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98話 見送りと状況把握

「では行ってきます。次席」


「気をつけてな。くれぐれも無茶はするな」


「はい。朱音、留守は頼んだよ」


「分かってるわよ。あんたたちこそ、『小鬼迷宮(ゴブリンダンジョン)』なんてさっさと攻略してきなさい」



リザードランナーの群れを討伐しアジトへ帰ると、聖也率いるダンジョン攻略班の出発準備が整っていた。

活動を開始していないダンジョンは日が経っても階層の変動や、王の出現のタイムリミットが迫ることはないが、今回は竜種のダンジョンが出現するまでという別のタイムリミットがある。


善は急げという事で、俺たちが帰って早々に出発することになっていた。



「ナナシ。君に頼むのはお門違いかもしれないが、僕たちがいない間ギルドを頼むよ・・・・モンスターだけじゃなく、別組織のギルドにも用心してくれ」


「・・・・わかってる」



結局、聖也が内通者なのかどうかという謎は明らかにすることができないまま出発の時を迎えた。

そんな人間にダンジョン攻略に行かせるというのは、同行者のメンバーが心配ではあったが、その件を知る数少ない一人。

次席である響さんは聖也を白だと信じているようで、俺としてはそれ以上口出しすることはしなかった。


万が一そうであったとしても、連れて行くメンバーもおそらく息のかかった者だろうから、いたずらに貶めるようなことはないだろうと、斜に構えた考えもあった。



「ゴブリンは個々の力は大したことないが、奴らもそれを自覚してる。戦闘になった時は生き残る戦い方じゃなく、確実に倒す方法で。一見単体だったとしても、一匹いたら何匹もいると思ってな」


「ああ。油断も慢心もしないさ」



経験上の助言を最後に投げかけると、彼ら攻略班を迷宮へと飲み込み扉は固く重く閉じた。


不安要素はあるが、彼らの実力ならゴレイドのような奴がいなければ問題なく帰ってくるだろう。

俺が廃棄区画の『小鬼迷宮(ゴブリンダンジョン)』に潜った時よりも平均のレベルは高いし、俺なんかよりも団体での戦闘に長けているわけだし、数の強みは大きなアドバンテージだ。

出来る限りのアドバイスもしたから、『湧き場(スポット)』で初見殺しを食らう事も無く対処できるだろう。

挑戦人数が多ければ多い程、ダンジョン内の構造は複雑になるとのことだがそのデメリットも十分に補えると思う。


それよりも、今は別の問題がある。



「さて。ダンジョン攻略班(あっち)は心配なさそうなわけだが」



見送りを済ませ、響さんや他メンバーが去った後、俺と唯火と朱音だけはその場にとどまった。



「大変なのはこっち、よね」


「竜種は単体出現っていう希望的観測が崩れましたしね・・・・」



先のリザードランナ―の特性なのかもしれないが、それでも個体の強さがゴブリンやオークなどとは比較にならない強さだった。

今の段階では、俺たちの力が上回ってはいるがそれらをまとめる統率者となると、ゴブリンジェネラルの事例で言えばその10倍近い強さはある可能性が高い。



「竜種を統率するモンスター、名持(ネームド)はきっと、単純な強さ、レベルの高さなら俺たちを優に上回ってくるだろうな。そこにどんな特殊なスキルを所有しているかまるで想像がつかない」



