主人公は作者の思い通りに動くか
光一は、退勤後に食べるであろう「ごはんバーガー」を楽しみにしていた。
Twitterのタイムラインに流れてくる広告を、彼は広告だと嫌悪しないくらいには純粋だった。
しかし、芸能人のツイートがステマだとわかると、それを叩くくらいにも純粋であった。
つまり、光一は純粋な一般大衆だった。
退勤後のマクドナルドで、独り光一はiPhoneをいじりながら、ごはんバーガーをコーラで流し込んだ。
「うまっ。」
ごはんとコーラが合わない、という情報を彼が持たない以上、彼はごはんとコーラを合わないとは思わなかった。
食べログで3.7なら「美味い」と言うし、友達が美味しくないと言うものは「美味しくない」と言う彼が、CMでタレントが、ごはんバーガーを「美味い」と言っているのだから、彼が「うまっ。」と呟くのは当然のことだった。
光一は冷めかけたポテトを食べながら、Twitterのトレンドを検索する。
彼は、みんなが何に興味を持っているのかを知るのが好きだった。
そして、情報の上澄みだけをネットから掬い上げ、自分で深く考えることもせずに知識でマウンティングすることを日々続けている。
当然ながら、彼はこの物語の主人公ではない。
彼はこの先も、当たり障りのないような人生を続けていくのだろう。
それは小説にするには、あまりにドラマティックに欠けている。
この物語のほんとうの主人公は、マクドナルドで光一の隣に座っていた、一人の冴えない男子高校生である。
彼はこの先、未知の世界に行き、見たことのないような生物と出会い、凶悪な怪物と死闘を繰り広げ、世界を救うことになるのである。
それはそんなに、遠い未来の話ではない。