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地獄の業火

 エリーゼは町長に命令を出す。

 

 徴発した町の警備すら家に帰らせ、家から一歩も出てはならない。まだ探索中の者は見つかっておらず、これからエリーゼの隊の者だけで探索活動を継続する、と。

 

 町長は訝しむも、これはエリーゼ少佐としての命令。これに疑義をかけることはノーザンバーグ共和国に対する反逆も同然。当然処刑対象となる。

 

 というわけで、何も言えずにただ自宅待機を部下達に命じる。

 

 散々な一日だ。早くこの町から出て行ってくれ。

 

 それが正直な気持ちである。

 

 さて、これでエリーゼの計画を阻害する要因は全て取り除いた。

 サラミス少将への手土産も確保した。逃亡者の身柄はできれば確保というレベルだから、|この町もろとも消滅した《・・・・・・・・・・・》ということであればしょうがない。

 

 軍事的な準備も完了している。既に配下は城壁を取り囲むように待機しており、いつでもエリーゼの命令を遂行する用意がある。

 

 「さぁ、お楽しみの時間よ。逃亡者の死に顔が見れないのは残念だけど、まぁ面倒は嫌いだし? これで我慢してあげるわ。捕まった後の拷問よりはマシだと思うわよ?」

 

 エリーゼは魔力を集める、これでもかというほど集める。恐らく、軍用ゴーレム10体分はあるだろう魔力を練り上げる。あとはこれを術式に流し込むだけ。

 

 「結界を張りなさい。」

 

 エリーゼの掛け声とともに、町の城壁に沿って町を包囲するエリーゼの部下200名が、それぞれ手に持った魔道具を使って魔法を発動し始める。

 

 魔法の名は【反射(リフレクション)

 しかも、この魔法は熱を反射するようにあつらえた魔法だ。

 

 200名が発動した反射(リフレクション)魔法はやがてドーム型のような半球体となり、町をすっぽりと覆いつくすようになる。

 

 その時を待っていたといわんばかりに、エリーゼの魔法が町中心部を発現地帯として発動する。

 

 「【サン・フレア】」

 

 発動と同時に、町中心部に小さな小さな恒星が誕生する。それはまるで真南に位置する太陽のように照り輝き、町中を熱し始めた。そして、小型の太陽から放射される熱は反射の結界により再び町の中心めがけて戻ってくる。

 

 結界内が1000度の高温になるまで1分とかからなかった。

 

 灼熱が町中を覆う。瞬く間に可燃性のものは燃え上がる。あっと言う間に町中が火の海に包まれた。恐らく建物の中にいた人間もただでは済まないだろうが、不思議なことに悲鳴や叫び声はまったく聞こえてこなかった。

 

 冷静に考えれば当たり前で、悲鳴を上げる間もなく燃え尽きた、と考えるほうが適切だ。

 

 

 

 その魔法の様子を見ていた俺は背筋が凍り付く思いだった。

 

 「おいおい、何の冗談だあれは? まさか、まさかこの町もろとも消し去ろうってか?」

 

 まさか軍隊が自分の国の民を平気で虐殺するとは考えが及ばなかった。自分の想定のはるか斜め上を行く、まだ見ぬ敵の司令官のやり方に恐怖を覚えた。

 

 「いかん、このままじゃアルバ達が死ぬ。」

 

 せめてアルバ達でも、と思って地下室の天井の入口に手を触れたとたん、もはや手遅れだということを知る。

 

 「あちっ!?」

 

 ガスコンロで熱せられたフライパンんにさわったような熱さを感じ、触れた手を咄嗟に引き抜く。

 

 サーチャーの映像を見れば、町にまだ残っていたドローンの映像は最早見ることができなかった。つまり、熱で破壊されたということを意味している。

 

 そして、エアコンの吐き出す冷風は最早冷風というよりはブリザードともいえるほどの冷たさで、0度以下の空気を送り付けなければこの部屋すらあっという間に地上の獄炎地獄と同じような状況になるのは目に見えていた。

 

 「やばい…… やばいやばいやばいやばい!」

 

 このままじゃ、自分も焼け死ぬ。その前にこの魔法が終わるか? 終わるかもしれないが、終わらないかもしれない。

 

 「あがけ! 何とかしろ! 何ができる?」

 

 俺はマジックオーブにかじりつき、何か有効な魔法が無いかを考える。

 

 「相手が熱ならこちらは氷で…… いや、だめだ。どこまで温度が上昇するか分からない。」

 「異空間収納に俺が入るとか? …… いや、異空間魔法はそもそも生きているものは弾かれる。」

 「錬成魔法でもっと深く地面を掘るか? いや、熱がどこまで追ってくるか分からない……」

 

 その後も色々と案を考えてはぽしゃる。

 

 さらに焦りと気温上昇で意識が朦朧としてきた。

 

 既に部屋の温度は40度を超えている。

 

 「あきらめるな。相手が魔法である以上、絶対にこちらだって対応策があるはずだ。」

 

 そこでふと見かけたのが空間魔法APIの一つ、空間転移という魔法だった。

 

 焦る気持ちを抑えつけながらその解説を見る。

 

 「引数として、転移させたい物質(生命体も可能)、転移したい座標、を渡すことで発動…… これだっ!」

 

 とはいえ、そもそも今の座標が分からない。しかも――――

 

 「座標って、高度もあるのかよ…… しかも、この星の中心部からの距離だと?」

 

 ふざけてやがる。

 

 だが、もう他の案に目移りする時間はない。ここは腹をくくってこの魔法にかけるしかない。

 せめて、今の座標が分かればかなり状況は改善する、そう思いながらAPIを見ていたらそれを見つけた。

 

 空間転移の補助関数的な位置づけなのか、現在の座標を処理結果として返すAPIだ。

 

 早速その魔法を発動し、現在の座標を確認する。そして俺は次に地図を取り出す。勿論この地図に座標は載っていないが、俺はこの星が地球と同じくらいの大きさだということは重力魔法を使っているうちに何となく理解していた。

 

 どうせ転移するならジルコニアに転移したほうが一石二鳥だ。空間転移するリスクは近場に飛ぼうが遠くに飛ぼうが同じ。どちらかというと、近場に飛んだほうが追っ手とかのことを考えると後々面倒だろう。

 

 現在の座標から、ジルコニアのグリードの故郷があった町の近くの座標を概算し、魔術式に引数としてぶち込む。

 

 「さぁ! 発動しろ! 空間転移!」

 

 

 そして、その空間から俺はいなくなった。

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