学園地獄
高校最後の文化祭なのに、修二はひたすらに帰りたかった。
祭なのになぜ帰ってはいけないのかが理解できなかった。
祭りなのに、出席を取る理由も、ホームルームをする理由もわからなかった。
数人しかいない教室で、暇を投げつけるように、モンスターをゲットして戦わせるスマホゲームをプレイしている。
課金をするほどには、ハマっていない。
でも、時間をつぶすには、何も考えずにプレイできる。
バトル開始時は立ち向かってくるモンスターが、体力がなくなって捕まりそうになると、怯えた顔をして逃げていく。
それを逃してやるのが、彼は好きだった。
それも、プレイヤーに自分を投影しているのではなく、どちらかというと、モンスターのほうに自分を重ねていた。
モンスターが無事に逃げられると、彼は「よかった。」と安堵する。
ゲームに飽きて、窓から校庭のステージを覗くと、みんな楽しそうにダンスをしている。
出来損ないのジョーカーやアイアンマンが、ララランドみたいなダンスをしている。
どこが文化の祭りなのだと、修二はますます帰りたくなった。
「ねぇねぇ、修二。クレープ買ってきてよ。」
後ろの席から、唯一知っている女子に話しかけられた。
僕は無視をした。
「ねえってば。」
「やだよ。」
「なんで。」
「めんどくさいから。」
これをもっと酷くしたようなラリーが数ターン続き、彼女は僕が絶対に買ってこないことを悟ったのか「あ〜あ、だからゲーム依存症はダメなんだよなぁ〜」と無神経な毒舌を吐きながら教室から出て行った。
彼女は、話しかける前から、僕が買いに行かないことなんて、わかっていたはずなのに。
「はい、クレープ。500円ちょうだい。」
と、晶は僕にクレープを渡してきた。
「え、いらないけど。」
「いや、買ってきちゃったから。クリーム&キャラメリーゼソースだから。」
それは理由にならないよ、と心の中で思ったけど、そこを指摘し論破しても、僕には一つも得にならないことを、小学生の頃から知っている。
「1000円しかない。」
「じゃあ1000円でいいよ。」
「嫌だよ。」
晶は「ケチだな〜」と呟いて、1000円札を半分にちぎって僕に渡した。
半分にちぎった1000円札を受け取った瞬間、校庭のステージから、映画の爆発シーンみたいな音がした。