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イルベンス③

 夢。


 そう、夢の中だ。


 一人の青年がハンマーを振るっている。そのまなざしは真剣で、でもどこか嬉しそうで、きっとこの仕事が好きなんだろうと思う。


 ―――― ああ、きっとこれはグリードの記憶だ ――――


 しばらくすると、グリードの後ろから近づいてくる者がいた。


 ―――― アイ ――――


 グリードの記憶を共有しているから分かる。


 グリードと同じく黒髪の少女。グリードより確か一回り年下の彼女はグリードが働いていたゴーレム工場の工場長の娘。


 アイはグリードの目を手で隠し、「だーれだ」と問う。


 グリードは「またか」と仕事をいったん止めて後ろを振り返る。


 そして二人和やかに笑う。


 はたから見ればどう見えるだろうか? 恋人だろうか? それとも兄妹だろうか?


 友人…… には見えない。


 ただ、どんな関係だろうが二人が親密そうに見えるのは間違いない。


 そして、少なくともグリードは淡い恋心を彼女に抱いていた。


 だが、同時に暗い感情があるのも分かる。


 それはどんなに彼女のことが好きでもそれが叶うことはないという諦めだ。両親もいない非魔術師のグリードが、工場を運営する資本家の魔術師の家系であるアイと一緒になれるなんて、夢のまた夢だということをグリードは理解していた。


 幸せそう、だけど、どこか物悲しそう、そういう表情をグリードがしていることに恐らく彼女は気づいていない。


 そして、夢はいつもここで終わる。


 「…… またあの夢か」


 この世界に転生してからというもの、何度となく見させられるあの夢。単純に考えればグリードの記憶がそれを見させているのだろうが、俺は少し特別に捕らえていた。


 それはグリードの怨念とでも執念とでもいおうか。


 死んでなお、アイという少女に会いたい。


 魂が果てても、頭が、体が、それを欲しているように思えてならなかった。


 かくいう俺自信はアイという少女のことは良く分からない。客観的に可愛いとは思うが、それだけだ。


 だが、グリードが見せるこの夢のおかげでジルコニアを目指すことにしたのもまた事実。ジルコニアに行って彼女に会うのか? と聞かれれば、まだ決心はつかない。ただ、遠目でも彼女を一目見るべき、という神託にも似た自分のものではない強大な意思が働き、自分を突き動かしているように思えてならない。


 「はぁ……」


 深いため息が出る。俺からすれば非科学的な話であり、非論理的な振舞いだ。だが、行くしかない。


 「大丈夫だ、グリード。ちゃんと彼女を見せてやるから安心しろ。」


 そして再び俺は眠りにつく。




 次の日、俺はシーナを連れて町にショッピングに向かった。タラス山地を越えるために必要な装備に消耗品、そしてこの町で過ごす間に必要となる服などを買いそろえていく。


 質の良し悪しはさておき、大体のものが買い揃った。


 というより、選びようがないのだ。


 日本人だった頃の常識で考えれば、例えばテント一つ買うにしても様々なメーカーのものがあり、大きさ、素材、値段、製法などなど、吟味した挙句に決めるというものだが、この町の商店というのはとにかく品数が少ない。


 テントを売ってほしい、といったら、1人用か4人用の2択しかなく、1人用と伝えたら該当する商品は一つしか無かった。


 ということで、今はシーナと喫茶店でお茶を飲んでいた。


 「随分と品数が少ないが、ノーザンバーグと言うところはどこもそうなのか? まぁ、おかげで特に迷わず買い物が済んだが。」


 「うーん、これが当たり前だから良く分からないよ。グリードさんの生まれ故郷は違ったの?」


 生まれ故郷と言われると、日本を指すのかジルコニアを指すのか迷うのだが、とりあえずジルコニアの常識で考えることにした。ちなみに、グリードの記憶に従えば、グリードが住んでいた町はそれなりに商店が発達して様々な商品が売られていた。


