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123話 大群

「背中すら見えないな」



咆哮の聞こえた方角は分かっている。

その先に竜種がいるのは間違いないだろう。

だが今出せる全速で走っても先を行くシキミヤの影すらとらえられていなかった。



「あの人、昨日の殺気に満ちた姿とはまるで別人でしたね」


「・・・それだけに危険だな」



別人であればどれだけ楽か。

二面性ともいえる殺意の起伏。

奴とは深くかかわるべきではないと本能が告げている。



「昨日も言ったけど。『軽薄』を絵にかいたような男。考えれば考えるだけドツボにはまるわよ」


「だな」



奴の人間性なんて理解しようとしても時間の無駄だ。

今はそれよりも竜種との戦闘を見届けよう。



(それでシキミヤの手札が少しでも見れれば御の字)



俺と唯火がこの街に滞在するのは竜種の『名持ネームド』を討伐するまで。

自らが蒔いた種にケリを付ければここを離れるつもりだが、どうにもあいつとはまたやりあう気がしてならない。


敵に頼るのは情けないが、この機会に少しでも手の内を暴いておくのが得策だ。



「二人とも!あそこ!」


「・・・・駅か!」



数百メートル先のバスターミナルから人の喧騒と異形の声が届いてくる。



「まだ一般の人たちがいます!」


「ちっ・・・!」



駅ということもあり人口密度が濃いのだろう、今までと違い逃げ遅れてる人々がそこら中にいた。

どうやらシキミヤの観察などと言っている場合ではないらしい。



「あいつは何をやっているんだ!」



言ってから。

シキミヤ(あの男)が、竜種を前に逃げ惑う街の人たちを優先する光景など想像もできなかった。


いわばこの状況は、化け物と化け物。

危険な存在同士のぶつかり合いに人々が巻き込まれかねないシチュエーション。



「ひ、ひぃぃ!?」


「!」



厄介な状況になったと結論付けていると、物陰から一人の男性が転がり込む。


そしてそれを追うように飛び出したもう一つの影は———



「出たか!竜種!」



見た目は以前戦ったリザードランナーを一回り小さくした竜。

翼は小さくおそらく飛行能力はない。



「こっちへ!」



朱音が追われる男性を背後に庇う。

構わず突進する竜、その横合いから———



「ふっ・・・!」


「グギャァッ!?」



抜刀の勢いのまま首を両断。

頭部を失った竜は惰性のまま数歩進むと力尽き倒れた。



(よし。この程度ならいけそうだ)



剣を持ち替え振るった手のひらを開閉し具合を確かめる。

痛みはあるが使い物にならないほどではない。


『竜殺し』の力を持つこの剣をもってすれば十分に戦える。



「ナナシさん、大丈夫ですか?」


「ああ。このくらいなら問題なさそうだ」



体調を気にかけ駆け寄る唯火にそう告げながら、聴力を強化。

この中型サイズの竜種が一体で終わりなわけがない、少なくともリザードランナーの時と———



「ワルイガ?どうしたの?」



逃げてきた男性を安全な方角へと向かわせ戦線に戻った朱音の問いかけに、



「———百」


「「え?」」



重なる問いになお続け———



「数百・・・下手するともっと。とんでもない数のモンスターがそこら中にいるぞ」


「じょ、冗談でしょ・・・?」



思わず口から出たのだろう。

その言葉とは裏腹に仕草から俺の言葉を確定的なものと判断しているのがわかる。



「・・・せめて一塊になっていてくれたら」



唯火は焦りを含んだ表情でそう呟く。

確かに、かつての『小鬼迷宮(ゴブリンダンジョン)』でそうしたように、圧倒的多勢に対して彼女の『操玉』は無類の強さを発揮する。


だが今は先に行ったようにそこら中に散り散りになっていて各個撃破しなければならない。

それに———



「———敵の大きさもまばらだ。今の奴よりデカいやつも居るな」



大きさイコール強さとは限らないが、一つのバロメーターにはなるだろう。

さすがに地竜ほどの巨体はいなさそうだが。



(それに、なんだ?部分的に妙な足音が混じって———)


「とにかく、今はやれることをやるわよ!」


「———ああ。散開して広範囲を狩るぞ!」



朱音の言う通り。

やるべきことはそれしかない。



「唯火は比較的開けた場所へ向かってくれ!間合いの広い『操玉』でできるだけ多く広範囲を!」


「わかりました!」



応じるとともに『魔添(まてん)』の速力で駆け出し前線へと躍り出る唯火。



「土地勘のある朱音は駅から広がる入り組んだ場所を頼む!竜種は深追いするなよ、救助優先で頼む!」


「わかってる!」



決定的な攻撃力に欠ける朱音に指示を出す。

すでに自己分析は済ませていたようで迷いなく行動へと移していた。


彼女なら竜種と会敵しても状態異常の『付与魔法エンチャント』でうまくやるだろう。



「よし、俺は———」



自らも駆けようとすると、聞こえる足音に抱いた違和感の正体の尻尾を掴んだ。



「これは・・・」



その場に屈みこみ地べたへと耳を当てる。

目を閉じ聴覚だけが研ぎ澄まされた状態で数秒、音の世界を手繰り寄せ———




「———いる、ひしめき合っている」



地中、土の中ではない空洞。

すなわち———



地下鉄そこか・・・!」


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