とあるヒロインの乙女ゲー転生ライフ
※思い立ったままに殴り書きした、テンプレ乙女ゲーヒロイン転生です。よろしくお願いします。
わたしはエリー。10歳、平民。
ママと2人で暮らしている。貧乏だけど、それなりに幸せだ。
幸せな日々は唐突に崩れ去る。
ある日、わたしの父を名乗る貴族が家に乗り込んできた。
「その少女は儂の娘だ! 今すぐ引き渡せ!!」
「旦那様、どうかおやめ下さい! 大切な一人娘なんです!」
「いいから黙って寄越すのだ! お前達!」
護衛たちが家に突入し、ママとわたしを引き離そうとする。
このままではママが痛めつけられてしまう!
わたしは覚悟を決め、貴族の男に歩み寄る。
「わたし、お父様について行きます」
「聞き分けの良い娘だ。引き上げるぞ!」
「そんな、エリー⋯⋯あぁ⋯⋯」
ママは泣いていた。
ごめんなさい、ママ。平民は貴族に逆らえないの。
わたしは涙を堪えてママに背を向けた。
狭いが愛着のある我が家を出て、馬車に押し込められる。
馬車の中で、事の顛末を聞いた。
この男はとある男爵で、ママは男爵家でメイドとして働いていた。
しかし、ある日ママは男に無理やり手籠にされてしまう。
わたしを身篭ったことが判明するや否や、男爵は手切金を渡してママを解雇した。
ママは憎い男との子であるわたしを女手一人で育てあげたのだ。
⋯⋯正直、ママには感謝してもしきれない。普通だったら親が憎けりゃ子も憎しでわたしに憎悪が向けられても仕方ない。
でも、ママはわたしに惜しみなく愛情を注いでくれた。それはわたしが一番よく分かってる。
必死に堪えないと涙が溢れてきそうだ。でも、この男の前で弱みは見せたくない。
同時に、ママを弄びわたしとママを引き裂いたこの男を、心の底から憎く思った。
男爵家についたわたしには、前の家くらいの広さの部屋に、何着ものドレスや装飾品が与えられた。
「お前にはこれから淑女教育を受けてもらう。その後、15歳になったら3年間貴族学園に通うのだ」
「わかりました、お父様」
それから教育の日々が始まる。
マナー、ダンス、芸術、教養などなど。平民だったわたしには縁がないものばかりで大変だ。
教育の合間に、わたしはママに手紙を書いた。与えられた装飾品の一部を同封し、こっそりと送り続けている。
ママから手紙は届かない。
自分を捨てた娘なんて、もう嫌いになっちゃったのかな。
ママのことを想い、誰にも見られずに涙を流した。
そして5年がたった。明日は貴族学園の入学式。
「お前は学園で、王子殿下や高位貴族の息女たちと縁を繋いでこい。そうすればお前の母親をメイドとして雇ってやる」
どうやら男爵家は没落しかかっており、権力者との繋がりが欲しいみたい。
ママを取り戻したら、とっととこの男には隠居してもらおう。
ママとまた暮らすためにここで一肌脱ぐしかない!
「わかりました、お父様」
何がなんでもやってやると、決意を込めて、男に言葉を返した。
ところが、決意ってのは簡単に揺らいでしまうものだ。
学園に着くや否や、わたしは前世の記憶を思い出す。
どうやらこの世界は乙女ゲームによく似た世界で、わたしはそのヒロインらしい。
ふわふわなピンクの髪に翡翠のような目をした、小柄で庇護欲をそそる女の子。それがわたし。
攻略対象者は何人かいて、大体が王子殿下を始めとした高位貴族令息たち。男爵が寄越した縁繋ぎリストと大体合致している。
婚約者がいる人も、いない人もいる。大抵の場合、婚約者のご令嬢が悪役令嬢として立ちはだかる。
⋯⋯さて、どうしようか。
前世のわたしは、悪役令嬢ものの小説もちゃーんと読んでいた。婚約者のいる攻略対象と仲良くしているヒロインが、悪役令嬢にざまぁされてしまうお話。
とりあえず、婚約者がいる攻略対象は避けなければならない。
そうなると、わたしがお近づきになれるのは、婚約者のいない攻略対象だけ。全攻略対象者の半分もいない。
でも、やるしかない! ママのために!
前世の知識を持つわたしなら、きっと出来る!
