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114話 連なる渾身

「手応えあり、だ」



限界を超えた攻撃力の反動で痛み以外の感覚がない右腕を庇いながら、シキミヤを叩き落とした階へと着地する。



(腕は・・・・折れてはいないな)



二度目の『超剛力ストレンジ』だが一度目と変わらぬ反動を受けた。

付与時点の対象の攻撃力を倍加させるのだからレベルアップしたところでこの反動が緩和されないことは当然と言えば当然。

仕方のないことだった。



「頼むから立ち上がるなよ」



手応えは確かにあった。


初めて見る唯火が放ったあの燃え盛る『操玉』。

あれの光源のおかげで俺を影の拘束から解放し、恐らくヤツの一時的な弱体化にもつながった。


彼女の決死の一撃が、あの一瞬を作り出し。

潜む鎧の様な装備を砕き、間違いなく俺の拳はヤツの肉体を打った。



(おまけに高所から叩き落とした追加ダメージ)



ギルドの皆には悪いが、深くえぐれ煙に包まれた衝突地点がその破壊力を物語っている。

およそ人間が耐え切れる衝撃ではないはずだ。



(けど・・・・)



それでも。

奴との圧倒的なレベル差、見る事すらかなわなかった未知のパラメーター。

今まで感じた事のない不吉な闘気。


超剛力ストレンジ』によって倍加された一撃をもってしても仕留め切れたかどうか。

一見追い詰めたように見られるこの状況下でも、一切の予断を許さない緊張感が胸中にあった。


と。



「ワルイガ!!」


「朱音か!」



上から呼ぶ声が響くがまだやつの姿を確認していないので、視線は土埃のヴェールへと固定したまま答える。



「すまないがこっちより唯火の方へ行ってやってくれ!」



シキミヤが戦闘不能になっていなかった場合、この場に居る者が人質に取られる危険性と。

決死の一撃を放った唯火の身を案じての頼みだった。

あれほどの高火力の攻撃、種族の弱みで身動きが取れなくなっているかもしれない。








「――――そうだねぇ。お嬢ちゃん随分と気配が弱ってるから」


「・・・・ちっ。効いてないのかよ」



どうやったのか。

発声と共に姿を隠していた土煙が天へと巻き上がり、あっという間に視界が晴れる。



「いや・・・いやいや。効いたよ。まさか『一等級ファーストレンジ』のこいつを壊されるなんてねぇ」


「ファー、スト・・・・?」



のそのそと気だるげに自らの肉体の落下で作り上げた穴からゆっくりと歩きながら出てくると。

すごいすごいなどと言いながら、ボロボロになった襦袢をまくり、砕けた防具の向こうの拳が突き刺さった鳩尾を露わにする。



「知らないの?まぁ当然だよね。別にそう呼ぶ規格があるわけでもなし。()()が勝手に呼んでるだけなんだし」



相も変わらず言っていることが一つも分からない。

なにより今はヤツの言葉の意味などどうでもよかった。



(まだ敵はいるかもしれない。唯火は無事か・・・?)



シキミヤの言葉を信用するわけではないが、

目の前のこの男から目が離せないのも、他にもまだ忍者連中が忍び込んでいる可能性があるのも事実。

彼女の種族特性上、無防備なところを敵に襲われる危険性を無視できない状況だった。



「んぁー、だからそれ雑念なんだよなぁ・・・・まいいや、続きをしよっか」



途端。

ヤツの足下にぽっかりと大きな穴――――


否。

丸い漆黒。

床に黒い円が広がる。



「なんだ!?」


「さっきも言ったじゃん、察しが悪いね。見たまんま『影』だよ。普通じゃないけどね・・・と、いたいた」


「!?」



ヤツの足下に広がる影の一部が盛り上がると、そこから黒いツタの様なものに絡まれた人影が出現する。

ぐったりとうなだれ黒の中に輝く金髪のその人物は。



「唯火!?」



どういうわけかヤツの言う『影』の中から彼女が出てきた。

『目利き』にもかかるから本人で間違いない。



「気配は覚えたからね、こんなこともできるのさ」


「お前・・・ッ!」


「僕としてもさ、さっきのこの子の決死は震えたんだけどね。若い芽摘むのは心苦しいんだけど」


「・・・・ぅ」



影から伸びる漆黒のツタに体を持ち上げられてゆく唯火がうめき声を漏らす。

意識があると分かった俺は思わず声をかけ。



「まってろ唯火!今助ける!!」



「―――ごめんね。間に合わないよ」



今から奴に斬りかかったのでは間に合わない。

唯火の拘束を解くには、先にそうしたように影が映る場を砕く!



「ああああああ!!」



超剛力ストレンジ』が残る左腕を地面めがけて振りかぶる。


その瞬間――――






「――――ナ、ナシ、さん・・・?」



薄く開かれた瞼の向こうの、見慣れた赤銅の瞳と視線がぶつかる。


まるで一瞬時が止まったような、そんな感覚。


なにを思ったのか、俺はこの時が動き出すのを恐れた。


予感した。


そして。


現実、時が止まるはずも無く。




「――――――――」




驚きに見開かれた瞳。

羽のようになびく金糸の髪。

その全てを侵食するような漆黒の影。



実体を持った一本のそれが、彼女の体を貫く。



その場にいる誰もがその光景を。

そんな最悪の未来を。


影が塗りつぶす刹那の向こう側に見た――――









小天体プチスター





だから、一瞬何が起きたかすぐには理解できなかった。

聞き覚えのある名と、唱えた声。


影が覆う一帯を眩い白い光が包み。


そんな中俺の眼はつぶれることなく、唯火の拘束が解けた光景を見届け。




「・・・・ぅ、ぐッ!!」




開放された唯火が、宙に置き去りにされ自由落下を始める。

そんな悠長な瞬間を飲み込んでからだった。



(なさ・・・け、ない!!)



激痛を振り払い、この一瞬に自分がやるべきことを理解したのは。




「シキミヤぁ!!」




奴にか己にか。

湧き上がる怒りが腕の痛みを遮断し剣を握らせ。

怒気を抑えず吐き出す咆哮と共に、床を蹴り砕くように踏み込み。


超速で斬り抜ける。


腕を伝う手応え。

紙一重でヤツの持つ苦無くないに阻まれた。


だが――――



「!?」


「この剣撃は――――()()()()()



二撃。三撃。


駆けるごとに、重ねるごとに、交差するごとに、腕は感覚を失う。


四、五、六、七、八。


右腕は剣を握る機能を失くし、淡々と左腕に持ち替え間髪を入れず、九つ目。


愚直に。

振るう。

駆ける。


伝う手応えは、流されるのでなく、弾くものへと。


鎧を打つ打音が響き渡る。




《【剣聖けんせい】スキル》



打つ。

削ぐ。

砕く。




「『瞬動必斬オキザリノタチ』――――」




貴様を斬るまで止まらない、『二十四』連の斬撃――――




二十四回針ノ式(いっかしんのしき)落陽らくよう




「参った・・・・ね、どうも」





血しぶき乱れる場を背後に置き去り。


最後の一閃を振り抜きざま。

奴を切り裂いた剣の代わりに、解放された唯火の体を俺の腕が抱きとめた。


本作はスキルと必殺技の違いとか細かく分類するタイプの作品ではありません。

作者の中二的発想でもう、バーッと、雰囲気でやってる感じです。

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