ!!」



アトラゥスの見えない力により重傷を負った源蔵さん清蔵さん含むギルドメンバーの人たちをアジトに運び終えると。



『酷い状態・・・・深海にでも潜ったの?でも、大丈夫。これならまだ間に合うわ』



白衣に身を包んだ美弥子さんの言葉に一息つくと、私たちはすぐさまアジトを飛び出し来た道を戻る。

あの時何をされたのかわからないが、触れずして行動不能にさせられるほどの力を持つ名持の竜。

完全に人知を超越した化け物。



(ナナシさん・・・!今行きます!)



今日目が覚めてから・・・いや、昨晩彼と屋上で話してる時から胸中を支配していた嫌な感じ。

それは間違いなく、あの圧倒的な竜の脅威を示唆、そしてこの状況———


シキミヤの襲撃が思い出される。


あの時も、あの人は他を生かすために一人残り・・・・



(どうして、いつも・・・!)



あの人が自分の感情言葉に出し他人に押し付けない性質なのは知っている。

その心根は優しく情熱的な青年というのも。

だからこの先も同じ選択を迫られれば彼は同じ道を辿るのだろう。


そしてその選択はきっといつも正しい、でも———



(帰ったらお説教ですからね、ナナシさん!)



最善で合理的な道だったとしても、そんな彼に私はワガママを押し付けてしまうのだろう。


自分の中で、あの人の存在が大きくなってゆくたび嫌な女になっていく。


その自覚を私は嫌ってはいなかった。

あの人の隣に居れるならそれだけでいいと、思えるからだ。




でも———



「そろそろよ!」


「うん!」




近づくにつれ激しい戦闘の轟音が鼓膜を打つ。

この戦場のような状況に彼が一人身を置いていると思うと心配がさらに募る———






「あー、あー。そこのお嬢ちゃん二人ー。おっきいお嬢ちゃんと控えめなお嬢ちゃん止まりなさーい」


「! この声は・・・」


「シキ、ミヤ・・・・」



道行く道路のど真ん中に立つ白髪の男、『黒足袋』ギルドマスター・シキミヤに制止を促される。

相変わらず掴みどころのない態度だが、本当にこの先に行かせる気はないらしく、私たちは足止めを余儀なくされる。



「ちょっと、どういうつもり?」


「え?見たまんまの特徴を———あ。ごめん、セクハラだ」


「・・・・今あなたの冗談に付き合う暇はないんです」



効かないとは思いつつも苛立ちを含めつつ『魔添・威圧』をぶつける。



「ごめんってー。昨日はモダン焼きについて熱く語り合ったのに、今日はずいぶんツレないねぇ」



やはり一顧だにしないようだ。

涼しい顔で、まぁ、と続け。



「仲間があんな化け物と一人で戦ってるんだから苛立ちもするか?」


「なんでそのことを・・・?」


「そりゃ見てるよ。こんな楽しそうなの見過ごせないって」



こんな状況を楽しい?

私には到底理解できない感覚。

ナナシさんが彼を忌み嫌うのも無理はない。



「とにかく、今はあなたと話している時間はないんです。そこを通してください」



勝ち目はないが邪魔をするなら戦うしかない。

あの人が命を賭して戦うこの状況で留まる選択肢も後退の選択肢もないんだ。



「いや邪魔するわけじゃないんだけど、これはお嬢ちゃんたちのためを思って言ってるんであってね?——————って、あら」



棒立ちのシキミヤの横を通り抜ける。

が———



「————くっ!?」


「唯火!!」


「だから聞いてって」



最高速に乗っていた体が急停止する。

影を縫うという束縛系のスキルだ。



「あの名持ネームドの竜種。君たちが戦線を離脱してナナシとの戦闘を開始早々、『特性領域化』のスキルを発動したのよ」


「領域・・・化?」



こちらへ歩きながら諭すように話すシキミヤ。

その間に割り込み動けない私を背後に庇ってくれる朱音ちゃんの背中。



「何もしないって・・・で、そのスキルが厄介でねぇ。あの竜の特性、まぁ多分『重力』かな?その特性を領域の内側全域に強制するチート級のスキルなわけ」


「そん、なの!なおさら、ナナシさんが・・・!」



聞いたこともない強力なスキルの説明を聞かせ、私たちが日和るのを狙っているのだろうか?



「まぁそうなんだけどさ。まだ生きてるから大丈夫だって。で、こっからがキモでね・・・その『領域』。外から入れないの」


「あなたの言うことを、信じると・・・?」



こちらに目もくれずシキミヤは前へと歩いていくと、何もない場所で立ち止まり。

虚空を指さす。



「これ。これが領域の『境界』。ほいっと」



どこからか拾ったのかコンクリートの破片をなにもない眼前の空間。

いや、目を凝らすと景色が揺らぐそこに投げ込むと。



「砕け・・・?」


「ね?危ないっしょ?半端ない重力の力場になってるみたいだね。この区間が見た感じ50メートルくらいあるからまず侵入は不可能。こういう系のスキルってさ、防御力無視してくるから。正直僕も怖くて入れないよ」



ま。行く義理もないけど。

と言い話を終える。


私たちの視線は『境界』に侵入した瞬間落下しながら粉々に爆ぜた、何かがあった場所に注がれていた。



「そんな、どうしたら・・・」


「唯火・・・」



体が動くようになり膝から崩れ落ちる。

影の拘束が解けたのだろう。



「わかった?ナナシを助けに行くなんてことは到底できないよ。入ったらぺしゃんこだもん。あとはあいつが一人で何とかするしかない。ま、あの竜が『大魔法』の構築に入った直前からここら一帯の戦えない邪魔な人間は、僕の影で移動させたから気兼ねなく戦えるでしょ」


「あ、あなたの影で——————!」



シキミヤが街の人たちを避難させたというのにも驚いたが、その移動法にわずかな希望が見え縋るように迫ると。



「無理。影ん中渡るのも物理法則無視した次元的なやつだからね。この『重力溜まり』とどうにも相性が悪い、邪魔なの避難させ終わって領域が張られてから、僕の影でも向こうに干渉できなくなったよ」



できてもやってあげないけど。

と、こちらの神経を逆なでする言葉を聞きながら、即座に別の策を考える。




「—————ちょっと、待って。さっき言った『大魔法』って・・・なに?」




考えても考えても、そう都合よくこの絶望的状況をひっくり返す策など出てこず。

焦燥に駆られていると、朱音ちゃんが切り出す。




「あ。こっち、先に言っといたほうがよかったか」



ポン、と呑気に手を叩くその仕草にも眩暈がしたが。



「名持の竜がこの街丸ごと消滅させる『大魔法』を構築中なんだよ」


「「!!?」」



その言葉は焦る頭に追い打ちをかける。



「それを止めるために戦ってるって感じだね。ナナシは・・・よく考えたら、避難させても意味なかったかなぁ」



こんな状況に至ってなお、飄々とした様子を崩さない男を視界から外し、領域の向こうを見ると。



「ナナシさん・・・・」




鳴り続く街を砕く轟音が、戦いが激化してゆくのを告げていた。


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