120話 少女の異議
短いです
「・・・・朱音」
「あたしに背中取られるほど消耗してるやつが何言ってんのって言ってんの」
『忍び足』の付与、か。
どうやら銃口を背中に突き付けられているらしい。
今の今まで気配に気づけなかった。
(痛いとこをつく・・・・)
正直頭の中はそれほどクリアじゃない。
体の内、特に両腕の鈍い痛みも様々な機能の障害になっている。
そんな状態の俺がどの口で言うのかと、朱音は言いたいのだろう。
「よしなさい、朱音。ナナシ君の提案はお前のためを思って———」
「次席。あたしのお守り役なんて潜ませたら、絶縁だから」
「・・・・好きにしなさい」
「響さん・・・・」
確かに俺の案は朱音の意志とは反すること。それは俺にだってわかっている。
血のつながった父親ともなればより理解が深いのも当然だ。
だが今の表情から察するに、響さんは俺の提案に賛成だったのだろう。
当たり前だ、娘の命がかかっているのだから。
彼もあの男の危険さを重々承知なのだろう。
「そういうことだから。ワルイガ。唯火、あなたもよ」
「う、うん」
「・・・・別に足手まといになるつもりも、あんたたちと心中しようとも思ってないわよ。直接やりあったあんたらほどじゃないけど、あいつのやばさはよくわかってる。危険なら離脱する。ただその決定を人に委ねたくない」
それで生き延びても死ぬほど後悔するだろうから。
そう言って銃口を離した。
「最悪を想定して策を講じるのもいいけど、そんなの打開策じゃないでしょ?もっと、ポジティブな未来の作戦会議をしたいわね」
「・・・・わかった」
余計なおせっかいだったか、と。
苦笑を浮かべながら朱音を振り返ると、俺の顔を見るなり満足げに腕を組んで踵を返しドアへと向かう。
「ま。今更策も何もないんだけどね。とにかく、今は街に出ましょう。行こ、唯火」
「あ、うん」
二人は一足先に退室し、俺と響さんだけが執務室に取り残される。
「やれやれ、とんだ跳ねっ返りに育ってしまったよ・・・・誰に似たのか」
「いえ。響さんや俺が思ってるより、あいつはちゃんと考えていますよ」
きっと彼女ならさっきの言葉通りに戦況を見極め正しい判断をするだろう。
「そう、だといいんだが・・・」
「大丈夫ですよ。では、俺も行きます」
「ああ。気を付けて・・・・聖夜たち攻略班もうまくやっているといいんだが」
そういえば、この街の『小鬼迷宮』に送り出してから1日経つか。
「あ、いや、すまない。君たちも大変だというのに、余計な懸念の種を・・・」
「いえ・・・」
思わず口に出してしまうほど彼らが心配なのだろう。
俺としても響さんとは別のベクトルで彼らに思うことはある。
(いっそ、シキミヤに聞いてみるか・・・?)
他でもない、『ユニオン』に潜む内通者の事だ。
(———いや、馬鹿げてるか)
考えてから。
あの化け物と対話する光景を全く想像できない。
そんなことができるなら朱音に銃口を突き付けられることもなかった。
「じゃあ、失礼します」
自分の中の甘い考えを吐き捨てるように鼻で笑うと。
部屋を後にし二人の後を追った。




