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128話 死体に鞭

「【屍使い(しかばねつかい)】?」


「ええ。駅回りの路地で遭遇したの」



竜の大群を満身創痍ながら殲滅し、母竜を屠ったシキミヤが去ったのを見届けると。

俺は小一時間ほどその場から身動きができなかった。


そしてその間に、奴が街の()()のために手配したという『探求勢シーカー』と鉢会ってしまう。



『唯火。もしハーフエルフだってバレたら厄介事になりかねない。先にギルドへ戻るんだ』


『もしそんな危険な人たちだとしたら、動けないナナシさんを置いてけなんてお願い、私が聞くと思いますか?』


『・・・・言ってみただけだ』



恐らく廃棄区画で対峙した久我、唯火にとって因縁のあるあいつも『探求勢シーカー』に属していることから、俺たちは相当警戒心をむき出しにしていた。


だが彼らは、俺はともかく『ハーフエルフ』である唯火にも特に目もくれず黙々と竜種の死体や血の痕跡の処理にいそしむばかり。


おまけに———



『回収した魔石はこちらになります』



と。

わざわざそこら中に散らばる魔石まで回収して朱音に手渡してくれる手厚いサービス。

朱音は特に驚いた様子もなかったが、俺と唯火は毒気を抜かれ肩透かしを食らった気分だった。


曰く———



『こうやって街の修復現場に出張ってくる『探求勢シーカー』の人たちは、そうね。公務員みたいなもんよ。ただ使われてるだけだから害はないわ』



公務員に対してひどい偏見を見たが朱音が言うにはそうらしい。


攻略勢ペネトレイター』であるギルドとの対立が生まれてしまえばまた暴動が起きる。

ステータスが出現したての当初と違い、戦う力を持った彼らと事を構えれば双方ただでは済まない。というのは前にも聞いた話だ。


余計な火種を生まないようにこういう処理をする人たちは非戦闘員ばかりらしい。


最もその作業工程はスキルを使ったもので、例えば左官職人がやるような補修も土建屋が関わるような修繕も、最小限の人数かつその作業スピードは、今まで人類が積み上げてきた技術をあざ笑うかのような、まさしく魔法のような所業だった。


一撫ですればひび割れた外壁は元より強く。

掘削工具を振り下ろせば建材は容易く加工される。


戦闘に特化した職業ジョブばかりではないのは公園のみんなの事もあり知ってはいたが、街並みが見る見るうちに修繕されていく様は正直圧巻だった。


スキルにこんな素晴らしい使い方があるなら国も世界ももっと栄えることができるだろうに。


よほどステータス出現初期時の政府の対応が悪かったのだろう。

その結果この妙な均衡を生んでしまったんだ。



そんな作業を眺めているうちに何とか立ち上がれる程度には回復し、先にアジトへ戻った朱音がギルドから車を寄こしてくれた。


そして今俺は、アジトの救護室で回復魔法の施術を受けている。



———話を戻そう。




「本当の職業ジョブ名は聞きそびれたけど、能力の特性的に【屍使い】ってことにしといて」


「特性、ですか・・・?」



術師の掌から暖かい光が流れてくる。

施術部の背中から体全体に染み渡るって感じだ。


あくまで自然回復を加速させる程度の役割にしかならないらしいが、今の俺には何よりもありがたい。

回復薬もあるにはあるらしいがどちらかというと外傷に特化したものらしく、体力を消耗しているこの状況では回復魔法こちらの方が効果が望めるとのことだ。


酸素カプセルみたいなものだろうか。


心地よい暖かさに深く息をつきながら付き添いの二人の話に耳を傾ける。


その内容は先の戦いで、朱音が逃げ遅れた人たちの避難誘導をしていた時遭遇した妙な男の話だった。



「———で、その男が触れると倒したはずの竜が蘇生したのよ」


「それは、フユミちゃんが使えるっていう『反魂再生リザレクション』みたいなものじゃなくて?」


「いいえ。あんな摂理を捻じ曲げる奇跡を扱えるような大物にはとても見えなかった。多分、死にながら動いているって感じなんでしょうね。起き上がった竜はあたしにも襲い掛かってこなかったし」