淡い希望は、簡単に打ち崩された。
いつまで経っても、イベントが発生しない。
おかしい。そう思い学園内を彷徨っていると、とんでもない光景を目にする。
攻略対象とその婚約者たちが仲睦まじく歓談しているのだ!
さらに、王子の婚約者である悪役令嬢、メアリー様の取り巻きモブたちが、婚約者のいない攻略対象達と親しげにしている。
わたしの入り込む余地なんてない。
メアリー様と目があった。『ざまぁするぞ』と射殺さんばかりの目でわたしを睨んでくる。
これはきっと、前世の記憶を持つ者の目だ。彼女が破滅回避になんやかんやしたからこんな状態になってるのかもしれない。
背筋が凍るのを感じ、虐められた子犬のようにわたしはその場から逃げ出す。
⋯⋯ママ、助けてください。わたしがこの方達と仲良くなるのは無理です。
この日、わたしは攻略対象者たちとの接触を諦めた。
攻略対象者が無理なら、非攻略対象者を狙えばいいじゃない!
そう思っていた時期が、わたしにもありました。
名の知れた貴族令息のことは調べれば大体わかる。少し調べてみたが、高位貴族の子息は、みんながみんな婚約者持ちだった。
現実は非情である。
では下位貴族は?
名の知れた貴族は大体婚約者持ちだ。
逆に、名も知らぬ貴族となると、情報が少なすぎて婚約者の有無すらわからない。
これは非常に危険だ。知らずに親しくなって実は婚約者がいました! なんて事になったら大惨事。
ざまぁはどこから飛び出しくるかわからない。
ポッと出モブ転生者にざまぁされるヒロインだっている。
迂闊に近寄るのは危険だ。
それなら、御令嬢はどうだ!?
高位貴族の令嬢は、みんなメアリー様の取り巻きになっていた。つまり、わたしの敵。
下位貴族の令嬢は、男爵の庶子であるわたしを見下してバカにし、マウントを取ってくるしょうもない女しかいない。誰がそんな奴と仲良くなれるか!! というかお前らの中にも絶対庶子いるだろ。
⋯⋯そもそも、重大なことを忘れてた。
身分の低い者から高い者に話しかけることは出来ないじゃん。
我、男爵令嬢ぞ? 貴族しかいないこの学園では底辺もいいとこ。
身分の高い人にわたしから接触出来ないなら、友達になるなんて無理ゲーじゃん。
こうしてわたしは、ぼっちになった。
吹っ切れてぼっちを受け入れると、精神的に色々と楽になった。
前世のわたしも多分ぼっちだったんだろう。
そこからの行動は早かった。
まず、攻略対象は避ける。非攻略対象も避ける。イベントも避ける。フラグも折る。徹底的にやった。
そして、ヒロインらしく(?)勉学に打ち込んだ。
特に力を入れたのは魔法学。
ヒロイン補正のおかげか、やればやるだけ身につく。
これから必要になる魔法を、3年かけて不足なく身につけるつもりだ。
⋯⋯正直、ぼっち確定の時点でママのところに帰ってもよかった。
でも、このままじゃあの男に一泡吹かせてやれない。
それに、わたしは無力だ。またあの男に押し掛けられたら何も出来ない。
勉強するのは、力を得るため。そして、ママとの日常を取り戻すため。
待っててね、ママ。
そして、断罪イベントの起こる卒業パーティー。
わたしは欠席した。
理由は、イベント回避のため必須の課外授業をぶっちしたので、卒業要件を満たしていないからだ。
つまり、わたしは学園を卒業出来なかった。
実は3留確定してるのでそのまま退学になり、男爵家に送り返される。
前世プレイした乙女ゲームの、BADENDそのものだ。
男爵家に帰ると、怒り狂った男が1人。
「お前は今まで、社交もせず、授業にも行かず、何をやっていたんだ!!!」
これはホントにその通り。
ざまぁ回避のために必死に人を避けていた。
破滅を回避したい転生ヒロインとしては正しいことなんだろう。
でも、人と最低限のコミュニケーションも取らない、社交もろくにできない貴族令嬢なんて、ただのいらない子だ。
「申し訳ございません、お父様」
目の前の男に対して、心にもない謝罪をする。
「もう良い。お前にはとある貴族の後妻に入ってもらう」
これが乙女ゲーBADENDでのヒロインの末路。
金目当てで老貴族に売り飛ばされてしまう。
社交もできない貴族令嬢の使い道なんて、こんなもの。
でもこの状況を、わたしは待っていた。
「はい、お父様」
この男をお父様と呼ぶのはこれで最後。
思わず緩みそうな頬を引き締めて、その場から立ち去った。
その夜。こっそりと起きたわたしは、用意していた平民服とローブに着替え、ベッドから抜け出し、与えられた宝飾品を持ち出して部屋を抜け出す。
3年間学んだ魔法の成果を発揮する時が来た。
わたしは【隠密】を発動して気配を消し、【暗視】を発動して暗闇の中でも物が見えるようにする。
魔法の重複使用は高度な技術を要するが、3年間の努力がそれを可能にした。
男爵の部屋に着く。扉に鍵はかかっておらず、セキュリティーがゆるゆるらしい。
あるものを探すため、わたしは部屋に入る。
しばらく探していると、何通もの手紙を見つけた。
ママからの手紙! やっぱりあると思ってた。男爵はママからの手紙がわたしに渡らないよう、隠していたらしい。
よかった! わたし、まだママに嫌われてなかったんだ! 一度は疑ってしまってごめんなさい。
涙が出そうになるが、泣くのはまだ早い。
必要な物を持ち出し、男爵邸を後にする。
グッバイ、クソ親父。もう2度とあんたとは関わりたくないけど、わたしとママを出会わせてくれたことだけには感謝してるよ。
⋯⋯ついついヒロインらしからぬ汚い言葉が出てしまった。これも前世を思い出した影響かな?
