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プロテインの聖女 異世界にてやりたい放題する

作者: アマラ

 目を覚ますと、モモコ(仮)は真っ白な空間にいました。

 一体ここは?

 そう思ったとき、モモコ(仮)の頭に声が響いてきます。


「モモコ(仮)。モモコ(仮)、聞こえますか? 今、貴女の脳に直接話しかけています」


「妙に生々しい! せめて心って言って!?」


「聞こえているようですね。周りが真っ白で困惑していることでしょう。私もちょっと、流石に白く作りすぎたかな? と困惑しているところです」


「よくわかりませんが、では、もっと色のある造りにすればよかったのでは?」


「今推しのイメージカラーが白なのです」


「ああ。じゃぁ」


 仕方ありませんでした。

 推しのイメージカラーは、とても大事なものなのです。


「それはともかく。貴女は今、なんやかんやあって死んだあと魂が来るところにいます」


「ええっ!? 私、死んだんですか? なぜ?!」


「貴女はダイエットに成功し、ご褒美ランチとしてピザの食べ放題のお店に直行。お腹いっぱいになるまで食べた後、動けなくなっているところに、突然飛んできたヘリコプターが墜落したのです」


「劇的すぎません!?」


「事実は小説より奇なり、ですね」


「私はこのまま、天国に行ってマッスルイケおじな天使様たちに囲まれて暮らすことになるのでしょうか」


「突然のポジティブ。いいえ、貴女はOLでありながらライトノベルを出版、沢山の若い女子に新たな性癖を植え付けた功績を称え、異世界転生をさせることとなりました」


 それは称えられる類の功績なの?

 というツッコミは、ありませんでした。


「異世界に転生!?」


「新たなモモコ(仮)ボディを構築し、二十歳の成人の姿で異世界に送り出します。そういう意味では転移に近いかもしれませんが、死んでいるところを体を再構築しているので、定義的には異世界転生と言えるでしょう」


 昨今のジャンル分けは大変に難しいのです。

 気を付けないとすぐに怒られるので、細心の注意が必要でした。


「そんな、そんなこと、突然言われても。せめてダイエットが必要なく、基礎代謝がいい感じの、健康で歯の治療とかも必要ないバディにしてください!」


「冷静な要求。安心しなさい。貴女はとっても健康優良児なバディを手に入れて転生することになります。昔、爆風スラン〇が健康優良児というタイトルの歌を歌っていましたね。私、あれ結構好きでした」


