12話 憎しみ、逃避
~廃棄区画から離れた郊外の山小屋~
「ぁあああ゛っあぁ゛ああぁあ!!くそがぁあああ!!」
「ピュィィィ……」
「別にてめぇに言ってるわけじゃねぇ!」
あのクソガキ!許さねえ!この俺にあんな屈辱!
俺は何を安堵してやがったんだクソが!この鳥が湧いてきやがった瞬間、あの間抜けから逃げ切れると確信した時、ありもしねぇ神のイタズラに感謝しやがった、しちまった!
あいつへの恐怖が一時、俺を支配しやがった!
「許さねえ、ステータスの使い方を他人に聞くようなトーシローに俺が後れを取るようなことはあっちゃならねぇ!」
何も知らねぇ、他人よがりなクズに俺がここまでコケにされただと?
のこのこと餌場に運ばれるゴミの分際で?
「…………殺してやる」
だが今は無理だ。
みすみすてめぇの命張るほどボケちゃいねぇ。
別の餌場でもっと力を付けてやる。
「せっかくクズどもを掃除する画期的なレベリングの狩場を台無しにしやがって」
殺してやる。
あの男だけは、この手で殺してやる。
「……にしても、あの【鑑定士】野郎……噂じゃ、相手のステータスを見破る破格の性能と引き換えに戦闘力は低い職業って話だったが……」
胸糞わりぃがそうは思えねぇ。
少なくともあの野郎は、あのオークを殺りやだった。
前の晩の様子から見て、野郎は俺がけしかけたゴブリン以前にモンスターを殺したことはねぇはず。
なら、レベル1だったとしてあのゴブリンどもを全部経験値にしてもレベル4が関の山……
いや、あいつは俺よりレベルが上だと言っていた。
事実俺自身はあいつに勝てなかった。
だがいくら何でも、戦闘力の低い【鑑定士】でも倒せるほど、オークのレベルを凌駕していたなんてさすがにあり得ねぇ。
いずれにせよ、レベル差があっても戦闘特化のレア職業なら俺にもオークに勝つのもない話じゃねぇが……
「……いやぁ?まてよ?聞いたことがあるぜ……二つの職業を持ち得る存在」
つまり、あいつはそういう存在か。
それなら説明がつくぜ。
「本当に、化け物……人間じゃ無ぇんじゃねぇか」
こいつぁ、いい情報もらっちまったなぁ?
「この情報を引っ提げてあそこに行きゃぁ……俺は成り上がれる」
なるほどなぁ。
こいつぁ、感謝してもいいかもしんねぇ。
「これで俺はもっと強くなる。もっと上を目指せる」
そしてその道すがら。
「てめぇは必ずこの手で殺してやる。【鑑定士】ぃ!!」
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「はっ……はっ……」
手足が思うように動かない、ぼやけた視界に頭も熱い。
自分が今どこを走っているのかもわからない。
「おい!奴はどこに消えた!?希少なんだ、絶対に逃がすな!」
「くそっ!見失った!近くに廃棄区画もある、あそこに逃げ込まれたら厄介だ!探し出せ!」
怒号が耳に飛び込んでくると頭の中で反響する。
思わず耳を塞ぎたくなるが
「廃棄……区画……?」
そこに行けば、助かるかもしれない。
「戦闘になったら気を付けろ!奴は異なる二つの職業のスキルを使う!」
「……くっ」
ふらつく足を鼓舞しながら、どこかも分からない目的地を求め、永遠に続くかのような錯覚に陥りそうなほど暗い夜闇をすすんだ。
ただ、光を求めて。