姿を隠す必要がなくなったので、【隠密】を解除して、代わりに【身体強化】を発動。
とある方向へ向かって、強化した身体能力をフル活用して全力疾走。
勿論向かう先はママの家。
ママ、元気にしてるかな。いや、情報屋使って定期的に探らせてたから元気なのは分かってるけどさ。
「ママ!!!」
8年ぶりに帰ってきた懐かしの生家。扉を開け、開口一番に叫ぶ。
部屋が暗いので、魔法を解除し新たに【光灯】を発動して部屋を照らす。
夜なのでさっきまで眠っていたママは、寝ぼけ眼でわたしを見つめる。
「んぅ⋯⋯一体何なの⋯⋯⋯⋯もしかして、エリーなの!?」
「そうだよ、ママ! わたしだよ、エリーだよ! うわぁぁあぁあん! ママぁぁぁああ!」
「あぁ、エリー、元気そうで良かった⋯⋯ずっと会いたかったわ⋯⋯」
8年ぶりのママに思わず抱きついてしまったわたしは、抑えていた感情を爆発させてしまい、わんわん声をあげて泣きじゃくってしまった。
ママはそんなわたしを抱きしめて、よしよしってしてくれる。
ずっとママのぬくもりを感じていたかったが、そういえばわたしは夜逃げしてる最中だった。
「うぇっ、ぐすっ、ひっぐ⋯⋯⋯⋯ママ、わたしはあの男の所から夜逃げしてきたの。そのうちバレてしまうから、ママも一緒に逃げよ?」
「わかったわ。でも、どこへ逃げるの?」
「東の辺境伯領へ。あそこは辺境伯領と言っておきながら隣国との関係は良好で、交易が盛んだから王都ほどじゃないけど栄えている所なんだよ」
「まぁ」
「馬車だと馬に追いつかれるかもしれないから、しばらくは自分の足で進もうと思うの。あ、ママはわたしがおぶっていくから大丈夫だよ!」
「え、そ、そうなの!?」
「【身体強化】の魔法を使えば、わたしは馬より早く走れるから! 早速準備しよ!」
「えぇ⋯⋯。わかったわ」
そんなこんなで準備して、わたし達は住み慣れた王都の家を出た。
それからしばらく経った今、わたし達は辺境伯領で新しい仕事と住む場所を見つけ、2人暮らししている。
わたしは学んだ魔法を生かし、好待遇の職を得ることが出来た。ママに楽させてあげることが出来るのは大きい。
そういえば、風の噂で聞いたところによると、あの男爵はとある有力な貴族との婚約が破談になり、怒りを買って窮地に立たされているらしい。
その貴族こそ、わたしを後妻に迎え入れようとした男だ。
正直、こうなるだろうと思ってBADENDルートを邁進したのはある。
でも、ママを弄んだアイツが悪いんだから、少しくらい痛い目を見て欲しい。
ママとの失われた8年間は戻ってこない。
でも、わたしは乙女ゲームの知識を借りて、懐かしい日常を取り戻すことができた。
乙女ゲーム的にはBADENDだけど、わたし的には超超ハッピーエンドです!!
読んでくださりありがとうございました。