「ちょっとよく分かんないですけど」


「貴女は転生した先の異世界で、聖女としての役割を果たすのです」


「突然聖女になれって言われても。私にできるかどうかわかりませんけどとりあえずチート能力下さい」


「話がマッハで卍。よいでしょう。貴女にぴったりの能力を与えます。貴女に与えるのは、手から無限にプロテインが出る能力です」


「なんて? え? なん、なんて?」


 思わず二度聞きしてしまいました。

 無理もありません。

 手から無限にプロテインが出るチートで、何ができるというのでしょう。

 マッチョを育てるぐらいしかできません。


「貴女が転生するのは、貴女が住むのとは別の次元に存在する、今私が沼っているソシャゲの世界です。そこのイケメン達の世話をし、マッチョにするのです」


 マッチョを育てることが目的のようでした。


「私は、不運と幸福を見守る女神。貴女は私の加護を受けた聖女として、異世界でイケメンたちの世話をするのです」


「ペロペロは!? ペロペロはしてもいいんですか!?」


「さあ、これが貴女の新たな力です。お受け取りなさい」


「うわぁあああああああああああ!!!」


「行くのです、モモコ(仮)よ。貴女の新たな旅路に、幸多からんことを」




 気が付くとそこは、見たことのない場所でした。

 周りは林の中で、見渡す限り自然しかありません。


「まさか、埼玉? 埼玉なの? いやっ! せめて千葉がよかったのにっ!!」


 木とかがめっちゃ生えていますが、密林というほどではありません。

 普通の感じな林、という感じだったので、モモコ(仮)は埼玉だと判断したのです。

 もっとジャングルな感じだったら群馬、民家とか人工物があれば千葉、という感じでしょうか。

 ものすごい怒られそうな判断基準です。

 どうしたものか、と困惑していたモモコ(仮)でしたが、助けは比較的早くやってきました。


「見つけた! ここにいたぞ!」


 大きな声に、モモコ(仮)は振り返りました。

 そこに居たのは、胸当てやマントなどを装備した、いかにもファンタジー騎士な感じの男性です。

 年のころは、四十代前半といった感じでしょうか。

 ちょっとごっつい感じで、恐らくはマッチョです。

 モモコ(仮)の脳内は、一瞬でフェスティバル状態に突入します。

 昨今、細マッチョなどといってただのガリガリボーイが持て囃されたりしていますが、モモコはそういった風潮に待ったを投げつける民でした。

 半端なアイドルの不健康そうなガリボソ肉体を見てキャーキャー言っている大人の、なんと多いことでしょう。

 本当のマッチョとはそういうものではないのです。

 せめて、ジェイソ〇・ステイサ〇。

 あるいはロッ〇ーの頃のシル〇スタ・スタ〇ーンぐらいになってから出直してこいというしかありません。

 そんな主義主張を持つモモコ(仮)から見ても、「ザ・マッチョ」といった肉体です。

 ちなみに、モモコ(仮)は服の上から筋肉を透視する能力を有していました。

 特異な異能のように思うかもしれませんが、界隈では割と必須スキルであり、特に珍しいものではありません。

 そんなことより問題は、目の前の四十代マッチョ騎士です。

 なんとこの騎士、顔もよかったのです。


「イケおじ! イケおじ! まさか生イケおじ騎士が目の前に現れるなんて! こりゃ鎧脱がせてペロペロするしかないで!」


 モモコ(仮)は心の中で叫びました。

 顔や態度には一切出していません。

 むしろ「スン・・・」って感じで、見た目だけなら凪のように穏やかです。

 これは、モモコ(仮)が通勤電車でエモい小説を読むために身に着けたスキルでした。

 心がどんなに荒くれ、祭状態だったとしても。

 外に魅せるのは鏡に似た湖面の如く静かな仮面のみ。

 これぞ明鏡止水。

 今ならどんな武術でも体得できそうな気がしました。

 モモコ(仮)が精神世界で大暴れしている間に、多くの人が集まってきます。

 その誰もが、マッチョでした。

 しかも、イケメンだったのです?


「ここは天国ですか?」


「大丈夫、心配いりません。貴女は生きておられますよ」


 思わず漏れた言葉でしたが、どうやら勘違いをされたようです。

 それにしても、いったいどうなっているのでしょう。

 このままでは、モモコ(仮)にはここがマッスルミュージアムであることしかわかりません。

 混乱しているモモコ(仮)を察してか、先ほどのマッチョイケおじが説明をしてくれます。

 ちなみに、皆さんお判りのことと思われますが、イケおじというのは「イケてるおじさま」の略です。


 彼らは王国に所属する騎士団なのだそうです。

 マッチョイケおじは、そこの騎士団長だといいます。

 イケおじで騎士団長とか設定盛りすぎだろ、いい加減にしろ!

 そんな怒りと喜びの波動がモモコ(仮)の中で暴走仕掛けますが、何とか抑え込むことに成功しました。

 見た目からは想像もできませんが、映画一本分にはなるであろう精神的葛藤でした。

 マッチョイケおじ、改め、騎士団長が儀礼式典の護衛のため、教会に行ったときのこと。

 突然礼拝堂が光に包まれ、「不運と幸福を見守る女神」が現れたのだといいます。

 その場にいる全員がひれ伏す中、女神は厳かにこういったそうです。


「マッスルミュージアム・・・んんっ!! んっ! すみません、ちょっとのどの調子が。なんでもありません、今の言葉は忘れてください。さて、今日は皆さんに神託を授けるべく、やってまいりました」


 マッスルミュージアムってなんぞ?

 と、その場にいた全員が疑問に思いましたが、忘れろと言われたので忘れることにしました。

 女神の言葉は絶対なのです。


「昨今、人間の領域を犯す魔物達の侵攻が激しさを増していますね。私も立て続くイベントで資材をたくさん溶かしてしまいました。このままでは、あなた方は防戦一方。希望のない戦いへと進んでいくこととなります」


 魔物の王国領域への侵攻は、現在こそ王国側優位で進んでいました。

 それ以前からも、魔物との戦いはありましたので、王国側もしっかりと準備をしてきていたからです。

 ですが、数年前から、徐々に侵攻が激しくなってきていました。

 このままでは遠からぬうちに、大きな侵入を許してしまうかもしれません。

 その戦いの最前線にいるのが、多くの騎士団でした。

 今回の儀礼式典も、そんな戦いの戦勝を祈るためのものだったのです。


「そこで、皆さんの元へ、私の加護を授けた聖女を送ることにしました。私が彼女に与えた力は、きっと貴方方の力となることでしょう。これで周回が楽になり、素材回収がはかどります」


