笑顔
助けた女性の名前はシーラ。
年齢は18歳。
ここまでは隷属魔法の効果で得られた情報だ。
「で、どうしてゴブリン達に捕まったりしたんだ? まぁ、あまり話す気にはなれないかもしれんが、言える範囲で教えてくれ。」
「それって、命令?」
やはり、言いたくないか。あれだけの目にあったんだもんな。無理もない。
「命令じゃない。言いたくなかったら言わなくていい。」
そういいながらも俺は作業の手を休めない。
「そういうあなたは何をしているの? あなたも魔術師なの?」
「お前なぁ…… 質問を質問で返すとか、しかも全く関係ない質問するとか、主を舐めてるだろ。」
「いいから答えてよ。」
「俺は魔術師じゃない。こいつは魔道具だ。そして今作っているのはゴーレム。もう嫌と言うほど見ただろう?」
シーラにはゴブリンを殲滅させたゴーレム達を紹介した。やはりゴーレムは珍しいのか、随分と食い入るように眺め、さらにべたべたと触りまくっていた。
ゴーレムにお前の指紋がつくからやめてほしい。
「あんなにゴーレムがいるのに、まだゴーレムを作るの?」
「ああ。お前の月のものが来るのはまだ10日ほどあるんだろ? だったらテント生活じゃ手狭だしな。ちょっとした家が欲しい。そして、家づくりができそうな器用なゴーレムなど俺は持っていない。だから作るしかないだろう。」
今いるゴーレムはどれも戦闘用ゴーレムだ。作業に使えるまともな手足を持ったゴーレムは、まぁ、しいて言うなら暗仁と黒影しかおらず、殲鬼に至っては両腕がガトリングガンだからな。木材すらまともに運べない。
デヴァストで何とかするか、とも考えたんだが、奴も左腕に砲身をつけているので効率が悪い。それならいっその事作業用にも使えるゴーレムを作ろうというわけだ。
勿論、こいつらは戦闘用にも使うがな。
素材はなんとゴブリンの焼いた骨を使ったカルシウム製だ。特徴はなんといってもその軽さ。勿論そこそこ頑丈でもある。とはいえ、金属や石でできたゴーレムと比べるとやはり強度は弱い。
とはいえ、修復機能もしっかりつけているから問題にはならないだろう。
ちなみに、骨でできているといっても、骨をそのまま使ったわけじゃない。錬成魔法で押し固めて素材化してあるから、はた目からはこれが骨でできているなんて絶対に分からない。
押し固められた骨の表面はスベスベで、何とも触り心地がいい。これが元ゴブリンだったなんて言わない限りはかなり見てくれ的には優れたゴーレムだろう。
戦闘時は、適当に作った盾と斧を携えて接近戦をやる。
名前は『スケルトン』と名付けた。まぁ、事実骨でできてるし、白いしな。
「で、改めて聞くが、どうしてゴブリンに捕まったんだ?」
再度の俺の質問に観念したのか、シーラは重い口を開いた。
「…… 私ね。ううん、私達、ハンターだったんだ。それでゴブリンの狩猟をしていたの。そしたら相手の罠にかかっちゃって、大勢のゴブリンに囲まれて…… ミイラ取りがミイラになったというのはこういうことを言うのよね、きっと。」
「ハンターだったのか。まさか一人で狩猟してたんじゃないんだろ? 仲間とかいなかったのか?」
まさかあれほどの数のゴブリン相手に一人で挑もうとしていたのだとすると、それこそ無謀だ。
あ、俺も一人といえば一人だな。ゴーレムを人としてカウントしなければ、だが。
「勿論仲間はいたわ。私含めて4人のパーティーだった。必死で逃げたんだけど、私だけが捕まったのかな? ハハハ、私ってドジだよね……」
「逃げている状況が分からんから何とも言えないけどな。ハンターやるくらいだからみんな魔術師なんだろう? 買い被りすぎかもしれないが、魔術師だったら切り抜ける方法の一つや二つでもあったんじゃないかって思うんだけどな。」
「魔術師といってもピンキリなのよ。私たちは新米のハンター。魔術師としても実力は大したことはないわ。魔道具が無ければ何もできない。ゴブリンから魔道具の槍を奪われたとき、私はもう成す術が無かったの。」
「そうだったか。」
魔術師も色々なんだなぁと思った。それにしても、槍か。
槍?
「あ、そうだ……」
俺は空間収納から1本の槍を取り出した。
名槍【ヴァルモンテ】
かつて、ノーザンバーグのゴーレム整備工場で戦ったアンドレという男が使っていた槍だ。確か、槍についているマジックオーブには「爆散」とかいう物騒な魔法がインストールされている。
魔法としても槍の素材としても中々の一品だと思ったから空間収納に大事にとっておいた。
「ほれ、護身用だ。確か「爆散」とかいう魔法が使えるはずだ。」
そういって、ひょいとシーラに槍を渡す。
「えっ? ええっ? こんな立派な槍をもらってもいいの?」
「やるとは言ってない。しばらくの間護身用に貸してやるって言ってるんだ。」
シーラは適当に槍を振り回し、地面に突き刺すと「爆散」と唱えた。途端に地面がはじけ、ちょっとしたくぼみができる。問題なく使いこなせそうと思ったか、シーナは少しほほ笑んだ。
「ありがとね。大事に使わせてもらうわ。」
「ああ、そうしとけ。」
昨日よりは少しは元気になったか、ちょっとした笑顔を作れるようになったシーラを見て、俺もまた悪い気はしなかった。