実弾兵器
虎熊の死体は、そりゃもう悲惨だった。
原型は確かにとどめている。だが、手足は吹き飛び、頭はつぶれ…… と言った感じで、まぁ、スプラッターなゴブリンの死体よりはマシか、という程度。
「虎熊の毛皮、売れる状態だったら高い値がつくんだけどね。これは売れないわ。」
「しょうがないな。命があっただけマシと考えたほうがいい。」
「それはそのとおりね。」
「ほかに、何か金になりそうな素材とかないのか? なければ燃やすけど。」
死体がこんな有様じゃ期待は薄いが一応聞いてみることにした。得られるものが何もなければ後は燃やすだけだ。骨くらいはスケルトンを作る材料にでもしてやろうかな。
ちなみに、虎熊と一緒に飛んでいったスケルトンは虎熊から遅れること数十秒後に落ちてきた。当然粉々に砕け散ったのだが、そこから何とか修復し始めたところがすごい。もっとも、修復し始めただけで、絶対に修復できるはずがない。というわけで、この砕けたスケルトンはドック行き決定だ。
「虎熊ならマジックオーブがあるかもね。魔法を使う魔物だから。それにこのサイズの虎熊なら結構大きなマジックオーブが手に入るんじゃない?」
「魔物からマジックオーブが採れるのか?」
俺は目を輝かせてシーラを見た。ついでにシーラの両肩をガシッと掴み、ぶるんぶるんと揺さぶる。
「ちょっ、痛い? 少し落ち着いて! 魔法を使う魔物にはもれなくマジックオーブが体内にあるわよ。魔物から得たマジックオーブを使って魔道具を作っているんじゃない。あなた、そんなことも知らないで今まで生きてきたの??」
「てっきり、魔道具もゴーレムも全部古代遺跡とかから出土するものとばかり思ってたよ。」
正直に言ってみる。というより、俺が転生した場所で見つけたゴーレム達は確か遺跡から発掘されたものばかりだったからな。魔道具も同じかと思っていた。
そして、シーラから大きなため息をつかれる。
「そんなわけないでしょう。ゴーレムはともかく、魔道具の殆どは魔物から得たマジックオーブがメインよ。それをプロの魔道具屋が無駄をそぎ落として磨き上げて魔道具が造られるの。」
無駄をそぎ落とすというのは、もしかして不要な魔術式を取り除くとかそういうことなんだろうか。と、疑問が残ったが、きっとハンターのシーラはそんな情報までは知らない。いずれ魔道具屋とやらの作業を見させてもらおう。
そう思って、とりあえず虎熊の死体をスケルトンに解剖させる。
虎熊のマジックオーブはちょうど心臓付近に埋め込まれていた。ゴーレムに使うマジックオーブの実に3倍はあるその大きさに俺は驚いた。
そこで、ふと思ったのが、魔石とマジックオーブの違い。空間収納から取り出した魔石をマジックオーブと比べてみると、勿論色も形も違う。
「なぁ、魔石はどういう使い道があるんだ?」
「魔石も魔道具屋に売るられるくらいしか知らないわね。何に使っているのかは知らないわ。」
そんな話を聞いていると、ますます人の住む集落に行きたくなった。
◇◆◇
とはいえ、まずは戦力補強する必要がまだありそうだ。虎熊一匹にてこずるようではとても先には進めない。今回の戦闘でボロボロになったゴーレム達の修復もやらないといけない。
「まずは、ゴーレム達の修復。それが終わったら虎熊を屠れるほどのゴーレムでも作るかなぁ……」
丁度、それができそうな素材も手に入ったことだし、俺は新しいゴーレムをイメージし始めた。
その横で、「まだ作るのかよ?」というゲンナリした顔をしたシーラがいるが、それは見なかったことにしよう。
ゴーレム達の修復は簡単に終わった。基本的にパーツの損傷だから、替えのパーツに取り換えるか、パーツ自体の修復をしてやればそれで終わりだ。