 魔物の素材は、武器などの材料となるほか、日用品の素材になったりもします。

 流石女神様、下々のことにまで気を砕いてくださっている。

 聖職者達は、感動で涙を流しました。

 言葉の真意はともかく、女神によれば聖女はもうすぐこの世界に現れるといいます。

 指示された場所に騎士団達が向かうと、近くの林が光り輝いているではありませんか。

 ちなみに、光の色はショッキングピンクだったといいます。

 騎士団は慌てて捜索を始め、モモコ(仮)を見つけたのだそうです。


「私の力が・・・? ですが、私は手からプロテインが出る力しか・・・」


「女神様は、聖女様には騎士団で働いてもらえというのですが」


「任せてください、バリバリやってやりますよ。ええ。どんな仕事だって私にかかればちょちょいのちょいです」


 この時のモモコ(仮)は、まれにみる速度で脳が回転していました。

 最初は、自分が騎士団の役に立てるなどとは思えず、困惑していました。

 どうしたものかと躊躇していたのですが、目の前に筋肉塗れになれるチャンスが転がっているとみるや、素早くそれに飛びついたのです。

 そのどう猛さたるや、猫科の狩猟動物の如く。

 こうなった時のモモコ(仮)の狩りの成功率は、クロアシネコレベルでしょう。


「頼もしいお言葉です。しかし、女神様はあなたに雑務や経理などを任せろと……聖女様にそんなことをさせるのは……」


「ご褒美かな?」


 どれもこれも、割と自由に動き回れる仕事です。

 もし騎士団の仕事場を歩き回り、様々なお宝シーンをゲットすることが可能でしょう。

 あるいは、経理の書類に使うから、しょうがなく独身寮などに侵入することだってできるかもしれません。

 外では見れない無防備なスチルも集め放題。

 約束された勝利の職場環境です。

 流石は女神、モモコ(仮)のツボを押さえまくりです。

 北斗神〇の正当伝承者なのかもしれません。

 こうして、モモコ(仮)は騎士団で働き始めることとなったのです。




 モモコ(仮)が務めることになったのは、第三騎士団の兵站部門でした。

 騎士団の駐屯場にある建物で、ほかにもいくつかの騎士団が詰めている場所です。

 第三騎士団は魔物対策の専門で、あちこちに出向いて戦うのが仕事でした。

 このころになってモモコ(仮)は気が付いたのですが、おそらくここはゲームの世界。

 あるいはそれに類似した世界なのでしょう。

 騎士団という割に業務が特殊なのは、おそらくその辺の影響だと思われました。

 うかつにリアルな世界観を持ってきて騎士団とか言うと、騎士団警察の人が突っ込んできて「そもそもきしだんというのわですねぇー」とか言い出すので、気を付けなければなりません。

