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第13話 「センパイ、おたくんとこの先生中身お花畑ですか」

「っていうか、わたしと彩花さんがなんで共倒れの可能性があるんですか?」

「それはですねえ、鳩目先生」

「やめっ」

「止めなさいよクソ愚弟! 全裸にしてベランダから吊るすわよ!!」

「そ、それはかなりユノちゃんにもダメージが入るんじゃ……」

「……先生、つっこみどころはそこじゃないです」


 小首をかしげて、親しいには親しいけれど共倒れになるような関係でもないのになぜそんなことを言われるのかと聞くと。小宮山がにたりと厭らしい笑みを浮かべて唯子になにかを言いかける。

 その笑顔を見て、これが小宮山の本性なのかと引き気味になったことと家主であるユノにも被害が出るんじゃないかと小さなからだを震わせたところで。軽く肩を叩いた彩花は眉間をほぐすようにもんでいた。

 そこで、ひらめいた! と言わんばかりに顔を明るくした唯子は、インカムを返して返してと彩花に猫のようにじゃれつく。何か言いたげな顔で、でも彩花が返してくれたインカムを再び装着して。唯子は嬉しそうに笑った。


「もしかして……わたしと彩花さんが姉弟に見えちゃうってことかな!? わたし、お姉ちゃん!?」

「それはないわー」

「センパイ、おたくんとこの先生中身お花畑ですか」

「……否定できません」

「否定してくださいよ!? わたしいますっごくいいこと言ったのになんでこんなに貶められてるのかな!?」

「「それは……ねえ?」」


 きゃー照れちゃうとばかりに、小さい手で両頬を包んだ唯子に呆れた視線の3人。あえて「否定はできません」だけの言葉に収めたが、呆れていたのは彩花もだった。そして、こんな時だけ姉弟の絆なのかハモったのはユノと小宮山だ。視線も合わせてから唯子を見ている。

 唯子の中では場を和やかにするすっごくいいことを言ったつもりだが、周りから見たら。どう見ても彩花の方がお兄ちゃんでそれも10歳は年の離れた妹に見える唯子ちゃんだ。本人は絶対に認めようとはしないだろうけれども。


(なんでここで姉弟なんだ。そこは普通恋人……とか)

「先生、俺の勘ですけどいまセンパイ絶対恋」

「うるせえっつってるんでしょうが、馬に蹴られて死ね、ユト!!」

「うー、なんか3人が仲良くてわたしだけはみ出しもの」

「仲良くなんかないわよ。で? なにか用があってスカイプしてきたんじゃないの?」


 こそっと彩花が思ったことを言葉にしようとした小宮山は、腹をユノに蹴られて沈んだ。というかうずくまった。それを見てなお仲がいいという表現を使う唯子に、頬を引きつらせてなんとか笑みの形を保ちつつ。ユノは何か用事があってスカイプしてきたのではないかと聞いた。


「あ! そうだ、あのね。わたしラノベフリマに応募しちゃって」

「……はっあああああ!? 唯子ラノベフリマ知ってる!? 廃校舎でやんのよ!? 来月になったら受賞発表で確実に知名度あがるしあんた目当てに人がたくさん来るかもしれないのよ? それを『応募しちゃって』って……」

「でもでも、彩花さんが倍率だんだん上がってるって! 去年は15人に1人だったんでしょ? じゃあわたしなんか受かるわけ」

「……あのね、ラノベフリマ事務局はとにかく人を集めたいの。それなのに私やあんたを落として他の人入れるわけないでしょうが。そもそもあんた、応募したのに受かりたくないの? 受かりたいの? どっちなわけ?」

「……っ」


 最初はインカムに叫んでいたユノだったが、唯子の消極的な態度に眉をひそめて声色が固くなる。

 ラノベフリマはとにかく激戦区だ。みんなが自分の作品に自信をもって、確実に面白いそれを相手に伝えたいということで参加している。それを。確かにおもしろそうだと思った、それでも外に出られない、人目の怖い自分に参加の権利があるのだろうか。

 そう思った時、自分は汚そうとしていると唯子は理解した。15人に1人、確かにすごい倍率だ。でも1人受かったその裏で14人は涙を呑んでいる。自分が参加することで14人もの作家志望の卵たちが落とされる、それをいままで理解していなかったのは唯子の罪だ。

 唯子の顔色が悪くなって、ぎゅっと膝の上で拳を握ったのを見た彩花がインカムを再び唯子から取り。ユノに応対する。


「すみません、それについてはぼくの過失なんです」

「ちがっ、彩花さんのせいじゃっ!」

「どういうこと?」

「先生は参加をためらっておられました。でも、ぼくが背後から声をかけたことで参加ボタンを押してしまって」

「あー……、それは一概に唯子だけが悪いとは言えないわね。んー……どうする唯子、運営に言えばたぶん考慮して外してくれると思うけど」


 どうする? 一連の事情を聴いて、確かに唯子だけのせいではないと知ったユノが静かに問いかけてくる。ユノは唯子のことを心配してくれてこの言葉を投げかけてくれてる。いまならきっと取り消しだってできる。でも、でも。楽しそうだと思った、唯子は。行きたいと参加してみたいんだと唯子が考えたのはまぎれもない事実で。いま断れば心証が悪くなり今後ラノベフリマに出してもらえるかどうかもわからない。でも、でも。こわい、こわい、こわい。どうしようという気持ちがいっぱいになって頭の中をぐるぐる回る。小さい頭が自然に下がり、うつむき黙り込む。

 それを後ろで見ていた彩花は、なにかを決意したように小さく頷くと唯子の肩に手を乗せる。


「先生、参加しましょう」

「あ、彩花さん!?」

「というわけで俺。先生。参加取り消しは結構ですので、予定通り抽選の結果を待つことにします。では」

「ちょ、美少」


 ぷつりと暗転したモニターの向こうで、ユノがなにかを言っていた気がしたが。唯子は彩花がなにを言っているのかわかってはいるのに、頭では理解できなくて。ただ呆然と真顔でスイッチを押し、スカイプを切りインカムを作業台の上においた彩花を見ていたのだった。


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