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110話 背後の屍、現わす黒

「これは・・・・見ろ、朱音」


「勘弁してほしいわね」



ワルイガと別れ、唯火のMP回復のために信頼のおけるギルドメンバーの元へ送り届けた後。

私とパパ、そしてマスターの三人で応接室にてひざを突き合わせ話をしていた。


話の内容はマスターが眠りについている間に判明した内通者の存在。

次席であるパパは信じたくはないようで、まだ可能性の段階だが、私は確信めいたものがある。


目の前でワルイガが狙撃された光景を見た分感情的、短絡的になっている感は否めないとは思うけど。

でも・・・・



「どうやら、お前たちの言っていたことが現実になってしまったようだな」



私とパパ。

私たち二人は上階から響く炸裂音と、建物中がざわつくようなただならぬ気配に駆られ、マスターを近くのメンバー達に預け状況の把握も為に走った。


現状分かっていることは、

何者かが上階から侵入してきたこと。

敵襲知らせるために叫んだメンバーの安否が不明なこと。

そして、階下まで侵入者が攻めてくるかと思われたが、数分経っても今だに敵の姿が見えない事。



(侵入者は十中八九()()ギルドの連中。敵襲を告げたメンバーは多分もう・・・・)



ひとつずつ確定に近い想定を当てはめていく。

事態は芳しくない。


敵の姿は見えない、メンバーから恐らく犠牲者が出た。

そして。



(いまだにあいつらが下まで降りてこないのは、足止めを食らっているから)



あいつらの仕事の性質上(やり方だと)、ギルドメンバーの誰かを狙っての強行だろう。

つまり目標は階下にいる。

だけどここまで進んでこれない。


ワルイガが。

あいつらを抑えているから、ここにまで攻めてこられない。


目の前の光景を見るまではそう想像していた。




「この襲撃の目的は見誤ったみたい」


「ああ。そのようだ」




敵が通りそうな侵入経路をしらみつぶしに見て回り。

最後に行き着いたのはギルドメンバーしか知らない隠された非常階段。

壁と同化させ目を凝らしたところで扉など見えない秘密の経路。



「使われた痕跡がある」


「中に入ってから、ここを通って上に行ったってことよね」



舐められたものだ。

いや、今はそんなメンツのことなどが問題ではない。



「明らかに手引きした者が、ギルドにいる、か」



苦しそうに眉を顰める。

彼がメンバー達に寄せる情は娘である私に向けるものとそう変わらないからそれも仕方ない事。


けど、その今更な事実よりも優先すべきことはあるのだ。



「今は落ち込んでる場合じゃないわよ。次席」



戦闘の意思を示すようにホルスターから拳銃を取り出し。



「敵を上階へと導いた内通者。そしてそいつはメンバーの部屋の割り当ても知っている」



敵襲を告げた声の遠さ的に、誰も使用していない階から発せられた。

別に特別制限しているわけではないが、普段居住区にしていない階には誰も立ち入らない。

これは推察だが、その声の主はそこまで道案内した内通者の一人。

話がこじれ悪あがきとして敵襲を告げたのだろう。


そしてつい最近まで誰もいなかった階に一人、新たな住人が増えた。




「あいつらの狙いは、ワルイガよ」



彼の強さは知っている。

けれどそれ以上に、奴らの性質も理解している。



「勝算のない戦いは決して仕掛けてこない。それが、ギルド『黒足袋くろたび』よ」






::::::::






「随分入り込んでいるな」


「・・・・」



階下へとつながる階段を防火扉で封鎖し、こちらから打って出てもう何人斬り伏せただろう。

剣は相変わらず清浄な刀身を晒しているが、こちらの体はそうもいかない。

いくらすでに腹はくくっているとはいえ、人間の返り血に塗り染まっていくというのはあまりいい気分ではない。



「見た目の黒さも相まってゴキブリみたいだな」



頬を掠めた血のりをぬぐうと思わずそんなことをつぶやいてしまう。


言ってから。

顔色悪く横に立つ彼女に対してあまりに無神経な、人間の命を軽視するような発言だったと少し後悔した。



(少し、殺気立ち過ぎだな)



血を見過ぎた。

命のやり取りの緊張感と相まって軽い高揚を感じている様だ。

ある意味『精神耐性・大』が変な風に作用しているのかもしれない。



「ふぅ・・・」



一呼吸つくと、纏った殺気、体内の淀みが抜け落ちるような感覚。

研ぎ澄まさせた五感も緊張と共に緩める。



(ぶっちゃけ、『五感強化』を使っても『索敵』を使っても『隠密』を使いあいつらを事前に感知することはできないからな)