 ついでに。

 兵站というのは、いろいろと国などによって定義が違ったりするのですが、おおよそのところで言えば「戦うこと以外全部」といった感じの仕事のことを言います。

 物資の購入、管理から、連絡線の確保など、ありとあらゆる「戦うこと以外全部」のことが、兵站部門の仕事になるのです。

 そんな部門に配属されたモモコ(仮)は、様々な仕事を任されました。

 慣れない仕事で大変かと思いきや、意外や意外。

 モモコ(仮)は大活躍することとなったのです。


「すごい! 経理の書類が溶けるようになくなっていく!」


「書類も正確だし、周りへの仕事振りも完璧だ!」


 剣と魔法の世界でありがちなことに、この世界は割と識字率が低く、教育水準もそこまで高くありませんでした。

 高等教育を受けられるような名家の出の人は、大抵が騎士になっており、兵站部門には割り振られません。

 対して、モモコ(仮)は大卒であり、OLとしてバリバリ働いていた経験があります。

 ライトノベル作家として印税とかももらっていたので、青色申告とかもしていました。

 ゆえに、お金の出入金やら書類づくりなどは、お茶の子さいさいだったのです。


「ふ。エクセル、いえ、せめて電卓があれば、この五倍の速度はでますね」


 あまりのたくましさに、モモコ(仮)の評判はうなぎのぼりです。

 モモコ(仮)の活躍は、これだけにとどまりません。


「筋肉体操! 筋肉体操を取り入れるべきです!!」


 モモコ(仮)のごり押しで、騎士団は筋肉体操を取り入れることになりました。

 筋肉体操とは、効率よく筋肉を鍛えるために考え出された、エリートマッチョ育成体操のことです。

 短時間で効率よく筋肉を苛め抜くよう、計算されつくした理想的な筋肉育成術といえました。

 モモコ(仮)はこの運動をして苦しそうにしているマッチョが大好きで、自分では一切やりもしないくせにDVDボックスを購入していました。

 一日の終わりにマッチョ達が筋肉に悲鳴を上げさせているのを見ながら小説を書くのが、モモコ(仮)の最高の癒しだったのです。

 今となっては手の届かないところに行ってしまった筋肉体操DVDですが、モモコ(仮)は寂しくありません。

 だって、目の前は筋肉を追い込んでいる、マッチョたちがいるのですから。


「眼福じゃぁ、眼福やでぇ。えへ、えへへっ!」


 心の中は大荒れですが、ビジュアルは凪です。

 筋肉体操は、効率的に体を鍛えられるということで、騎士団のメンツには好評でした。

 ここで、モモコ(仮)はさらなる手を打つことにします。

 そう、プロテインです。

 よく勘違いしている人がいますが、プロテインというのは筋肉増強のための化学合成薬品などでは断じてありません。

 そもそもプロテインというのは「たんぱく質」を英訳したものです。

 日本で言ういわゆる「プロテイン」というのは、「プロテインサプリメント」。

 つまり、たんぱく質に様々な栄養素を配合した、栄養補助食品のことを指すことが多くあります。

 これらは体に必要な栄養素の吸収を補助する効果があり、筋肉の形成を助けるわけです。

 トレーニング後など、筋肉が破損しているときこういった「プロテイン」を摂取すると、筋肉の補修に使う材料となります。

 その影響で、通常の栄養摂取より効率よく筋肉の補修が行われ、筋力の向上を望むことができるわけです。

 プロテインを飲んだからといって、運動をしていなければ「筋肉の補修」には使われるわけもなく、筋力の増強効果は望むことができません。

 この辺りを勘違いして、「プロテイン飲むとむきむきになっちゃうぅー!」などとのたまうものがいたりしますが、モモコ(仮)はそういった偏見を絶対に許さない民でした。

 また、「プロテイン」、つまりたんぱく質は、体を作る必須栄養素であり、配合されたほかの栄養素にもよりますが、子どもが飲んでも問題ありません。

 むしろ、たんぱく質は体の成長に必要な栄養素ですから、適切に摂取することはよいことでもあるのです。

 もちろんむやみやたらと飲めばいいというものではありませんので、用法容量などは調べ、医師、薬剤師などと相談の上、正しく摂取してください。

 話が脱線しましたが、とにかくモモコ(仮)は女神から与えられた力。

「手からプロテインを無限に出す力」を活用することにしたのです。

 筋肉体操とプロテイン。

 この二つの相性は無敵といってよく、始めてから一週間で騎士団の筋肉の質が劇的に向上したのです。


「いや、流石に早すぎません!?」


 いくら筋肉体操を信奉しているモモコ(仮)でも、流石に異変に気が付きました。

 ですが、モモコ(仮)はラノベ書きです。

 そのぐらいの考察はお手の物でした。


「多分、異世界だからでしょうね。後ソシャゲの世界だから」


 秒殺の考察でした。

 インも踏んでいるし、中々のリリックだと思われます。

 実際、当たらずも遠からずといった感じです。

 この世界の人々は魔力を持っており、その力でなんやかんやあって条件さえ整えば地球の人間とは比べ物にならないほどの力を、比べ物にならないほどの速さで身に着けることができるのです。