 少なくとも、ここよりはましだろう。


 「ああ、少なくとも同じものでもいくつか選択肢があったと思うな。」


 その何気ない一言にシーナは少し悲しそうな笑顔で応えた。


 「そっか。でも仕方ないよ。ここはそういう国だもん。」

 「そういう国……とは?」

 「ノーザンバーグ共和国は南のサウザンバーグ王国と戦争中なの。だから私達庶民は贅沢は禁止。贅沢する金があれば政府に、軍に協力しろって言われるわ。」

 「つまり、税金が厳しいということか?」

 「税金だけじゃない。モノも食料も、その町に必要とされる量を除いて中央政府に持っていかれるの。だから、大都市とか軍隊さんがいる大きな町なら色々あるのかもね。」


 軍事統制下にあるということか、と一人勝手に納得してしまう。しかも戦争中ともなれば、シーナの気持ちを考えればちょっと無神経な質問をしてしまったかもしれない。


 「それは嫌なことを聞いてしまったな。済まなかった。」

 「いいっていいって。」


 謝罪する俺にシーナは少し慌てたのか気恥ずかしそうに手を振る。


 「そうだ、今日付き合ってもらったお礼といっては何だが、何か俺にできることはあるか? 短い期間とはいえ、居候させてもらっている身だ。融通がつく時間の範囲だったら都合をつけるが。」


 すると、シーナは目を細めて俺を軽く睨んできた。


 「年頃の娘に向かって「居候させてもらってるから俺に何かできることはないか?」って、何か卑猥なものを感じるわ。」


 「…… 勘ぐりすぎだ。」


 そんなことをすれば、激昂したアルバが俺に襲い掛かり、とにかくアルバが大変な目に会う。


 やがて、少し恥ずかしそうにもじもじし始めたシーナだが、意を決して話しかけてきた。


 「ねぇ、それじゃあさ…… グリードって算数得意でしょ?」

 「得意といわれれば…… 得意かもな。」

 「そうよね。お買い物すると気だって計算があまりにも早かったからびっくりしちゃった。」

 「…… 四則演算レベルだぞ?」

 「うっ、うっさいな! ああいうのも私苦手なの!」


 一瞬でも、一応理系かつIT技術者だったが、俺に教えられるだろうか?とか考えていた自分が馬鹿みたいだ。


 「だったらさ、私の勉強見てもらえない? 私、商人の娘なのに算数が苦手でお父さんからも呆れられてるの」


 「ふっ、それならお安い御用だ。」

 

 「やった!」


 シーナはガッツポーズをして喜んだ。


 しかし、昨日までは割と品のいい礼儀正しい子だなと思っていたが、今の彼女はかなりフラットな態度で表情豊かに接してくれる。まぁ、今の方がこっちとしても接しやすいが、昨日のあれは両親の前だけだったのか、それとも初対面だったからなのか、謎だ。



 買い物から帰った俺は、アルバに一つのお願い事をした。お願い事というか、もはや命令に近いかもしれないが、それは気の持ちようだ。


 「地下室を作りたい…… ですと?? あの、本気で言ってます?」

 「本気だ。」


 アルバのおでこに青筋がたっているように見えるが、きっと目の錯覚だとあえて無視する。


 「お前には見せたと思うが、俺はゴーレムを扱う。そしてあのタラス山地を越えるためにはゴーレムの改修が必要だ。ほら、俺の部屋であんな大きなゴーレムをいじってみろ。下手したら床が抜けて建物が倒壊するかもしれんぞ?」


 「ぐぬぬぬぬっ」


 「大丈夫。俺は錬金術にも心得がある。ちゃんと頑丈な地下室にするし、間違っても地盤沈下みたいなことは起きないようにする。約束しよう。」


 「何が「約束しよう」だよ、コンチクショウ! ああ…… でもきっと駄目といってもやる気なんでしょう? そして奴隷の俺は最後の最後で拒否できない……」


 「その通りだな。」


 「だったら俺に聞くなよ!」


 「む」


 誠実にあるがままを伝えただけなのだが、どうやらアルバを怒らせてしまったようだ。だが、どうやら許可は降りたと考えても差し支えないようだ。


 俺は、1階の倉庫の床下から錬成魔法を使って地面を掘り進んでいく。とりあえず、掘った土は異空間収納に放り込みつつ作業をすること3時間。


 見事な地下室を作り上げた。


 「どうだね、アルバ君。 ああ、俺が去った後は自由にこの部屋を使ってくれて構わない。」


 「こりゃ、たまげたなぁ…… しかも、ちゃんと壁を補強してやがる。こんな立派な地下室を作るのに、いったいいくらかかることやら…… しかも、結構な収納力。 旦那、ありがたく使わせてもらいますぜ。」


 「そのセリフ、3時間前のお前に聞かせてやりたいがな。」


 「だったら、3時間前の俺に完成図を見せてもらいたかったですね。」


 『……』


 とまぁ、こんなやり取りもあったが、無事に地下室は完成し、俺は早速ゴーレムの強化に取り掛かることにした。


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