表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
129/250

125話 不審者

主人公不在視点。

「『盲目ブラインド』!」


「・・・グァ?」



中型の竜へ背後から視界を奪う状態異常を付与。



「下がって!」


「!」



突然視覚を失い困惑するようにあたりを見回す竜。

その足元に座り込む母娘。


どうやら間一髪だったようだ。


母親が震える足を鼓舞する様に子を抱え距離を取るのを見届けると。



「そこ!」


「ギャォア!?」



あらかじめ自らに付与した『攻撃力上昇ストレンジ』の膂力。

滑り込むスライディングの要領で竜の脚を蹴り払う。



「お預けよ」


「ガ・・・ァガ!」



頃合いよく落ちていた鉄パイプを突っ張り棒にし口を開かせ———



「ガ、ァ、ガ、ギャ!!」



無防備かつ防御の薄い口内へと弾丸を見舞う。


引き金を引き着弾するたびに苦しみ、呻く。

むごい光景とは思うが竜種の皮膚や鱗に銃弾はあまり効果的ではない、こうして弱い部分を狙い撃つしかない。

八発目にして絶命に至った。



「・・・・ふぅ」


「あ、ありがとうございます!なんとお礼を言ったらいいか・・・」


「気にしないで。早くその子を連れて逃げなさい。こっちの方角ならモンスターはいないから」



ワルイガ達が戦う方角とは反対の方角を指さし避難を促す。



「おねぇちゃんありがとう!」


「ん」



元気に手を振る女の子に軽く手を振りこたえその姿を見送ると、来た道を振り返りあたりを見渡す。


ワルイガ(あいつ)程の人並外れた感覚は持ち合わせていないけど耳を澄ませ周囲の様子を探る。

その間に銃の弾倉を交換し。



「・・・大体、避難させられたかしら」



道中逃げ遅れている人たちがかなりいた。

今の母娘はギリギリ間に合ったが、中にはぱっと見で重傷とわかる手傷を負っている人もちらほらといた。



「こんな状況になるなら、お守り役の二人ぐらい同行させとけばよかったかもね」



ビルを出る前にワルイガがパパに提案していた案。

不本意ながらあたしのお守り役がいれば避難誘導のサポートに回ってもらえただろう。


遭遇した手負いの人たちは近くの動ける人たちの手助けで逃げることはできただろうけど、人手が足りない

のは事実。

その数分の遅れのせいでもしかしたら死傷者が出ているかもしれない。



「・・・ダメ。下がるな・・・今やることをするのよ」



マイナス思考によるモチベーションの低下はモンスターとの戦闘において死につながる。

深く息を吐き、発砲後わずかに熱を帯びた銃身を額に当て気持ちを落ち着かせる。


自分の気持ちが下がりそうになった時こうするのが癖になっているルーティーン。



「ふーーーー・・・・よしっ」



一通り済ませ持ち直した平常心。

今は一人でも多く救うために走るのよ。



「・・・ん?あれは———」



逃げ遅れた人を探すため重ね掛けした『素早さ上昇(バーニア)』の走力で路地を駆けていると。



(犬・・・いえ、おおかみ?)



毛並みの良い四足獣が遠目に見え———



「! 人だ!」



そのすぐそばに一人の男性が立っていた。

近づくにつれ狼が発する雰囲気からあたしの知る獣の類ではないと直感する。


つまりあれは———



(モンスター!男の人が襲われてる・・・!)



なぜ竜種が出現しているこの街で別種のモンスターがいるのか。



(・・・考えるのはあと!)



狼と男性との距離がかなり近い。

この射程で走りながらでは銃撃を当てるのはかなり難しいが牽制くらいにはなるだろう。



「逃げて!」



駆けながら照星を狼へと合わせ叫ぶ。

こちらの声に反応して少しでも距離を空けてくれれば誤射の心配も減る。


が、





「———あ?誰かいんのか?」


「ッ!?」



あろうことか男性は狼とあたしの射線上に乗り出しこちらを振り返った。



(撃て、ない・・・!)