 事務処理能力と筋肉体操、さらにはプロテインによって結果を出して見せたモモコ(仮)は、この世の春を謳歌していました。

 体操している筋肉に接近しては、指導と称してお触りし放題。

 プロテインを飲ませては、喜んでいるマッチョを凪の表情で愛でまくったのです。


 全くの無表情、あるいは慈悲の微笑みで筋肉を見つめるモモコ(仮)を、騎士や事務員達は大いに信頼しました。

 どれだけ働いても不平不満を言わず、地味な仕事をこつこつと行う。

 これといった楽しみがなさそうなのにも関わらず、ただ黙々と神に与えられた使命を全うする姿勢は、まさに聖女のそれというのが、周りからの評価です。

 実際のところとは、まったく違いました。

 モモコ(仮)は元々ブラックな企業で働いていたので、心を殺して仕事をするのに慣れていました。

 地味な作業をしているところは心を殺し、無の境地に入り込みます。

 これを手早く終わらせれば、後は筋肉を愛で放題。

 体操指導や書類の書き方の確認、様々な理由をつけて、筋肉フィスティバルの開幕です。

 対外的にはこれも仕事ということになっていますが、モモコ(仮)にとって筋肉は娯楽であり癒しであり生きる糧であり、神が与えたもうたアガペーでした。

 仕事をしているカウントには入らないので、心行くまで存分に楽しみまくりです。

 モモコ(仮)がフィーバーすればするほど、評価が上がるという図式が、完成していました。

 まさにこの世の春。

 望月の欠けたることもなしと思えば状態のモモコ(仮)でした、が。

 実は、不満もあったのです。




 モモコ(仮)は、騎士の独身寮前に居ました。

 書類の確認をするという名目で、休日の筋肉を愛でるためです。

 無防備なマッチョ達が、あられもない格好で過ごす巣窟。

 モモコ(仮)はそこに解き放たれた一匹の獣と化し、表には一切出さないまま、マッスルナイト達を心のうちでペロペロするのです。


「ああ、ダメ。めまいが」


 モモコ(仮)は額を抑え、うずくまってしまいました。

 別に具合が悪いわけではありません。

 しいていうなら頭が悪かったのですが、その辺はまぁ、趣味趣向は個人の自由なので、見逃してあげるべきです。

 めまいの理由は、極度の妄想状態からくる、心拍数の増加でした。

 味気ない外見の建物でしかない寮ですが、そこに未婚筋肉が詰め込まれているのだという事実だけで、モモコ(仮)には光輝いて見えました。

 黄金、あるいはショッキングピンクの輝きは、モモコ(仮)には眩しすぎたのです。


「大丈夫ですか!?」


「大丈夫、具合は大丈夫です、ええ」


 心根の方はあまり大丈夫でもありませんでしたが、体の方は心配するほどでもありません。

 声をかけてきたのは、若い洗濯婦でした。

 洗濯婦というのは、洗濯などを担当する雑務家政婦さんのようなモノで、実際は洗濯以外にも様々な仕事をしています。

 同性が相手だということもあったのでしょうか。

 モモコ(仮)は、ポロリとこんなことを呟いてしまったのです。


「ただちょっと、壁か観葉植物になりたいと思っていただけですから」


 そうすれば、きっと穏やかな気持ちで、ただひたすらに筋肉を眺めていられることでしょう。

 ですがそれは叶わぬ夢。

 あまりにも贅沢な願いです。

 もっとも、これはある界隈でしか通じないもの。

 きっと洗濯婦の人にも、分からないことでしょう。

 そう思っていたモモコ(仮)でしたが、返ってきたのは予想外の言葉でした。


「もしかして・・・モモコ(仮)様も、戯れ合う筋肉をそっと見守りたい勢なのですか・・・?」


「えっ・・・!?」


 これが、モモコ(仮)とエっさんとの出会いでした。


 モモコ(仮)が唯一持っていた不満。

 それは、仲間がいないことでした。

 同じ趣味趣向を持ち、楽しみを分かち合える仲間。

 流石にこの世界には居なかろうと、諦めていました。

 職場の環境も、それに追い打ちをかけます。

 何しろ、どっちを向いても美男美女ばかり。

 特に騎士の顔面偏差値は異常で、「え? 騎士? アイドルとかでなく?」と声に出していってしまいそうになるほどです。

 そんな空間の住民はその大半が「あちら側」の住民でした。

 当然といえば当然です。

 顔面偏差値が高いのですから、わざわざ「こちら側」に来る必要はありません。

 そういう連中は陽キャでパリピになればよいのです(偏見)。

 ゆえに、モモコ(仮)は己の趣味趣向に関する話ができる相手に、飢えていました。

 推しについて人と話すことは、悦楽であるといっても過言ではありません。

 そもそもモモコ(仮)はライトノベル作家でもあり、表現するタイプの「こちら側」の住人でした。

 なので、誰かに話が聞いてもらいたいし、誰かの話を聞きたかったのです。

 そこに現れたのが、この若い洗濯婦。

 通称エっさんだったのです。

 モモコ(仮)とエっさんは、語り明かしました。

 新入団員が副団長に楯突いているけど全然敵わなくって、最近尊敬し始めてきてるのエモい。

 幼馴染騎士同士が二人だけだと普段と違う言葉遣いになってるのが最の高。

 団長の雄っ乳がエロい。

 語っても語っても、語り足りませんでした。

 二人の間に、詳しいお互いの説明など不要でした。

 何がどんな風に好きなのか。

 それを語り合うことだけが必要なことであり、他のことは雑事のように思えたのです。

 二人はお互いの趣味趣向について語っただけではありませんでした。


「じゃあ、エっさんは文字が書けないから、文章は書けないのね」


「はい。残念ながら。ですので、男性同士の道ならぬ恋を表現することができないのです。ああっ! せめて読み書きができれば、私の内なる世界を表現できるのにっ!!」


「なら、漫画なんてどうでしょう?」


「まんが・・・?」


 モモコ(仮)はこの世代のオタクにありがちな感じで、イラストも嗜んでいました。

 なので、文字が書けないなら絵を描けばいいじゃないという、エリザベス的発想に至ったわけです。

 エっさんはモモコ(仮)の絵を見て、雷に打たれたような衝撃をうけたようでした。


「そんな、こんな風に人をデフォルメして描くなんて!」


「絵で物語を見せるわけですね。ほら、教会とかにある宗教画のように」


 絵で物語を見せるという手法は、割とよくあるものでした。

 それだけに、おおよその概念さえ知ってしまえば、まねることができたのです。


「モモコ(仮)様。私、私やります! 必ずこの素晴らしい文化を、技術を、体得して見せます!」


 その宣言に、嘘偽りはありませんでした。

 有り余る情熱がそうさせたのでしょう。

 エっさんは有り余る情熱を全て燃やすように、めきめきと絵の技術を上げていきました。

 師匠であるモモコ(仮)を軽く飛び越え、一気に神絵師へと成長したのです。

 そこから生まれ出る世界は、まさに筋肉の祭典。

 イケおじ筋肉とまだ線が細く細マッチョな感じの新人のイケナイ関係。

 モモコ(仮)も思わず、


「えちえちやないかっ! どぎゃんしてこげにドスケベエッチばい!? これはもう見る化粧品よっ! 女性ホルモンが分泌されて私まで美しくなっちゃう!!」


 と叫んだほどです。

 ちょっと何言ってるかよくわかりませんでしたが、言ってる本人も興奮しすぎてよくわからなくなっていました。


「でも、驚いた。まさかこんな才能が埋もれてるなんて。ストーリーが秀逸すぎる」


「私なんて、大したことありません。この間聞かせて頂いたモモコ(仮)様のお話、大変素敵でした。あのぐらい素晴らしい物語を作れるようになりたいです」


 モモコ(仮)とエっさんは、創作物を互いに見せ合うようになっていました。

 エっさんは文字が読めないので、モモコ(仮)の小説は、モモコ(仮)自身が読み聞かせる形になっています。

 恥ずかしいのでは?

