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脱出

 この施設から脱出するために用意した、人間が搭乗可能なドローン型ゴーレム。


 名をトリスターという。


 小型のドローン型ゴーレムにもサーチャ―という名前をつけた手前、自作2号機となるこのゴーレムにも名前を付けたいと思っていたのだ。


 「そういえば、連れていくあの2体のゴーレムにも名前をつけてやらないとな」


 それは、俺を護衛するための漆黒2体のゴーレム。


 「まぁ、落ち着いたらおいおい考えるか。」


 そうして、その2体のゴーレムを見やる。心なしか、奴等の目が光ったように見えた。


 さて、トリスターである。


 トリスターにはゴーカートような簡易な作りの座席があり、その後ろにあるトランクに俺は袋に詰め込んだマジックオーブを乗せる。


 さらに、トリスターの車体の底には鉄棒のようにぶら下がれる棒が2本取り付けられている。この棒に2体のゴーレムにぶら下がってもらい、移動する。


 ほかのゴーレム達はというと、マジックオーブとパワーポットを抜かれて活動を停止してある。残念ながら全員を連れていくほどの余裕はない。あれだけの数のゴーレムを引き連れて移動するには目立ちすぎる。


 「さて、準備は整った。行くとするか。」


 宿舎の中にあった手ごろな服をいただき、身なりは整っている。誰もこの施設からの逃亡者とは思わないだろう。それに、当面の食料も食堂からいただいた。


 準備は万端だ。さぁ出発!


 ーーーーというところで、というところで魔道具工房の扉が開き、一斉に労働者達が俺のほうに詰め寄ってきた。


 「おっ、おい! もう戦闘は終わったんだよな? なぜ一人で行こうとする? 俺たちをおいていくのか!?」


 「おいおい、置いていくなんて彼が考えているわけないだろう。で、どこに逃げるんだ? ジルコニアに帰れるのか?」


  慌てた素振りをする者、念を押そうとする者、媚びる者、様々だが、言いたいことは一つ。一緒に連れて行ってくれ、というものだ。


 当然、連れていくつもりなど微塵もないが。


 こいつらは確かに俺の言う通りに動かなかった。魔道具工房で大人しく息をひそめて待っていたのだろうよ。そのおかげで俺は余計な邪魔をされることなく計画を遂行できた。その点では感謝している。


 だが、こいつらの魂胆は、俺の邪魔をしないように、ではなく、危険な事には自らの手を出さないように、というもの。俺が失敗することも当然考えていただろう。むしろ、失敗する可能性が高く、上手くいけばラッキー程度に考えていたかもしれない。


 おこぼれにあずかる

 自分のリスクは最小限に、そしてリターンは最大限に


 そんな奴らの考えが透けて見えて吐き気がする。

 もっとも、それは至極合理的な考えだ。


 ビジネスの現場でもよくあるだろう? 部下の手柄は自分の手柄、部下の失敗は部下のせい。そんなどうしようもない上司に何度泣かされてきたか知れない。


 あの時、「微力ながら俺達も戦います!協力させてください!」とでも言われれば、どれだけ状況が違っていたか知れない。そんな奴が一人でもいたら、仮にその提案を拒否して工房にいてもらったとしても、そいつくらいは助けることも考えただろう。


 だが、そんな奴は誰一人としていなかった。


 だからこそ、俺も躊躇なく非道になれるというものだ。


 俺は何も言わない。ただ彼らに対して笑いを浮かべる。

 それはきっと彼らには是、つまり、一緒に連れて行ってくれる、と取られるだろう。現に、俺の表情を見て安堵している者もちらほら。


 そんな奴らに一言伝える。


 「俺が有しているゴーレム…… 俺のような若造に扱わせるのは危険すぎる。自分たちこそそれを管理するにふさわしい…… だっけ?」


 あの時、魔道具工房の外壁にはサーチャーを張り付かせ、俺は工房内部の会話を聞いていた。


 すると、彼らは俺の言葉に途端に顔色を悪くする。


 「つまり、俺が努力して生み出した俺の所有物を奪い、自分のものにしようと? こっちが懸命に戦っている間、貴方たちは安全なところに閉じこもって、さらに俺の物を奪うことを正当化し、画策していたわけだ。 で、そんな貴方たちと一緒に行動できるとでも?」


 「ちっ、違うんだ! 私はそれに反対した!」

 「あれはその場の勢いというやつで……」

 「こっ、こいつだ! こいつが言ったんだ!」

 「なにをっ? お前だって!」


 なんて醜い言い争いを始める始末。自分だけが助かるために平気で他人を蹴落とす。もっとも、俺もそうだが、だからこそ、俺も自分勝手にやらせてもらう。


 「もういいんですよ。 俺は貴方たちと一緒に行動するつもりはない。 そして、その方法も既に計画済みだ。」


 俺のやれ、という合図を受け、漆黒のゴーレム1号がとある魔術を発動させる。


 本来はゴーレム自身の重すぎる重量を軽減し、その動作を軽快にさせるための魔法。それは重力APIと呼ばれる重力を扱うための魔術式であり、その使い方を工夫すればこんなことだってできる。


 ブウォン


 「ググッ!? 一体何を?」

 「ゲフッ 苦しい……」


 彼らは次々と膝を屈し、さらには地べたに這いずる。そんな彼らを見下ろしながら俺は口を開く。


 「別に死にはしませんよ。殺すつもりはない。 貴方たちにかかる重力をちょっと重くしただけです。 知っていますか? 急に重力がかかると人間って気絶するんですよ。」


 当然、魔術をプログラミングする際にはゴーレムのマスターを対象から除外するようにしてある。だから俺には無害だ。


 「どれくらい気絶しているかは分かりません。ただ、もしもこの国の兵士が来る前に目が覚めたらとっとと逃げればいいと思いますよ? 目覚めるのが先か、追っ手の兵士がここに来るのが先か…… まぁ、頑張ってくださいね。」


 そして、踵を返してトリスターに乗り込む。


 「ま、待って……」

 「済まなかった、だから……」


 その言葉を最後に、全員が気を失った。


 気絶した彼らを一瞥すると、俺はトリスターを起動させる。トリスターは5メートルほど浮上し、移動し始めると速度を上げ、東門を突き抜けた。


 グリードがここに連れ去られてから1年。俺がこの体に入り込んでから約1か月。漸く俺は自由の身となった。


 ここから俺の第二の人生がスタートする。


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