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11話 VSオーク 引き換えに

 剣を振り抜き確かな手ごたえを感じつつ着地すると、背後から重たいものが落ちる鈍い音が遅れて耳に届く。


 その結末を見届けるべく戦闘体勢のまま振り向くと。



「……やった」



 両断されたオークの首は地に落ち、膝から崩れその巨体は沈んだ。



 《オークを討伐 経験値取得》

 《----のレベルが7⇒12に上昇しました》



 オークを倒したというのと、レベルが上がったと響く声は告げた。


「一気に5レベルも……格上だったからか?」


 初めてのレベルアップの時も思ったが、レベルというのはかなり上がりやすい仕様なのかもな。


 生死を賭けたギリギリの戦いを斬り抜けた安心感と、強敵に勝利した高揚感。

 そんな浮ついた俺の気持ちを、手に握り込んだ重みが正気に戻してくれる。


「そうだ、池さん!」


 池さんがこの剣を打ってくれなきゃ俺はきっと間違いなくオークに殺されていただろう。

 あの短時間で、どうやってこんなすごい剣を作り出したのかも気になる。


「池さーん!倒したぞ!この剣、めちゃくちゃすごくて、素人の俺でも―――」


 あたりを見渡すと、一瞬彼の姿が見当たらなかった。



「……池、さん?」



 胡坐でもかいて待っていたものだと思っていたから、地べたに横たわる池さんの姿を見つけるのに数秒かかった。

 俺は駆け寄ろうとはせず、ゆっくりと近づき、浅い息を繰り返す友人の傍らに腰を下ろす。


「なぁ、池さん。池さんの剣のおかげで勝てたよ。池さんを脅してたあの男も」


 そっと剣を置くと。


「……おぉ……そうか……その剣、やる……ヌシが持っていてくれ」

「ありがとう、大事に使う……スキルの、せいか?」

「あぁ……魂を、代償に……鋼を、生み出し……刃を生成……する……ヌシと最後の、無駄話する分は……とっておいた」


 それから池さんは、俺には知る権利があると言い、ことの経緯を絶え絶えに話してくれた。


 仲間が2人、ゴロツキのスキルの試し打ちによって殺され、モンスターがうろつくようになった後、程なくして追い返したチンピラの一人がモンスターを引き連れて再び現れたという。

 それがあの魔物使いだった。


 やつは同じゴロツキ連中をそそのかし、モンスターが出現するようにスキルを使わせ池さん達を襲わせたこと。

 その後出現したモンスターたちを手ゴマにし、ゴロツキ仲間を経験値にしたこと。

 そして、そんなイカれた手段を用いる狂気染みた男の脅しに池さん戦慄し、屈してしまった、と……



「そうだったのか……」



 何から何まであの男のせいだったか……あいつがオークに殺されたのも因果応報ってやつだな。


「ワシには、力がなかった……じゃが、ヌシが、やり遂げてくれた……」

「そんなことない、俺が勝てたのは池さんの剣のおかげだ。池さんが勝ったも同然だ。池さんが、みんなを守ったんだ」

「……そう、か……最後に、ヌシの名前……思い出したかったのう……」

「……ああ、そうだな」

「いずれ……戻るとよいの……ヌシの、名」



 そう言って息を深く吸う池さん。



「ワシは、もういく……また、死のうなんて、考えるでないぞ?……しばらく、ヌシの顔は、見とうない……」

「ああ。くたばるまで、ちゃんと生きてみるよ。この世界で。この剣で」


 俺の返事を聞くと、珍しく人当たりの良い笑みを浮かべ、息を引き取った。


 名無しの俺は一体、目の前の友人の中で、何者として残ったんだろう。

 俺は……思ったよりも大事なものを無くしちまったのかもしれない。



「それでも、自分が何なのかわからなくなっちまっても、俺は生きるよ。池さん達みたいに自由に生きる。()()()()、さ」






「……ぐっ、く、そがぁ」


 池さんに黙祷をささげていると。

 廃工場の方から耳ざわりな苦悶の声が聞こえてきた。


「……生きていたのか」


 俺の心中は氷のように冷め、剣を取り立ち上がる。

 息のある奴の姿を確認すると、ポケットから小瓶を取り出しそれを頭上で握りつぶしたところだった。


「あのクソブタがぁ!レアな回復薬使わせやがって!」


 ……回復薬、か。

 傷が見る見るうちに塞がっていく、すごい効果だ。


 一瞬で治療を終えた奴は、剣を持った俺の姿に気が付くと怯えた様子を見せる。


「てっ、てめえ!まさか、あのオークに勝ったのか!?」

「見ればわかるだろ?」


 首を落とされたオークの死体を見ると、見る見るうちに青ざめていく。


「バカな!?なんで、昨日までステータスのこともろくに知らなかった奴が!?」


 ありえねぇ!と、なおも取り乱し続ける。

 けど、もう正直声も聞いていたくないんだ。


「信じられないなら信じないで好きにしろ。お前は、ここで終わらせる」

「! ひぃっ……!?」


 勝てないと見込んでいるのか工場の壁伝いにじりじりと距離を取ろうとする魔物使い。

 今更切り札もないだろうが警戒しながら距離を詰める。


 すると突然上空から猛禽類のような鳴き声が響き渡り、俺と奴の間を通り過ぎた。



「鳥型の、モンスター?」



 随分でかいな、スキルを使用した戦いに誘われて寄ってきたか、思ったよりも早いな。

 突然現れたモンスターに警戒していると、鳥型モンスターは狙いをつけ滑空し。


 その標的となった()()使()()はこちらを見て嫌な笑みを浮かべ。



「っ!しまった!?」


「……っ『隷属(スレイブ)』!!」



 鳥型モンスターの足につかまり上空へと舞い上がった。



「く、はははははっ!ついてるぜぇ!このまま逃げさせてもらうわ!」

「っこの!待て!」

「いいのかよぉ!?そのジジイの死体食われちまうぜ!そいつとの関係も大方分かってんだ、ここら一帯はまたバケモンが出てくるようになる!いいのかぁ?俺なんかにかまっていて?」


(悔しいが、思ったよりモンスターが沸くのが早い!このままじゃ池さんが命を投げだして守った皆が危ない……!)


「安心しろや!もう、てめえみてえなわけわかんねえ化け物がいる場所なんか狩場にはしねぇよ!じゃあな間抜け!」



 もうあの高さではどうすることもできない。

 この区画から追い出すことはできたが、今まで犠牲になってきた人たちや池さんの敵を討つことはできなかった。


(いや。この結末にどこかホッとしている自分がいる)


 剣は握ったが俺は果たして、あの男を斬れたのだろうか?

 殺すことが……できたのだろうか……



「……くそっ」



 池さんが守りたかったものも守れた、魔物使いを追い返すこともできた。

 この世界で生きる決意も再確認できた。



 でも、今この瞬間俺の中を支配していたのは。



 得体の知れない苦味だけだった。

第1章 終了といったところです

みてくださってくれてる方が増えてきてありがたいです。

ストックが切れたので、折を見て更新いたします。

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― 新着の感想 ―
自分以外どうでも良いというのが本音
[一言] さすが中途半端者
[一言] うーん、昔よく見た展開
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