 と思われる方もいるかもしれませんが、モモコ(仮)は割とそういうの平気だったので、全く気にせず読み聞かせしています。


「エっさんの作るお話はすごいですよ! この、若い細マッチョが負けて悔しそうにしてる表情なんてもう凄くて、ホントやばみを感じるっていうか」


 モモコ(仮)は作家でしたが、萌え語りをするときは語彙が喪失するタイプでした。


「でも、他の仕事仲間の中には、もっとすごいお話を作る人もいるんです。絵を描くのは苦手だけど、お話は作れるみたいで。もっとも、字の読み書きはできないんですけど」


「その話詳しく」


 エっさんの話によると、裏方仕事をしている女性の中には、いい感じに醗酵している方が何人かいるということでした。

 醗酵しているというのは、いわゆる「腐女子」化しているという意味です。

 もちろん異性同士のカップリングが好きな方もいらっしゃるそうで、そっちもなかなか破壊力がある妄想をしているのだといいます。

 ただ、残念ながら世の中の人間すべてがエっさんのように絵の才能があるわけではありません。

 絵は苦手だけど、表現はしたい。

 そんな人も、少なからずいるというのです。

 ちなみにモモコ(仮)は腐っていますが、異性同士のカップリングも美味しく頂けるタイプでした。

 ラブラブならOKです!

 を地で行くモモコ(仮)は、行ってみればカプ厨でした。

 それだけに、目の前にあるのに、文字が描けないために見ることができないカプがあるということが、我慢できませんでした。

 ですが、モモコ(仮)の中に解決策はあったのです。


「私塾を作りましょう」


 これは、モモコ(仮)のアイディアではありません。

 ほかのライトノベル作家が言っていたことを、まるパクりしたものでした。

 ご存知の通り、ライトノベル書きというのは常に「あー、いせかいにてんせいしたらどーすっかなぁー」というような、授業に飽きた中学生のようなことを考えている人種です。

 今モモコ(仮)が追い込まれているような状況を想定しているものも、いたのです。

 その作家がスカイプを使ってのさぎょいぷの最中、こんなことを言っていました。


「学校を作るってハードル高いんですよ。教えられる範囲とか教えなくちゃいけない範囲とか、いろいろ考えなくちゃいけないから。ですが、塾。自分が必要だと思う知識だけを、必要な分だけお金を払って習う形にする方が、いい場合もあるんです」


 それだと知識を広めるという意味では、効果が限定的なのでは?

 モモコ(仮)はそう思って聞きましたが、そうではないという答えが返ってきました。


「限定的でいいんです。全体に広めるためならもちろん義務教育の学校を作る方がいいでしょうが、今すぐに必要な知識を、お金を出して習得する場を得られるっていうのも大事なんですよ」


 その時は、そんなもんか、と思っていたモモコ(仮)でしたが、まさに、今その時でした。

 小説を書くだけなら、文字を覚えていれば問題ありません。

 口語だろうと書き言葉だろうと関係なくパワーファイトで出力してしまえば、最悪、あとはモモコ(仮)が補ったっていいのです。


「でも、みんなそんなお金あるでしょうか?」


 心配そうなエっさんに、モモコ(仮)は首を横に振って見せました。


「考えてみて、エっさん。自分が絵が描けなくって、文章なら思い浮かべることができるとして。でも、読み書きができない。そこに、自分でも払えそうな金額で読み書きを教えてくれるところがあったら」


