131話 降臨
唯火と朱音。
竜種討伐最小限の二人を伴って正面口から外へと出る。
アジトに残したメンバーたちは人手がいない中それぞれに役割あるし、何よりこの先の戦いにおいて枷になりかねない。
それは、俺たち三人が竜種討伐パーティーを組んでからのそれぞれの適材適所だ。
「―――ナナシさん。この感じってやっぱり・・・」
今は一刻も速くその場へ向かうべき時。
けど俺は彼女の言葉に歩みを止める。
今日恐らく誰も口にしてこなかったであろう問い。
漂うただらぬ気配、確信たる予感。
言葉にしてしまえばそれは現実になってしまう。
どちらにせよ逃れられぬというのに―――
(それは俺も同じか・・・・)
それでも、その問いを発した唯火の思うところは、覚悟を決めるきっかけを欲してるのだろう。
「・・・ああ。間違いないだろうな」
「「・・・・」」
彼女の問いに肯定すると、より一層二人の表情がこわばったように見える。
この数日間、竜種と戦い続け背中を預け合った二人だが初めて見るような顔だ。
「―――大丈夫さ」
二人とそう変わらないだろう胸騒ぎを感じながら。
「『必ず勝つ』。だろ?」
反面。
静けさを保つ精神。
二人を安心、鼓舞するためにらしくない笑みをたたえながら、昨晩唯火と誓った言葉を反芻する。
「はいっ」
「とーぜん」
幾分かいつもの調子に戻った面構え。
気休めにはなったようだ。
「・・・なんだ?」
二人の様子を見届け、異常を知らせたメンバーを含む数名の元へと歩み寄る。
皆等しく平常心を欠いた様子でいた。
だが無理もない。
誰ともなしに零した問いは、彼らを見ての事ではなく————
「なに、この感じ・・・?」
「なんか、気持ち悪い感じが、します」
二人も同じ何かを感じたようだ。
体全体を何か膜に覆われたような。
妙な座りの悪さを憶える。
体の内側が浮足立っているとでもいうか・・・・
「これは・・・」
この妙な感覚の正体の一端を見たのは、視線を地に下ろした時。
数ミリ程度の砂粒が微振動しているのが目に入った。
そしてそれは次第に——————
「浮いている、だと?」
「ナナシさん?」
今にも降り出しそうな分厚い雲が空を覆っているが、嵐の前の静けさってやつか、風に関してはほぼ無風状態。
砂粒とはいえそれを巻き上げるような竜巻はおろか、そよ風すら感じない。
いや、何より目の前の砂粒に怒っている現象は巻き上げられたとかそんなものではない。
言った通り『浮いて』いるんだ。
「・・・・」
「ちょっと、ワルイガ?どうしたの?」
徐々に高度を増す砂粒を目で追う。
それにつれ体を包む違和感も増していくようだ。
この感覚は———
(『浮遊感』・・・)
俺たち人間が重量を手放した時。
足が地から離れ落下、飛翔の状態で感じる感覚。
「・・・・上だ」
「「え?」」
灰色の空の中で浮遊した砂粒を見失う。
そしてある一点。
何もない、いや、雲だけがある空の一点。
そこに視線は吸い込まれる、そこから視線が注がれる。
互いに視認が成されないまま。
互いの存在を認識した。
「来るぞ」
「「——————ッ!?」」
その言葉に二人はそれぞれ戦闘態勢を取る。
そんな中、俺は剣に手をかけることもせずそこを見た。
黒雲はゆるい渦を巻き、何かに押し出され大地に向けた雫の様に雲はその形を変える。
『何かが産み落とされた』。
そんな光景。
いや、もはや『何か』なんて漠然としたものではない。
「——————こいつが」
下降を続ける黒雲の繭。
次第にそれらはばらけ霧散し空に溶けていく。
ゆっくりと殻をはがしていくように、その姿、その全容を露わにする。
黒鉄のような剛翼。
同質の鱗と甲殻に覆われた巨躯。
まるで精巧な鎧のような美しさ。
そこから伸びる尾は長く、しなやか。
そして、かの者を象徴するような、緩くねじれた角。
頭部に冠した二対の角。
それらすべてを確認できるほどの距離、俺たちの眼前へとその存在は舞い降り。
そして、確かにこちらを視認する深紅の双眸と視線が交差した時、確信に至る——————
名:アトラゥス
レベル:120
種族:星竜
性別:■
MP:60■■/■050
攻撃力:3■8■
防御力:■260
素早さ:2■■1
知力:37■■
精神力:■■21
器用:1■3
運:66
状態:
■■■■■
称号:
【竜王の系譜】
所有スキル:
《■鱗の■護LV.8》
《■力魔■LV.9》
《■■操作LV.9》
《特■領■化LV.8》
《咆哮■嚇LV.7》
「名持の、竜種・・・!」