ワイバーンの生まれ持った種族特性としてただ翼で空を飛ぶのと、『風編み』のスキルだけであれだけ手を焼いたんだ。



「そいつが現れるまで、竜種を倒し続ければあたしたちも強くはなっていくけど・・・・」


「それでも、厳しい戦いになる予感しかありませんね」



俺も唯火も朱音も。

まだ見ぬ竜種の統率者にかつてない脅威を感じている。

恐らく王の座に至らないままで、今まで戦ってきた、


ゴブリンの王 ゴブリンキング『ゴレイド』。


グールの王 変異種 下等吸血鬼『ヴェムナス』。



こいつらが霞むほどの怪物が生まれることだろう。



「猶予がどれほどあるか分からない。劇的なレベルアップは望めない」


「今ある手札を最大限に活かす」


「私たちに出来るのは今のところそれしかないですね」


「ああ。けど、最大限じゃだめだ。限界すら超えないと」


「・・・・」



そう。

今俺たちが持てる戦法において、純粋にパラメーターを上昇させるスキル――――



「あたしの『付与魔法(エンチャント)』をあてにしてるってわけね」


「朱音。聞かせてくれないか?自身に付与したそれと、俺に付与したもので上昇率が変動するわけ」



世界改変後に俺たち人間に起きた際たる変化。

それは『職業(ジョブ)』がもたらす『スキル』と呼ばれる異能。

善人悪人問わず全人類に発現した、ゆえに所有する能力の開示にはリスクが伴うのは自明の理。



「あんた、【鑑定士】なんでしょ?お見通しなんじゃないの?」



例え数日背中を預けあった仲でも、今の朱音のように警戒の色を濃くしてしまうのは仕方のない事。

だが、現状彼女の操る付与魔法を使うのが、戦力の底上げをするにあたって一番手っ取り早い。


俺ができるのは真実を言葉にしていくことだけだ。



「確かにスキルの効果は見えたんだ。ただ、その情報だけじゃ分からなかった・・・・『ユニークスキル』」


「「!」」



僅かな驚きを見せる唯火。

そして、敵意に近い気配をたぎらせる朱音。



「朱音のステータスにはユニークスキルの項目が存在していた。けど『目利き』のスキルはユニークスキルだけは、効果どころかスキル名も見ることができない」



所有しているという事実だけが俺の目に映った。

その能力が彼女が使う『付与魔法(エンチャント)』の極端な効果差に起因しているのでは、と。



「・・・・はぁ。ま、別にことさら隠す事でもないしね。それに四の五の言ってられる状況でもないし」



諦めたように、というかどこか気が抜けたような様子でため息をつく朱音。

軟化したその態度にホッと一息つくと。



「けど!こっちも、聞かせてもらうわよ。いい加減」



俺の鼻先に人差し指を突きつけ有無を言わさぬ様相で宣言する。

そして軽く唯火を一瞥すると。



「もうわかってるんだから。ワルイガ。あんた、所有しているスキルの系統が滅茶苦茶よ」


「そう、なのか?」



いや、俺自身もスキルを所有する同じ人間相手とそれなりに戦闘経験を積んできた。

薄々その差異に気付いている。



「ほんとは人間じゃなくて唯火みたいに、『ハーフエルフ』なの?唯火はそのことを知ってるの?」



俺を視線で真正面から射貫きながら、ハーフエルフの少女にも質問を飛ばす。



「ナナシさんは・・・・人間です。以前にステータスを見せてもらいました。間違いありません」



出会ったばかり、廃棄区画の公園で彼女が襲い掛かってきた時のことを思い出しているのだろう。

その襲撃を止めるために俺はステータス画面を開示した。


唯火は何かを確認するような視線をこちらに送る。

同時にどこか恐れのような感情を所作の端々から感じた。



(唯火・・・?)



そんな彼女の様子に、真意を測りかねていると、決意したように朱音へ目を向け。



「ステータス画面には、職業欄に多数の・・・三つ以上の『職業(ジョブ)』がありました」


「『職業(ジョブ)』が、三つ・・・以上?」



どういう事?

口にせずとも、彼女の見開かれた瞳が如実にそれを語っていた。



「私も、わかりません。ずっと、聞きそびれていたというか・・・・けど、多数の『職業』から連なる数多くのスキル。今までその異常な力で遥か格上の『王』を倒し、私を助けてくれました」


「あんたの強さはそこからきてるってことか・・・・」



しばらく、額に手を当て考え込む朱音。

そしてその状態のまま。



「ワルイガ。あんたにはその力の自覚、あるの?」


「・・・・いや、どこか周りと違うのは感じていたが」



何分、この世界で目覚めてひと月も経っていない。

その大半の時間、閉ざされた廃棄区画で、悪意ある人間や狭いコミュニティ、モンスターとしか接してこなかったから朱音たちとの温度差が正直伝わってこない。

その旨を話す。



「はぁ・・・巡り合わせが悪かったってことかしらね。唯火も今まで一緒に居てよく突っ込まなかったわね」


「私も、施設内に軟禁状態だった期間が長かったから、違和感は感じてたんだけど自分の認識に少し自信が持てなかったというか・・・・ううん、少し怖かったのかも」


「なるほど、ね」



もう何度目かのため息をつくと、額に当てていた手を下げ力の抜けた風になる。



「あたしのステータス、二人に見せるわ。ワルイガ、あんたのも見せて」


「いいのか?」



自身のステータスの開示のリスクは先述の通り。

それがユニークスキルともなれば尚の事。



「いいわよ。あんたの秘密に比べればあたしのなんて大したもんじゃないもの」


「別に秘密にしているわけじゃないが・・・・」


「その認識が危ないの。大方、竜種の魔石ドロップ率にも関係してんでしょ?」


「む・・・・」



ステータス画面を見せればバレることだったが、もうすでに感づいている様だ。



「唯火。あなたもよ。もっと早く言うべきだったけど、その魔石を使う『職業(ジョブ)』。魔石を狙うやつに見られるのは危険すぎる。2人とも、この世界を舐めすぎ。強いだけで生き残れるわけじゃないのよ?」


「「す、すみません」」



危険に巻き込まないようにとスキルの事を伏せておいたが、その彼女は俺たちよりも先を見据えた考えを持っているようだった。

年下の少女が放つド正論に俺は、そして唯火も謝るしかなく。



「ステータス」


「「ステータス」」



ステータス画面を開く彼女に倣うしかなかった。


こうして、伏せておいたスキルはあっけなく白日の下にさらされることになったのだった。


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