聞きながら、四肢を糸で括られ操られるマリオネットを連想した。

そこに生前のような意思はなく死してなお肉体を操られ酷使される悲劇的な姿。



「・・・いやな、能力ですね」



唯火も同じようなことを頭に浮かべたのか、不快感をあらわにする。

生物の非人道的な扱いの類の話は、彼女の研究施設での経験から思うところがあるんだろう。



「そうね。悪趣味で、危険な能力・・・・特段、好戦的な印象はなかったけど、どうにも引っかかるから二人にも話しておいた方がいいと思って」


「強そうだったのか?」



個人の戦闘力だけでその脅威を計れるものでもないが、最強シキミヤという例外もいる。



「ううん、はっきり言ってあたしでも無理なく勝てそうって感じ」


「ふむ・・・」



『目利き』のスキルを持たない朱音だが、場数を踏んでる彼女の見立てなら信用しても大丈夫だろう。



「あとは、そうね。『狼』型のモンスターと『鳥』型のモンスターを使役していたわ」


「鳥・・・モンスターの使役・・・・」



そのワードから脳裏に浮かぶのは、この世界で最初に俺へ敵意と殺意を向けてきた人間。

嫌悪の対象としては、俺の中でシキミヤに並ぶ程嫌いな人間。



(いや。あいつの操るゴブリンとオークは『生きていた』。逃げる時に隷属した鳥もそうだ)



群れを成し俺を追い込んだゴブリンたちを。

派手に流血するオークの姿を。

戦いの血の匂いに引き寄せられ出現したばかりの鳥型モンスターを、この目で見ている。


モンスターを従えるという共通点はあるがおそらく全くの別物だろう。



「ま、一応って話よ。言った通り脅威は感じなかったし」


「そう、だな。竜とはいえあの大群の中の一体程度ならそこまで気にすることもないか」



もし『名持ネームド』クラスのモンスターを使役したとなると厄介だが、【屍使い】という印象から使役後は弱体化しそうな印象だ。



「———はい。終わりました」


「あ。ありがとうございます」



どうやら話の目途がついたところで施術もちょうど終えたようだ。



「どういたしまして」


「・・・あの。何してるんですか?」



背中から回復魔法の温かみが消えたと思ったら今度は人肌のぬくもり、そしてなぜか柔らかさも感じる。

ちなみに施術前に上着は脱がされた。



「んふっ。服、着させるまでが施術よ」



そう言う回復魔法を施してくれた女性は美弥子みやこさん。

俺と唯火の歓迎会の時もやたらとスキンシップの激しかったお人だ。


前にギルドのメンバーに回復魔法を施してもらったときは別の人だったから、何故か白衣を着て彼女が救護室で出迎えたときは少し驚いた。

そして羽織った白衣が妙に似合っている。



「じ、自分で着れますって」


「いいからいいから♪」



突き放すわけにもいかず身をよじってやんわりと遠慮する。

というか正直この緩慢な動作だけでも今は億劫なくらいだ。

結果的に逆効果なようで彼女の女の部分がますます背中に押し付けられてしまう。



「ちょ、ホントに自分で着れますか———なんで美弥子さんまで袖に手、通してるんですか?」


「あんっ、うっかり♡」



耳元で艶めいた声を発するのはやめてほしい。

戦友女子二人の視線が大変冷たいものになっているから。



「あんたそれホントは狙ってやってるんじゃないの?」


「聞いたことあります。ナナシさんみたいな普段好色の気配を出さないひとは、大抵ムッツリスケベだって」


「そうそう。『洞観視どうかんし』ぃ~とか言って、人の事じろじろ見てるし。『心慮演算しんりょえんざん』とやらで頭ん中じゃすっごいこと想像してたりすんのよ、こいつ」


「わ、私もいつの間にか『目利き』されてたりしたことがあります・・・・もしかして、体重とかスリーサイズとかまで看破してたりしませんよね?」



え、なに?

ここ救護室じゃなくて拷問部屋かなんかなの?



「お、おい。二人ともその言い方は・・・・」



譲歩してスキルで人を見るのが癖になっているのは事実だ。

けどそんなスケベ根性で閲覧した覚えはないし、増して唯火の言うそんなデリケートな情報までは暴けない。



「「そんな恰好で何言われても説得力ないんですけど」」


「あ~ん、からまっちゃった~」



何がどう絡まったらそうなるのか、

どういうわけか美弥子さんは椅子に座る俺の膝に跨っていた。

確かに言われても仕方ない状況ではある。


だがそうは言っても腕は上がらないし、彼女が膝に乗っている状態で立ち上がれるほど回復しきってもいない。

無理して立ったら多分コケるぞ。



「二人とも、ちょっとくれ次席にお兄さんの施術が終わったって報告してきてくれないかしら?」


「・・・・二人で行く必要なくない?」


「美弥子さん。一体何する気ですか・・・?」



ああ・・・・


もう——————



「大人の男女のヒ・ミ・ツ」


「「ナナシさん(ワルイガ)!!!」」


「なんで俺が怒られる・・・・」






・・・・早く、寝かせてくれ

ただお色気おねぇさん出したかっただけです

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