「課金します!!!」


 即答でした。

 エっさん達のような仕事の人達は、実はある程度自由になるお金は持っていたのです。

 騎士団の仕事というのは、意外とお給金がよいのでした。

 多くの場合、家族を養うためにその御金は使われるのですが、ちょっとした遊びやおしゃれのためにお小遣いを使う程度の余裕はあったのです。

 そのお小遣いで文字が学べるとなれば、みんな飛びつくと思われました。

 残念なことに、この世界で文字の読み書きを習おうとした場合、かなりお高くなってしまう場合がほとんどでした。

 それに、ピンポイントに学びたいことだけを教えてくれる場というのも、なかったのです。

 モモコ(仮)はそこに、目を付けたのです。


「ですが、教材などはどうするのですか?」


 それも問題でした。

 勉強に使う本や、ものを書くための道具というのは、それなりに高価な品です。

 それらをそろえるだけでも、かなりの金額が必要なはずでした。


「まかせてっ! 私に、いい考えがあります!」


 モモコ(仮)は自信満々でした。

 既にそれらの解決策も、考えていたのです。


 騎士団庁舎で働く下級使用人向けに開かれた私塾は、大成功しました。

 すべてはモモコ(仮)の計画通りです。

 生徒たちが望むは、やはり文字の習得でした。

 それにはまず、読む練習をするための、文章が必要です。

 モモコ(仮)はこれを、自力で作り出しました。

 文章は、ライトノベル作家でもあるモモコ(仮)が考えました。

 悪いドラゴンを退治するため、先輩と後輩二人の騎士がともに努力していくという物語です。

 アクションシーンもあり、男性にも好評。

 一部の女性陣は、どっちが右か左かで血で血を洗う抗争を繰り広げています。

 その文章を写す紙には、騎士団で廃棄予定の書類の裏側を使うことにしました。

 騎士団で事務をやっているモモコ(仮)だからこそ可能な、力技です。

 筆記用具には、プロテインを使いました。

 お盆のようなお皿の上にモモコ(仮)がプロテインを敷き詰めて、その上に棒で文字を書くのです。

 勉強が終わればおいしく飲むこともできるので、まさに一石二鳥。

 文武両道の極みといえるでしょう。


 こうしてできた塾の生徒は、騎士団でも大変に重宝しました。

 モモコ(仮)の評判はさらに上がっていきます。

 ちなみに、読み書きを覚えたことによって生徒達が作り上げたブツは、当然、モモコ(仮)が片っ端から吸い上げました。

 小説を書く技法なども教えたので、出来上がってくるブツの質は上々。

 モモコ(仮)はそれを編集、編纂しました。

 自ら教育を施したものたちが、モモコ(仮)の生きる糧を作り出していくのです。

 騎士団で働く下級使用人達の数は、百は下りません。

 頂点に君臨し、成果物を吸い上げるその様は、まさに王。


「ふっふっふ。このままいけば、異世界同人界の王になることも夢ではない!!!」


 異世界中の創作物を吸い上げ、片っ端から楽しむ。

 モモコ(仮)の野望は果てしなく広がっていきます。

 ですが、この野望をかなえるためには、どうしても足りないものがありました。

 そう、銭です。

 今よりも大きな塾を作ろうとすれば、初期費用が掛かるのです。

 先立つものがなければ夢を見ることすらできない。

 あまりの浮世の世知辛さに、モモコ(仮)は制作の世界に逃げ込みそうになりました。

 そんなモモコ(仮)の心を癒してくれたのは。

 そう、筋肉でした。

 落ち込みながらも仕事に打ち込んでいたモモコ(仮)が、外を歩いているときです。

 上半身裸で水浴びをしている、イケメン筋肉を見かけてしまったのです。


「そうだ。こんなことで落ち込んでいる場合じゃない・・・! どんなことをしても、筋肉をペロペロする。それが貴女じゃなかったの、モモコ(仮)!!」


 エンジンに火が付いたモモコ(仮)は、早速行動に移りました。

 とりかかったのは、本の出版です。

 原稿は、教え子たちが書いたものがたっぷりありました。

 乙女達のどろどろとした欲望を煮詰め、さらに三年ほど熟成したのち、天日で干したような塊の文章です。

 これらを世に解き放てば、きっとあらゆる意味でえらいことになるでしょう。

 金を持ってるやんごとなき方々は、きっといくらでも金を払うはずです。

 人は、推しのため金を払いたいもの。

 いわんや、ヒマと金を持て余している、やんごとなき人々をや。

 内容を書いた人達の立場も売りになると、モモコ(仮)は睨んでいました。

 国の中でもイケメンぞろいとして人気がある騎士団の、使用人達が書いたものです。

 ワンちゃんノンフィクション混じってんじゃね!?

