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109話 階下防衛

「よかった。無事、だったんですね」



お互いの正体を確認すると戦闘体勢を解く。

流石に胆が冷えた、けど今はそれよりも・・・・



「なんで唯火がここにいるんだ?」



朱音の部屋で解散した後、その朱音に促されてMPの回復に努めるといっていたはずだが。



「あ、あの。食堂でお手伝いをしていたら、音と声が遠くで聞こえて、これはただ事じゃないなと思って・・・・ナナシさん、寝るって言ってたから・・・・」



なるほど。

襲撃に気付いて、上の階に部屋を構えそこで眠りこけてる俺を案じて駆け付けてくれた、といったところか。



「そうか。心配かけたみたいだな」


「いえ、あの・・・・ごめんなさい」



それなりの付き合いだ。

俺のわずかな困惑を察して出た謝罪だろう。


事実、戸惑いはある。


この戦いは対人戦、つまり今まで唯火が対峙してきて異形のモンスター相手ではなく人間の命を奪わなければならない。

廃棄区画での自分を棚上げにして言わせてもらうが、この子にそれができるとは思えないし、俺もできれば避けさせてやりたい。


こんな世界になっても、自分の中で割り切っても、やはり殺人の禁忌感は拭えやしない。


彼女の優しさは甘さとなり、格下相手でも死の危険が付きまとう事になるだろう。

以前、公園で山さんの仲間らしき連中と戦った時とは状況も敵の強さも違う。


けど――――



「何を謝ってるんだ。心強いよ」


「・・・・」



恐らく一刻も早くここに来るために相当無理なスキル使いをしたんだろう。

汗に髪を張り付かせ、息を弾ませる彼女の姿を目にして、『帰れ』などとは言えなかった。



「――――と、のんびりはしてられないんだった。唯火、これから吹き抜けの向こう側の階段に向かう」


「・・・・はいっ」



一緒に来い。

とは言わなかったが察してくれたようだ、いざというときためらう可能性の高い唯火を一人にはしておけない。



「よし。疲れているだろうけど、援護頼む」


「分かりました」



遅れた時間を埋めるように全速で駆けだす。

今だけは唯火を気遣って減速している場合ではない。



「ふっ!」


「っ!」



中央部へ抜けると速度をそのまま、宙へと飛び出し吹き抜けを一直線に進む。

やはり唯火は少し遅れて回り込んでいる様だが、目視できる範囲に敵は居ない。


一瞬だけ彼女を振り返ると。



(気にしないで先に行ってください・・・!)



眼差しと頷きでそう言っているように見て取れた。



(もう少し!)



階下へとつながる階段まであと数秒。


だが、目的地を目前にした所で『直感反応』の網に反応があった。



「くっ!?」



咄嗟に状態を逸らし、惰性で滑り込んでゆく。



(攻撃・・・!)



天井を仰いだ視界に、先の【忍者】が使っていた苦無くないが行きかうのを見た。



「ちっ!」



ブレーキ代わりに片腕を突きつつ強襲を受けた方向を振り返る。

すると両脇の通路から敵が四人飛び出してきている所だった。



(こっちの気配がバレてたみたいだな。流石にさっきの速度で走り回っていたら『隠密』の効果も薄れるってことか)



いい勉強になった。

そりゃあれだけ派手に駆け回れば気配も捉えられる、まんまとそこを待ち伏せられたわけだ。

逆に『隠密』を使用した強襲も『直感反応』なら対応できることが分かったが。



(なんにせよ間に合った。まだ下の階にはいかせてないはず)



滑り込んだ先、下へとつながる階段を背にし、迫りくる敵を見据えながら抜刀する。



「「シッ!」」



二人同時の投擲。

数十に及ぶ刃が弧を描きながら飛んでくる。



(今度は手裏剣か)



苦無とはまた違った軌道で多少面喰うが、問題ない。


体勢を崩されるほどの威力も持たない手裏剣それらを、全て難なく剣で弾くと。



(――――いい連携だ)



