113話 道開く炎。捨て身の拳
短いです
「あちちちちっちーーー!」
唯火が放った炎を帯びた魔石の弾丸。
シキミヤの体を焼きつつ術者の彼女から離れて尚その肉体を運び続ける。
(追いつけ!追撃を掛けろ!)
一瞬の逡巡の後全速で駆けだし、その炎の揺らめきを間近に捕えつつある。
そんな中、俺は『五感強化』で聴覚を強化し、辺りを、この階を探っていた。
(多分、いやきっと・・・・)
このまま吹っ飛び続けるやつを追いかけていればかち当たるはず。
床が崩落した音を聞きつけて唯火が来たように。
(次の・・・横に伸びてる通路から――――)
「ぅわ!?なに!?炎!?」
「っし!」
あちら側から見れば、身を焼かれながら飛ばされ続ける火の玉的な何かが一瞬横切ったように見えるだろう。
そしてその声の主は。
「朱音ぇ!!『攻撃力上昇』だ!!」
「!」
一瞬。
炎を追い疾走する俺も朱音を横切る瞬間、目が合い。
「ス、『超剛力』!!」
そう唱える声を背中に聞くと、地竜戦の時経験したものと同等の負荷が肉体を襲う。
(ナイ、スだ!朱音!)
「ワルイガ!」
なにやら俺の名を呼んでいる様だが、今は振り向く一瞬の暇すらなかった。
軋む体を鼓舞しながらシキミヤへと追いつくため足をひたすら前へ。
(勢いが弱まってきた!)
唯火の放った炎弾は急速にその勢いを落とす。
術者である彼女から距離が離れたからだろう。
(捉えたぞ)
そして建物中央、吹き抜けのフロアに差し掛かると、ロウソクに息を吹きかけたような儚さで炎は消え。
「――――いやぁ、やってくれるねぇ」
腕を焼かれ、その熱が全身に伝番したように煙を上げるシキミヤは無防備に空中へと放り出されていた。
「追いつくんだぁ」
渾身の跳躍でフロア中央、階下が丸見えの開放的な景色、ヤツの頭上を取る。
「――――いいよぉ?」
「!」
攻勢へと転じる数秒にも満たない時の中、奴は受け入れるように両手を広げる。
愉悦と自信。
そんなものが入り交じった嫌な表情。
(愉悦はヤツの道楽。自信は――――)
落下しながら振りかぶった拳が、全身が空を裂いて加速する中、思考を加速させる。
(――――見ろ)
《熟練度が規定値を超えました》
《『物核探知LV.1』⇒『物核探知LV.2』》
眼光が射貫くのは晒された鳩尾。
(見極めて――――)
《熟練度が規定値を超えました》
《『物核探知LV.2』⇒『物核探知LV.3』》
感覚的にわかる。
衣服の下に潜む。
(阻む鎧を打ち砕け!!)
微かに捉えた一点。
先ほど床に見たものより、地竜の岩塊に見た時より。
あまりにか細い吉兆。
(ワルナナの眼、この寒気!なんかヤバイ!?)
だけど俺の拳は迷いなくそこへと吸い込まれ。
「や、やっぱさっきの無――――」
「ふっ!」
衝突。瞬間。
伝わるのは人体の柔らかさでなく、超硬度の物体の手応え。
だがそれも一瞬の拮抗―――
「そ、れ――――砕けるの?」
「ぉぉおあああッ!!」
体感時間が伸びたような感覚の中、『超剛力』の膂力を発揮した右腕の激痛と、シキミヤの声をかき消すように吠えながら拳を振り抜く。
「――――――――!」
鳩尾に突き刺さった拳に、一瞬うめき声をあげたかどうかも分からないほどの速力でヤツの体を突き放し。
矢が空を裂くが如く鋭い風音を立て階下に落ちていくと。
彗星のように落下地点を破壊。
轟音と全階揺らす衝撃。
巻き上げた瓦礫と砂塵の中にその姿は飲み込まれた。