指先に込めた力が霧散し集中を著しく削ぐ。

こんな状態では足を止めた状態でも当たりはしない。


その刹那。


男性の背後の狼は重心を低くし飛び掛かる姿勢を見せる。



「ダメ!後ろに・・・!」



四足獣特有の柔軟さを感じる跳躍。

得物を狩るための合理的な動作。


その一連を見届けると———



「———え?」



飛び上がった狼は噛みつくかと思われた男性の肩に前足をかけさらに跳躍。

その勢いのまま飛び掛かった標的は、



「きゃあ!?」



あたしだった。



「ゥガウッ!」


「あっ!?」



完全に不意を突かれ組み敷かれる。

そして狼は何の逡巡もなく本能のままに口を開き犬歯をむき出し、首元へ牙を突き立てようとしていた。



「こ、んの・・・ッ!」



湧き上がる死の恐怖。

だが、今それに吞まれれば首を搔き切られ死にゆくのみ。



(咬まれても、嚙み切られる前に!撃つ!)



肉を切らせて脳漿のうしょうを撃つ。

今のあたしにできる足搔きはそれだけだった。




と、

牙がのど元に食い込むかというその瞬間。




「おい。やめろ」


「・・・・?」




先の男性が発した声だろうか。

制止する意味を持ったその声を聴くと狼の動きはぴたりと止まり。



「ど、どういうこと・・・?」



つい今までの凶暴さが嘘のように組み敷いたあたしの体から離れ解放。

そしてまるで飼い犬かのように尻尾をふさふさと揺らしながら男性の方へと歩いてゆく。



「——————お前」


「?」



目の前の光景が意味不明なうえに、男はこちらの顔を見るなり驚きの表情に変わる。

そのどちらも今のあたしには理解できなく困惑を深くさせていった。


だがそれもほんの一時の事。




「すみません。怪我はないですか?」


「・・・・」



物腰柔らかく言いながら手を差し伸べてくる男。

けど生憎とこの状況でその手を握るほど間抜けではない。



「あなた・・・その狼は、なに?」



飛びずさり距離を取りながらその場に適しているだろう問いかけをする。

なんというか、狼は明らかに目の前の男になついている様子だった。


それがただの獣ならまだしも相手はモンスター。

それだけでもこの男が人間に擬態したモンスターかもしれないという可能性を持たせ、最大限の警戒をするに値した。



「狼・・・いえ、モンスターを飼っているの?」



敵意をむき出しになお追及。



「そう、ですね。警戒されて当然ですよね」



が、

男は意外にも柔和な態度を崩さないまま続ける。



「『飼っている』というより、『使役』、という方が正しいですね」



その言葉を聞いて真っ先に連想したのは『ハルミ』。

彼女は【精霊使い】の職業ジョブで精霊と呼ばれる存在を使役している。



「僕は、モンスターの死体を蘇生させ『生ける屍(アンデッド)』として使役させることができる職業ジョブなんです。先ほどあなたに襲い掛かってしまったのも僕への襲撃と認識してしまったからでしょう」