相手の『隠密』のレベルに対しこちらの『索敵』のレベルが上回っているにもかかわらず、効果を発揮しないのは多分あいつらの装備が関係しているんだろう。


もう一つ。

唯火がこの戦いに同行するにあたって、一つの懸念が浮かび上がった。

それは彼女が『隠密』のスキルを所有していない事だ。

俺だけ気配を絶っても同行する唯火の気配を感知される可能性が高かった。


だが、使っているうちにこのスキルは使用者のすぐそばにいる者にも効果が伝番することに気付いた。

だからこちらが一方的に存在を悟られる心配は無くなったわけだ。


なんにしても、現状効果を発揮しない『五感強化』と『索敵』に神経を割かなくても、『直感反応』があれば十分対応できる。

よくよく便利なスキルだった。



「? どう、したんですか?ナナシさん」



俺が纏う空気が変わったのを敏感に察したのか、そう問いかける唯火。

心なしかホッとした様子だ。

目の前で流れる血に心労が募っていたのだろう。


正確には俺が人を斬るという光景に、か。



「いや。流石に少し疲れたと思ってな」



それもまた事実だった。

スキルを意図的に長時間同時併用し神経を研ぎ澄ませるのは、『合わせ技』の負荷とはまた違う疲労感があった。

お陰で『隠密LV.6』⇒『隠密LV.8』にレベルアップした位だ。



「慎重に進むのは変わらないが、少し警戒を緩める」


「そう、ですか」



今の彼女にはむき出しの殺気は毒だろう。

身体から微かに緊張が抜け、表情からも険しさが幾分か取れたのを見てそう確信する。



(いくら『隠密』でも、防火扉を破壊するアクションを取ったらボロが出るはずだ)



それから反応すれば十分現場には間に合う。

だからこのままこちらから出向くスタンスは変わらない。




「――――と、思ったんだけどな」


「ッ!」




近場の上階へとつながる階段からゆったりとした足音が響く。

人口の白い光が照らす無機質な通路にぼんやりと浮かぶ非常口の案内灯が、やけに不気味に感じた。



(どういうつもりだ・・・?完全に『隠密』を解いて()()()()()()()()()()()()



そう考えてから、一瞬。

寒気の様な嫌な感じが背筋を撫でる。



「――――唯火。逃げろ」


「ぁ・・・ッ」



足音の主は俺の『隠密』もお構いなしに明らかにこちらに向かってきている。

何故、こちらに向かってきていると分かるか?

意識していなくとも『索敵』による敵意の感知が成されているからだ。


そして、その敵意の・・・・質。



「なんて存在感。いや、威圧感ってやつか」



もし『精神耐性・大』を所有していなかったら、膝が嗤っていたかもしれない。

だから――――



「ナ、ナシ、さん・・・」



この精神的ストレスにあらがう術を持たない彼女が、戦わずして膝をつきそうになってしまうのは仕方のない事。



「動け!走ってこの階から逃げろ!!」



今まで唯火に対して放ったことのない怒気を含めた怒号。

びくりと肩を震わせ我に返ったように踵を返し。



「応援を・・・・助けを呼んできますッ!」



残って戦うと言い出すか心配だったが、きちんと冷静なようだ。

もっとも、唯火が鼓舞するように放った打開案は。



「戻るな!!全員連れて身を隠せ!!」



この刺すような殺気を前にして、縋るに値しないと。

冷ややかながらそう判断した。



「・・・・ガントレットも、装備してくるんだったな」



返ってくることのなかった唯火の返事に僅かな不安を抱きながら、ひとり呟く。

焼け石に水って奴だろうが、万全を期した状態なら悔いも無くて済むだろうに。



「斬り過ぎてナーバスになってるのか?おい」



剣を抜きながら、限りなくネガティブな思考に陥る己をやけくそ気味に焚き付ける。

こんな心理に至ってもなお、心が乱れないのは我ながら気味が悪い。



「――――来い」



足音の主に聞こえるよう、発声。

未知の間合いに踏む込まぬよう、攻防どちらも想定した最大限の戦闘体勢を取る。





「・・・・怖いねぇ。近づいただけでバラバラにされちまいそうだ」



どこかひょうきんな印象を受ける話し方で、そいつは姿を見せた。



「まず雑談を楽しむ余裕位ないのかねぇ。今日日の若いのは」



無防備に、あまりに隙だらけで、両手を上げ交戦の意が無いとでも示すように。


その所作をあざ笑うかのような、短絡的に死を連想させる不吉な雰囲気を纏いながら。


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