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かくれんぼ

 「ふふっ、ねぇ、気づいた?」

 「はっ、確かに見られていますな。」

 「そう。これもゴーレムなのかしらね。だとしたら中々やるじゃない。下手な偵察よりよっぽど優れている。」

 

 エリーゼは部下と会話しながら馬を町の中に進めた。

 

 町中、いたるところで見られている感覚を覚える。正確には探知されている、と言ったほうが正しいのだが、同じことだろう。

 

 だが、それでも悠然と町の中を馬で走るのは、相手が町の中では下手な動きをしないだろうという読み。施設の惨状を聞いた後でも、ポイントを絞った攻撃であることを知り、相手が無駄な戦闘は避けるタイプであると見通した。

 

 少なくとも、狂人の類ではない。

 

 ならば、堂々と町を封鎖し、1件1件調べていけばいい。こちらは200名もいるし、この町の警備隊も使えば500名体制で探索に乗り出せる。

 

 イルベンスの政庁に着いたエリーゼは、そのまま町長がいる部屋に入っていった。イルベンスの町長とエリーゼとでは当然エリーゼのほうが身分が上。町長はエリーゼに自分の椅子を譲り、起立した。

 

 「町長。既に手紙で出している通り、こちらはとある犯罪者を追跡中よ。全面的に協力してもらうわ。」

 「はっ、はいぃぃ! 承知しております!」

 

 年齢的には孫ほどに離れたエリーゼに対し、直立不動の敬礼をする町長だが、それは仕方ない。

 

 下手にエリーゼの機嫌を損ねると、それこそイルベンスの町自体がなくなりかねない。

 

 エリーゼは町長の対応に満足した。

 

 「それでは、町の警備の者を借りるわね。あと、これより調査完了までは町の出入りを禁止するわ。そして、町の警備の者以外、町人は自分の家から出ないこと。早速通達を出してちょうだい。」

 

 「はっ!」

 

 

 こうして、イルベンスの町はたちどころに通行人もいなくなり、閑散とした状態となった。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 「うかつだったか……」

 

 俺は今更ながら、町中に張り巡らしたサーチャーの監視網について後悔した。

 サーチャーを見つけられてしまうと、少なくともこの町に俺がいることがばれてしまう。いや、もしかしたら町のどこかにいることは既にばれているのかもしれない。


 そして、虎の子の一つ、サーチャーを敵の手に渡してしまう可能性すらあった。

 

 もっとも、そのことは想定済みで、対策も考えてはいる。

 だが、そういう事態になればもはや戦闘は避けられないということを意味した。

 

 できれば、この町の中では戦闘は避けたい。

 

 アルバとその家族の顔が頭によぎる。

 

 彼らに罪はない。それどころか、アルバに至ってはやむを得ない事情があるにせよ、かくまってもらっている状態である。そして、そのアルバの家の地下室で隠れている状況からして、仮にアルバ達のうち誰かが俺のことを話したとしても何らかのペナルティーは受けることだろう。

 

 つまり、今できる最善はこの地下室に閉じこもったまま一歩も出ないことだ。もっといえば、地下室自体を発見されないことだろう。

 

 俺は早速、地下室の入口を錬成魔法でつぶし、入り口が無かったかのようにした。

 そして、若干遊び心で作った1体のゴーレムを異空間から取り出す。

 

 「遊びでも作っといて正解だった。」

 

 空調管理ゴーレム『エアコン』

 

 名前もへったくれもなく、エア・コンディショナーの略でエアコンである。

 

 ただ、こいつの凄いところは、ただの温度調整だけでなく、空気中の酸素濃度、二酸化炭素・一酸化炭素濃度まで調整できることだ。これさえあれば、宇宙空間にいっても限られた空気の中でずっと生きていくことができる。まさに今のような空気の通りがなくなった密室空間には持ってこな代物である。

 

 しかも、全てセンサーによる自動制御だ。

 

 「さて、敵がどう動くか、しばし様子を見守るか。」

 

 俺はサーチャーが捉えた映像を注意深く見守った。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 エリーゼはサーチャーが設置されているであろう場所を凝視した。ちなみにサーチャーは飛行させておらず、建物の物陰から道を監視できるように設置されているので、凝視してもなかなかその姿を見ることはできない。

 

 だが、何らかの監視魔法が発動しているのは魔術師であるエリーゼには手に取るようにわかる。だから、その魔力の出現場所も薄々わかるということだ。そして、エリーゼだけでなくその部下も何人かはそれが分かる。

 

 「エリーゼ様。例の監視用ゴーレムと言ったところでしょうか…… いかがなさいますか?」

 「1体は欲しいわね。聞き込み部隊とは別に捕獲部隊を作って確保しなさい。」

 「はっ!」

 

 部下の男が恭しく拝命する。

 

 早速、20名からなる捕獲部隊を作り、魔力の出現場所に向かう。

 

 ちょっとした大きな石程度の大きさのサーチャーを見つけるのは簡単なようでなかなか難しいが、どうやら屋上付近にあるだろうといことが分かると話は早い。

 

 途端に捕獲されてしまう。

 

 そんな調子で、次々とサーチャーが捕獲されていく様を俺はモニターから見つめていた。

 

 「第一優先は俺の命。だが、そう簡単に軍事機密を渡すつもりはない。」

 

 だが、まだアクションを起こすのは早い。もう少し機会をうかがうべきだろう。

 

 

 

 やがて、アルバの家にも探索隊がやってきた。

 

 「この男に見覚えは無いか?」

 「いや、知らないな。」

 「嘘を言うと為にならんぞ?」

 「済まないが本当に知らない。」

 

 どうやら、アルバ達は知らぬ存ぜぬを続けてくれているようだ。しかし、ウソ発見器のような魔法を使えるものがいなくて助かった。

 

 「それでは、家の中を検分させてもらう。」

 「…… 分かった。」

 

 そうして、総勢10名ほどの兵士が家の中に入ってきた。1階、2階、3階と手分けして探していく兵士。1階部分は入り口をふさいで見分けがつかないようにしたので、見られても気づけないはず。万が一それが見破られたらしょうがない。アルバ達をうまく逃がしつつもこの町からゴーレムという武力を伴って逃げるだけだ。

 

 結果として、何も見つけることができなかった兵士たちはアルバの家を後にした。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 次々に届く探索隊の成果なしの報告にエリーゼは苛立った。ゴーレムはあったのだ。必ずこの町のどこかにはいるはず。家の中にいないのであれば地下道か?とも思い、探索隊を出したがもぬけの殻。家の中の探索では当然地下室の有無なども調べた。

 

 ありえるとしたら、どこかに隠し部屋か地下室でも作ってそこに避難しているか?という線も考えたが、それは調査が難しい。それこそ町中の被疑個所を壊して回らなければならない。

 

 「どうしますか?」

 

 こう尋ねてくる部下への回答すら煩わしくなってくる。

 

 しかし、よくよく考えればサラミスへの手土産は確保した。新種の空飛ぶゴーレムだ。実際に飛ぶところはまだ見たことが無いが、きっとこの羽根のようなものを使って飛ぶのだろうということは想像に難くない。

 

 それにトール大尉に聞いてみても、施設を襲ったゴーレムの一つがこれで間違いないということが確認できた。

 

 ならば、丁寧に町を穿り回して敵を探すよりよほど効率的な方法があるじゃないか。

 

 「あれをやるわ。隊員は町の城壁に待機。結界を張りなさい。誰一人としてこのまちから出ないように注意すること。」

 

 その命令を聞いた瞬間、部下の男は残忍な笑みを浮かべた。エリーゼと同じように。

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