半日もしないうちにその作業は終わった。
次はいよいよ、新しいゴーレムの作成。
現在の高火力ゴーレムは殲鬼が一番なのだが、殲鬼のガトリングガンが通じなくなると途端に打つ手がなくなってしまったのが今回の戦いだった。
多少発動に時間がかかっても、1撃で相手を鎮める。
そんなパワフルなゴーレムが欲しいと思った。いわば、ロケットランチャーや大砲を抱えた兵士が欲しいというわけだ。
マジックオーブやパワーオーブに余剰があれば、それこそ誘導機能など持たせてロケットでも作ってやろうかと思うのだが、あいにくそこまで余剰はない。
ただ、実弾式の兵器というのはいい考えかもしれない。もっとも、実弾はそんなに数は揃えられない。それに火薬もない。
錬金術で火薬が造れるか?と考えてもみたのだが、あいにく火薬を扱ったことがない俺にはどうすることもできなかった。
ただ、爆発する、という魔法には覚えがある。
そう、名槍【ヴァルモンテ】にセットされた爆散魔法。
これをどうにかいじって弾丸を飛ばす火薬替わりに使えないか? と考えた。
早速、爆散魔法の魔術式を見てみると、爆散魔法は爆発エネルギーの元となる魔力の消費量を指定することができるようだ。
ちなみに、ヴァルモンテは魔力の数値を低く抑えていた。恐らくこれは使用者の魔力量を気遣って低く抑え、その代わりに使用頻度を多くすることができるようにしたものと考えられた。
ヴァルモンテで消費する魔力のおよそ100倍を指定した場合、どの程度の爆発力になるのかを早速試してみた。
すると、まぁ、とても弾丸用の火薬としては使っちゃいけないだろう程の破壊力だったわけで、流石に威力を落としていきながら調整してみた。
結果、とりあえずはヴァルモンテの20倍くらいから始めようということにした。
次は砲身である。
砲身は爆発と熱に耐えなければならないので、かなり頑丈に作る必要があった。これは錬金術により、タングステン鋼にトライしてみることにした。その試作だけでも2日はかかったわけだが、無事作成。
同様のつくりで銃弾もいくつか用意してみた。大砲の弾ほどもある凶悪な硬さと重さを兼ね備えた弾だ。銃弾と呼ぶにはぶっ飛んだ代物。徹甲弾という奴だろうな。これは。
銃弾はタングステン鋼以外にも鋼製、銅製、鉛製など作り、どれが飛距離や威力を考えたときに適切か?という観点で実験してみることにした。まぁ、実際のところは飛距離はまだ重要ではない。視認できる距離にいる相手を攻撃するわけだからな。
こうして、砲身、銃弾、爆発機構のすべてがそろい、早速実験だ。
試し打ちといっても、周囲には木しかないので、ひたすらそれをターゲットに試運転した。目標は、殲鬼の1発の魔弾の推定100倍の威力。
ただ金属の弾を打ち出すだけでなく、砲身から放たれる瞬間に弾丸を魔力でコーティングし、回転数を風魔法で大幅に増やす。
そして、試し打ちスタート
ドガァァァァン
すさまじい音。だけど音は短い。そして、音と共に森に住まう鳥たちが一斉にバタバタと逃げ出していった。
目標の大木は幹に巨大な穴をあけ、さらにその奥にあった木も何本かなぎ倒すというほどのパワー。 実にしびれる。殲鬼の弾の威力と比べるのはとても難しいが、かなり上を言っているということは間違いない。
そして、試し打ちに協力してくれた暗仁は反動で後方に吹っ飛ばされた。
「実験はとりあえず良好。あとはこの射撃に耐えられるゴーレムを作るだけだ。」
こんな風にゴーレム作りに勤しむこと数日ののち、ついに結果が分かる日が来た。そう、シーラのお腹のことだ。