 そんな淡い期待に、やんごとなき人達の課金が止まらなくなるのは必定。

 今や神絵師と化したエっちゃんの表紙を付ければ、これはもう売れまくり確定です。


「ふははは! そう! すべての乙女たちのマグマのごときあれやこれやを糧に、私は新世界の王となります!!! そして、遍くすべての創作物を手中に!!!」


 モモコ(仮)の欲望は、とどまるところを知りませんでした。




 調子に乗っていたがために、油断したのでしょう。

 モモコ(仮)は、割と普通に捕縛されました。


「なんでこんなことに」


 本を作り、その売り上げで私塾、あるいは学校を作ろうと目論んだモモコ(仮)は、早速行動に移りました。

 まずはこの世界の本づくりについて調べようと、意気揚々と騎士団庁舎を飛び出しました。

 思いっきり騎士の方々に後ろ暗いものを作る用事だったので、騎士団の人には告げずにいたのです。

 それがいけなかったのでしょう。

 戦闘力皆無なモモコ(仮)は、普通に捕縛されてしまったのです。

 やっぱり、剣と魔法のファンタジー世界は危険です。

 なんだかんだ言って、一人で外を歩いても剣で切り殺される確率が限りなく0に近い日本で育ったモモコ(仮)です。

 その辺のところを甘く見ていたのかもしれません。

 もっとも、こんな状況になっても、モモコ(仮)は特に慌てていませんでした。

 なんだかんだイケメン騎士が助けに来てくれるか、じつは自分を浚った中にゲームの攻略対象がいて助けてくれるに違いない。

 そんな風に考えていたのです。

 ですが、現実は意外とヘヴィーでした。


 モモコ(仮)が連れてこられたのは、白い部屋。

 椅子に手錠で繋がれており、その周りにいるのは表情一つ変えないガチ装備の兵士の皆さんです。

 困惑するモモコ(仮)の前に座ったのは、なんだか几帳面そうな事務屋っぽいメガネでした。


「えー、依頼人からの要望でして。なるべく苦しめて殺せ。ふーん、貴女、随分恨まれておいでのようだ」


 こりゃ女性向け恋愛系異世界転生ものじゃなくて、ヤング系のミリタリー物のノリやで。

 事ここに至って、モモコ(仮)はこれはやばいんと違うかと気が付いたのです。

 考えてみれば、この世界は魔物に襲われ、騎士団がギリギリで国を守っているという、割とシリアス展開な世界でした。

 ずっと創作ばっかりしてたので忘れていたのですが、本来はガチめの生死のやり取りワールドだったのです。

 マンガだの小説だの作ってる場合じゃなかった。

 もっと騎士とかの人達を強くすることだけに集中すべきだったんや。

 誰だよ、そんなもん作ろうとしてたのは。

 そんな風に心の中で思うモモコ(仮)でしたが、それは自分でした。

 最悪の形で油断が自分の身に降りかかってきたのです。


「まあ、依頼人と殺される理由はお教えできません、が。おおよそお気づきでしょう。あれだけ目立っていたわけですから」


 全くお気づきではありませんでした。

 そりゃこんな世の中ですから、何かしら恨みを買っていることもあったでしょう。

 ですがモモコ(仮)は筋肉を愛でたり、創作をしているのに忙しく、そっち系のことにはまったくノータッチだったのです。

 記憶の片隅にも残っていませんでした。


「あかん! このままではマジでやられてしまう!!」


 モモコ(仮)は焦りました。

 何とか落ち着こうと素数を数えようとしますが、13ぐらいで詰まりました。

 というか、命の危険にさらされている状態だったので、頭がほとんど回っていなかったのです。

 洒落にならん。

 完全にテンパったモモコ(仮)は、非常手段に打って出ました。


「うぬぁあああああああああ!!! こうなったら全員道連れじゃぁああああい!!!」


 手から、膨大な量のプロテインを放出したのです。

 ただの放出ではありません。

 秒間トン単位の、超大放出です。

 瞬時に男達が対応しようとしますが、間に合いません。

 土砂崩れか雪崩かというプロテインに埋もれ、すべてが押し流されていきました。

 無論、モモコ(仮)自身もです。

 そんなものに巻き込まれて、ダメージがないわけがありません。

 モモコ(仮)はそのまま、気絶してしまったのでした。




 モモコ(仮)が目を覚ましたのは、医療室のベッドの上でした。

 なんとモモコ(仮)は、三日間も寝込んでいたようです。

 寝ていた間に起ったことを、説明されました。

 犯行グループは、プロの暗殺者集団だったそうです。

 モモコ(仮)の活躍を羨んだ貴族に雇われ、壮絶な苦しみを与えつつ殺す予定だったのだとか。

 流石のモモコ(仮)も、これを聞いて真顔になりました。


 あんまりハッスルしすぎると、マジでやばいな。

 これ、後ろから刺されるとかじゃなくて、普通に襲撃ウケて殺されちゃったりするかも。

 流石にもうちょっと真面目に生きよう。

 騎士団の仕事に集中して、しっかりと真面目に生きるんだ。


 モモコ(仮)はそんな風に、心に誓いました。

 人間、堅実に生きるのが一番です。

 そんなモモコ(仮)の耳が、こんな言葉を拾いました。


「独身寮の風呂、そろそろ修繕だなぁ」


 恐らく、相当離れた場所での会話だったのでしょう。

 にもかかわらず、モモコ(仮)の耳はその言葉を捉えたのです。


「はいっ!!! ガラス張り!!! ガラス張りにしましょう!!! あと家族風呂とかも必須ですよね!!!」


 モモコ(仮)はベッドを抜け出しました。

 大切な仕事があったからです。

 そう、これはお仕事。

 騎士の皆さんにリラックスしてもらうためにお風呂を改善するのに、なんの邪悪なことがあるでしょう。

 そりゃちょっと覗けるような造りにしたいとは思っていますが、それは騎士の皆さんの健康を守るためなのです。




 後の世に、「騎士愛でる聖女」として名を遺すモモコ(仮)の勘違いに彩られた日々は、まだ始まったばかりでした。

女神様絶対人選ミスしてますよね


某先生と話してて思いついて書きました

勢いオンリーでやってやったぜ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ちょいちょい書かれてるメタやdisやツッコミや解説がテンポ良く沢山書かれていたためじわじわきました。地の文が上記の通りだったからこそ、聖女のやることなす事物語が輝いてました。最初から最後ま…
[一言] 千葉県民だが、反応に困るw
[良い点] 投稿乙い [一言] 人選適切かもしれないよ!! 女神様的にはイベント周回が簡単になればいいのだから、ユニット強化とか資金調達とかをヨロコンデーハムスターできるモモコは正に適職かなって。
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