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平穏な日々の終わり

 昔々、世界は魔物の王様、魔王によって人の住めない土地となろうとしていました。

 そこに現れたのは女神様が遣わした一人の英雄でした。

 

 女神様から様々な恩恵を授かった勇者様は、その力を使って魔王を亡ぼしました。

 そして、世界は平和になりました。

 

 勇者様は、一緒に旅をした王女様や聖女様、賢者様と結婚して国を作り、幸せに暮らしました。

 

 「どう?」

 「いや、どう? と言われてもね……」

 

 シーナがどや顔で自慢げに絵本の内容を読み聞かせてくれた。

 

 もっとも、絵本といっても史実を子供に分かりやすくかいつまんで書いたものらしい。つまり、この世界の真実の一端ではある。

 

 「この本大好きなの。いつか私の前にも勇者様が現れないかなぁ?ってね。」

 「勇者……ねぇ……」

 

 俺の反応を見て、シーナはどうやらご不満のようだ。

 

 「この本の内容のどこが不満なのよ?」

 「いや、不満というわけじゃないけど、ちょっと俺の生き方とは違うかなぁってね。」

 「力があって、悪い奴をやっつけて、そしてきれいなお嫁さんと結婚する。いい話じゃない。」

 

 長引くと面倒だから、ちょっと言いたいことを言わせてもらうか。

 

 「俺はな、力というのは相応の努力をして得られるものだと思うんだよ。その勇者というのは女神さまが「力を与えます」っていう一言で力を授かったわけだろ? それって、その人じゃなきゃダメだったのかな? 例えばその人の隣にいたかもしれない人でも良かったんだけど、アタリクジのようにその人が当選した、なんて話なんじゃないの?」

 

 「そっ、そんなことないよ! きっと元々修行とかしてたんだよ!」

 

 シーナがちょっと言葉に詰まる。

 

 「かもしれないな。でも、この本にはそこまで書いてない。 ああ、もっと言うとな、王女様や聖女様? それに賢者様だっけ? その人たちと結婚して幸せになりましたといわれてもな。 その人たちは、相手が勇者だから結婚したのかな? それとも勇者じゃなくとも結婚したのかな? もし、勇者だから結婚したというのなら、相手のステータスだけ見て結婚したということだよね。」

 

 「うっ、、それは……」

 

 「さらにだ。国を作ったって言ってるけど、その土地を治める人は誰もいなかったのかな? それならいいけど、そうじゃなかったら勇者という立場を利用して強制的に統治者を追い出して、土地を召し上げたかもしれないよね。」

 

 「勇者様がそんなことするわけないよ!」

 

 ついにシーナが怒りだす。

 

 「そう。そんなことは本には書かれていない。書かれていない以上、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。だから俺の憶測も成り立つというわけ。実際のところはどうだったんだろうな。」

 

 

----------- 


 後から分かったことだと、俺の推測は当たっていた。

 

 女神とやらに召喚された異世界から来た若者は、「勇者」として扱われ、女神から授かったスキルや身体的能力で魔王とその手下を虐殺。婚約者のいた王女と旅の途中で関係を持ち、そのまま結婚。婚約者は勇者に反逆するも捕らえられて処刑。聖女や賢者も似たり寄ったり。

 

 さらに、既に領主がいた土地を、その土地が豊かで温泉が出るという理由で、領主を無実の罪で陥れ、その土地を手に入れるという非道っぷり。


 温泉に惹かれるという点が何とも日本人っぽいが、まさかな。 

 とにかく、それが歴史書上では上記の通りオブラートに包まれ、子供が皆憧れる英雄譚になり替わる。


-----------

 

 

 「どんなに能力が優れた人だって所詮人間だよ。」

 

 だからこそ、持ってしまった力をうまくコントロールしなければ自分はおろか、他人を不幸にする。この勇者の場合は、少なくとも歴史に残るほどのバッドエンドにならなかった点だけ考えれば、自分とその周りに対してだけは悪くない結果に終わったようだ。

 

 

 「グリードの言ってること、難しくて分からないよ。」

 「うーん、まだシーナにはこういう話は難しいかな。簡単に言えば、力をコントロールできない人が下手に力を持つと大変、ということ。そのうち分かるよ。」

 

 

 

 

 今はちょうど昼下がり。昼飯を食べてシーナと勉強の傍ら、この世界の文学や歴史について話を聞いているところだ。

 

 タラス山地を越える準備はもう完了していて、いつ出発しようかと考えていたところだが、あまりにもこの家の住み心地がよかったので、少しゆっくりとしていた。

 

 今日の夕飯は何かな? なんて考えていた時に、それは来た。

 

 

 ドタドタドタドタドタドタ

 

 アルバが血相を変えて3階の部屋にやってきた。

 

 「ハァハァハァハァ…… 旦那、地下室に隠れるんだっ!」

 

 それは穏やかな日々が終わることを意味した。

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