元より牽制の攻撃だったのだろう。

手裏剣に追いつくほどの速力で、一人は右舷に深く沈み込み、もう一人は対角の左舷に飛び込んできた。

双方共に小太刀をその手に握り込んで同時攻撃を仕掛けてくる。


先ほどやり合った連中と違い、待ち伏せた分冷静に攻めてきている様だ。



(俺の背後が階段というのを織り込み済みでの攻撃)



後ろへ飛べば無防備な滞空時間が長くなるのは必然、狙い撃ちにされる。

後続の二人が何かしらの投擲モーションに入っているのがその証拠。


だったら話は簡単。



「受けるまでだ」

「「!?」」



沈み込み切り上げられた刃は剣で。

喉元を薙ぐ振り下ろされた刃は、首から伸びる羽衣を張って受け止めた。


一見、布製の羽衣こいつで小太刀の斬撃を防がれた方は大層驚いたようで。



「隙だらけだ」


「!?」



受けた小太刀を瞬時に羽衣で一巻きして主導権を奪い、全身をひねりながら獲物を強奪。

その勢いで剣で受けた小太刀を床へと受け流し叩き折る。



「がはッ!」

「こ、のぉッ!」



一連の動作で速度を得た回し蹴りが、獲物を失い滞空し隙をさらけ出していたその鳩尾に突き刺さる。



「ちっ!これならば!」



蹴りによって吹き飛ぶ仲間を避けつつ、後続の一人が円筒状のモノから糸を引き抜き投げ放つ。



「ぬあぁぁあ!!」



決死。

といった感じで小太刀を折られたヤツが掴みかかろうとする。



(なんだ・・・?無手で・・・いや、もしかして)



その形相を冷めた思考で観察し終えると。

掴もうとする手を払い、逆に胸ぐらをつかみ、投げられた筒状の何かとぶつかるように背負い投げた。


すると―――



「ぎゃあぁあ!」


「やっぱり、爆発物だったか」



最初に聞こえた炸裂音に似た爆音が鼓膜を揺らす。

その爆風をまともに受けた体は焼け焦げ皮膚が裂け無惨に床へと落ちた。


動きを封じて道連れにするつもりだったんだろう。



「っと」



嫌な臭いのする爆煙を突き抜け性懲りも無く苦無が投擲されてくる。

下手気に斬りこんで、文字通りけむに巻かれて後ろの階段へ抜けられても困るので、その場でひたすら弾き落とした。




「――――弾切れか?」




しばらく防御に徹していると、煙が少し晴れる頃、投擲はピタリと止んでいた。

すると覚悟を決めたのか、白煙を巻き上げながら小太刀を片手に突進してくる影。



「ふっ!」


「ご、はッ・・・・」



その片方に、羽衣で強奪した小太刀を全力で投擲。

攻撃力も上乗せされたそれは、防ごうとした敵の小太刀を弾き喉へ深々と突き刺さる。

水気を含ませ、くぐもった断末魔を上げながら膝から崩れ落ちる仲間を尻目に。



「あぁぁああ!!」



無策に飛び込んできた脇腹を、すれ違いざまに深々と切り裂くと、同じく力なく膝から崩れ落ちた。



「ふぅ・・・」



続く緊迫感の中ひとつ息をつくと、防火扉を下ろす非常ボタンを叩きように押した。

さび付いたような金属音が鳴くように静寂に包まれた辺りに鳴り響く。



「――――」



その騒音に乗じるように、最後の生き残り、蹴り飛ばしたヤツが背後からの強襲を仕掛けてくる。

声鳴き咆哮を上げた最後の特攻。


だが、空しくも直感していた。



「ぁ・・・が」



振り返りもせず当身と共に剣で腹部を貫く。


剣を引き抜くと、そのままよたよたと。


徐々に何かを取りこぼしていくような、死人のような足取りで、降りつつある防火扉の向こう側。

階段を今にも転げ落ちそうに一段、一段、下がっていき。



「・・・・悪いな」



花向けと言うにはしみったれた言葉を吐き。

俺は拝借していた、短い筒から見まねで糸を引き抜くと。


既にひざ下まで閉まっている扉の向こう側へ放り投げ。



「これで、防衛線確保だ」



血生臭い功績を称える空砲の様な、くぐもった爆音を、扉越しに聞いた。


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