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第18話 『ありがとう、ぼくのまほうつかいさん!』

「目が……」

「青いでしょう? 先生の左瞳は発色の良い赤色なので、それをカバーしてくれる濃い色の青色を探してたんです。さらにさっきも言いましたが、瞳のところは大体のカラーコンタクトは開いているわけでして。なので開いてないものを……って先生!?」

「あ……」


 涙は勝手に流れていた。別に泣きたかったわけじゃない。ただ単純に、明瞭に。それはどうしようもないことみたいに流れてしまっただけなのだ。胸が熱くなってそれが表に出たように頬を伝う熱い雫。はらはらと零れていくそれを、次第にうつむいていき涙しか見えなくなるまで彩花は見ていることしかできなかった。いや、魅入られていたと言ってもいい。白金の髪を持つ白磁の肌をなぞる涙がまるで神話に出てくる乙女の涙にそっくりで。ほうっと息を吐いた自分に、彩花は我に返る。まさか目が痛いのだろうかと。


「先生、どうかしましたか!? やっぱりカラーコンタクトになにか不具合が」

「彩花さん」

「はい?」

「わたし、ずっと神さまに文句言いたかったんです。わたしは両方の青い目が欲しかったのに、なんでこんな中途半端に青い目をくれたのって」

「……はい」

「でも、いまわかりました。神さまが片方しか、青い目をくれなかったのは。彩花さんが魔法を、かけてくれるためだったんだって。だから……ありがとうございます、わたしの魔法使いさん!」

『ありがとう、ぼくのまほうつかいさん!』


 ぽつぽつとうつむいたまま喋っていた唯子が、ばっと顔をあげ出会ってからいままで見たこともないような綺麗な満面の笑みを見せた。涙を流しながらのその笑顔に、幼いころ自分が言った言葉が重なって。

 彩花も泣きそうになった。カラーコンタクト探しから外れていた包帯のない手を握り、胸元に幼い……3歳の頃からずっとかかっているペンダントをシャツ越しに握る。

 ああやっと、恩返しができた。そんな思いを抱えていると涙が出てきそうになるのだから不思議だ。ああやっと、ああやっと。あなたの笑顔がみれる、あなたのために、あなたのためだけにできることをすることができた。3歳のころからずっと抱えてきた恩を返すことが、恩返しだなんて建前を捨ててあなたを想える。


「先生……ぼくは」

「あっ!!」

「どうかしましたか!?」

「いえ、あの、その……きゃいんっ!!」

「先生ー!?」


 やっぱり目に違和感があるのかと声を上げれば、突然挙動不審になった唯子がいまだ目を潤ませながら立ち上がる。ナイロン製のクロスをつけたまま走りだそうとして、自分の長い前髪を踏みつけ。考えてほしい、ただでさえすべりやすい黒タイツを履いた唯子とすべりの良い唯子の髪が合わさったら……間違いなく転ぶに違いない。いや、実際転んだ。転んだ際に体勢を立て直そうとしたのか彩花の方を振り向いた途端に、床に向かって倒れ込んだ……と思ったらさっきまで座っていた椅子に額を打ち付けて。転んだのだった。



「うう、ユメトくん。そんなあ、わたしを捨ててウホ子と結婚するなんてぇ……」

「……望月ユメトもそんなこと欠片も望んでないと思いますよ……そもそも先生にはぼくがいるんだからいいじゃないですか」

「んん、彩花さんは彩花さ、ん? え、現実?」

「そうですよ、先生には担当であるこのぼくがいるんだからいいじゃないですか」


 すねたようにそっぽを向く彩花がまるで子どものようで可愛い。鋭利な外見も霞んで見えるくらいに愛らしくて小さく笑えば、なに笑っているんですかと言わんばかりの視線がとんでくる。それを愛想笑いに変えてごまかして、周りを見ればリビングにあるソファーに寝かされているようだった。額に感じるひんやりとした感触に手を伸ばそうとすれば、柔らかく彩花に手を握られる。


「彩花さん?」

「ぶつけてたんこぶになりそうだったので冷えピタを貼りました。取らないでください」

「うちに冷えピタなんて……あ、買ってきてくれたんですか? よく考えたらカラコンも! いくらでした? お金」

「魔法に代金なんていりませんし、冷えピタなんて安いものです。気にしないでください」

「でも……」

「じゃあ、ぼくのこと抱きしめてください。それでいいですよ」

「え……そんなのでいいんですか? じゃあ、失礼して。ぎゅー!!」


 ほとんど使ったことのない、高校生のころからの財布を探そうと身を起こすと片手で止められる。そんな彩花に自分でロリコン疑惑をかけていたことなど簡単に忘れて、やすやすと抱きつく。そんな唯子に本当に危機管理能力っ!! と内心は叫びながらも嬉しさに花を飛ばさんばかりに雰囲気を緩ませる彩花は、はたから見れば立派にロリコンだったが。

 だが、心広い目で見れば妹に抱き着かれて喜んでいる兄に見えなくもない。つまり、どう転んでも恋人同士にはみえなかった。

 そして、彩花さんなんだかいい匂いがする……と思っている唯子はブレずに唯子だった。

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