「・・・・聞いたこと、ないわね。そんな職業ジョブ


「そうですね・・・・論より証拠」



そう区切ると、



「ギャァアオ!」


「! 竜種!」



路地の小道から一体の竜が飛び出しこちらへと襲い掛かる。

男のことも気にかかるが今はこちらを処理しよう。



「『盲目ブラインド』!」


「ぉお!竜の視界を・・・!?」



感心したように声を上げる男。

そのようなおべっかに付き合う気もなく。



「あんた、武器は!?」


「・・・・ポケットナイフくらいなら」



出されたそれをぶん盗ると。



「ふっ!」



お決まりの『攻撃力上昇ストレンジ』からの足元を払って機動を削ぎ。



「ぁああッ!」



竜の眼球にナイフを突き立てる。



「ギャァァアオア!」



刺したナイフを掴みながら後頭部に跨ると、ゼロ距離で頭部に銃撃を放つ。


一。

二。

三。

四。


と、そこで急に引き金が固くなり。

次弾が放てなくなった。


どうやら弾が詰まったようだ。


けど———



「これで、十分!」



ナイフを引き抜き、銃撃により露出した肉へと突き立てるために振り上げる。

上昇した今の攻撃力ならこの一撃で———



「ワフッ!!」


「ッ!?」



最後の一撃を振り下ろそうかという寸前、体に柔らかさと衝撃が伝わり竜から離される。

遅れて、



「ガウァアッ!!」


「ギャァアァア!」



男が使役するという狼に体当たりで突き飛ばされたのだと理解した。


ナイフではなく狼の牙によって肉を裂かれた竜が、断末魔を上げながら倒れ行く姿を眺めながら、理解不能な行動に怒りがこみあげてくる。



「ちょっと!あんた一体———」


「手荒になってすみません。竜の尻尾があなたに叩き付けられそうになっていたので」



それが嘘か誠か確かめる術は、ない。

だが、どこか直感のようなものがこの男の言葉を真実と捉えることを拒んでいた。



「——————で、なにしてるのよ?」



殴りつけそうな衝動を抑えながら、あたしを横切り倒れた竜の傍らにしゃがみ込む男に問う。



「いえ。これが、『証拠』です・・・・『——————』」



何か。

スキル名を口にしたはずだがあまりにか細く小さいもので聞き取ることはできなかった。


けど、その時感じた違和感は、




「グゥ・・・ゥゥウウ・・・ルル」


「生き、返った・・・?」



絶命したはずの竜が息を吹き返した光景に上書きされてしまった。



「どうでしょう?モンスターの『生ける屍(アンデッド)』化。完全に使役しているのでもう僕たちに襲い掛かることもありません」



どうか安心してください、と。



「・・・・本当、みたいね」


「驚かせてしまいましたか?」



鼻につく気遣い。

そんな感覚を抱かずにはいられなかった。



「———別に。死人が生き返るなんて珍しくもないでしょ」


「?」



子供じみてはいると思ったが、事実自分も蘇生されたクチでその経験上からそんな返しをしてしまう。

言ってから自分自身に対してため息をつく。



「いえ、なんでも・・・・それより、あんたもさっさと避難しなさい。ここは今『攻略勢ペネトレイター』が対処してるから」



使役する狼の動きを見るに、少しは戦う力があるようだが正直足手まといになるレベルだ。

先のようなよほど虚を突かれない限りあたし相手でも相手にならないほどに。



「そうですね。十分な収穫もありましたし———」


「収穫・・・?」



何の話?

そんな疑問を投じる直前、周囲で風が巻き上がる。


土埃から目をかばう間に、




「———鳥?型の、モンスター?」



どうやらこの風は男を背に乗せた大きな鳥型モンスターが羽ばたきによるものらしい。

狼だけでなく飛行可能な鳥型モンスターも使役していたようだ。



「僕はこのへんで、安全な場所に『避難』させてもらうとします」


「待っ・・・・!」



待て。

思わず遠のく背中に制止を呼びかける。



(迂闊だった、まずあの男が『何者』なのかを暴くべきだった)



生ける屍(アンデッド)』化したモンスターを使役する。

その能力はあとでいくらでも考察しその答えに行きつくことはできた。


逃げ惑う人に紛れるように『戦場ここ』に居た男。



(あんな目立つ能力、今までこの街にいて気が付かないはずがない)



竜種。

最強シキミヤ


そして、屍使い(あの男)



「・・・アンデッド化した竜も消えてる」



何か、見えないところで何かが。


蠢いている気色悪さを、座りの悪さを感じながら、



()()()()が来てから、退屈しないわね」



弾倉に詰まった弾丸をアスファルトに弾いた。


「キャラに愛着持ってもらうにはどうしたらいいのん?」


ってなろう仲間に聞いたら。


「掘るんだよ。盛らずに掘るんだよ。」


むじーわ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] てか魔物使いって使役した奴を殺してレベリングしてたから使役したやつがどれだけ倒しても自分のレベルは上がんないんだよね? そんな奴がレベル差無視して強い魔物を使役出来るのは御都合か?ち…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