マジック・オーブの構造
驚いた。いやぁ、流石異世界と言うべきか。
パソコンとは随分と構造が違うのだな。
まず、マジック・オーブは均一な素材でできた一つの物質だ。その中にCPUの役割も、メモリの役割も、ハードディスクの役割も内包されている。これが望ましいものなのかどうかは俺にも分からない。ただ、地球のパソコンとは違う、というそれだけだ。
マジック・オーブに搭載されているオペレーティング・システムはマジックオーブにロードされたプログラムの塊だ。
GOーV8
それがこのゴーレムのオペレーティング・システムのバージョン。
恐らく、ゴーレムごとに多少のバージョンの差はあるのだろうが、基本部分は同じなんだろうな、と思う。もしかしたら、WindowsやLinuxといった格好で全く違うものもあるかもしれないが、それはおいおい確かめていこう。
さて、マジック・オーブだが、どうやらランクによって性能の違いがありそうだということが分かった。今触っているマジック・オーブはランクD。説明を読むと、ランクはA~Fまでの6段階ということだから、こいつは下から数えたほうが早い。
「まぁ、今の俺には過ぎた情報だな」
いずれ、オペレーティング・システムをいじり倒すようになれば、よりランクの高いマジックオーブを手に入れようという思いも出てくるかもしれないが、今はそれ以前に知らなければならないことが多すぎる。
俺は他に面白い情報が無いか、調査を進めた。
◆
「ふぁぁ、おい、作業状況を報告しろ。」
作業を開始してから半日程経過してからハーケンが俺のところにやってきた。ちなみに、今日一日、こいつは何もしていない。ただ、ちょっと離れたところで居眠りしていただけだ。
「あ、はい。右足が動かないようなので、今部品を取り換えているところです。」
事実、あれから試しにゴーレムの動作を確認していた時に右足だけいくら動かそうとしても動かなかった。
マジック・オーブから調べてみたところ、右足のデバイス接続にエラーが表示されており、トラブルシューティングとして配線の交換を指示された。
というわけで、絶賛右足を解体中なわけだ。
様々な工具を使いこなし、右足を分解して配線をむき出しにする。これはこれで結構な重労働だ。今まで使ったことも無いようなものばかりだが、そこはクリードの知識を使うことで難なくできた。
「今日中にこいつのメンテナンス終わらせろよ。終わるまで休むんじゃねぇ。」
「分かってますよ。」
そのままハーケンはゴーレム工場を出ていく。そういえばそろそろ飯の時間かな? あれ、俺の分は? と思ったが、どうやら飯抜きで仕事をするなんてのは良くあることのようだ。
「とんだブラックな職場だな。俺の立場って何なんだ? 従業員? それとも奴隷かなんかか?」
そんなことをふと思ったが、どうでもいい。まだ腹は減ってない。それよりマジック・オーブの調査が先だ。
俺はハーケンがいなくなったのを確かめてマジック・オーブに触れた。
「早くこいつを理解してやる。きっとそれがこの世界で生き抜く力になるはず。」
恐らく、俺を含め一握りの人間にしか理解されていないマジック・オーブの中身。それを完全に理解したとき、俺は一体この世界でどれほどの高みに上がれるのか。
それを考えただけでも笑いが止まらない。